僕の番が怖すぎる。〜旦那様は神様です!〜

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二章 あいつの存在が災厄

Ωは素晴らしく具合が良いぞ? 参

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「そっか、姉ちゃんがいんのか。
お前の姉ちゃんならビックリするくらいの美人だろうな」

 からっとした邪気のない笑いをして彼は答える。

 (この笑顔はあいつと似ているな)

 まっすぐ僕を見つめる目にはさっき僕に迫ってきた者たちのような、情慾の色などが一切ないのも良い。

 少し話をしたらこの人族の男こと綱はわりと良いやつで、自分もあの醜いヒヒ爺や猿どもに閉口していることを話してくれた。
 何故かオスの筈の彼も迫られたことがあるらしく、綱の知人である『みつ』が怒り狂い、事なきを得たそうだ。

 やつらは漁色が過ぎないだろうか?

 綱は『源氏』という一族の出身で、その『光』という知人の家に行く前に、市へ土産を買いに来たらしい。

 綱の話によると、やつらは人族の貴人らしく下手なことをすると、危なくなるような地位の『ミカド』という奴も居たそうだ。
 それで買い物の途中であったが僕の事を助けてくれたらしい。

 僕は鬼の郷、神奈備カムナビに住むからここにはあまり来ないし、来ても朱天や他の誰かが付き添っているが、綱は本当に大丈夫だろうか?
 庶民の様な格好(直垂ひたたれ)をしているが、生地などは上等であるし、髪も体も垢じみたりしていることもなく、清潔に整えられている。

 彼も貴人なんだろうか?

 こんなことをしたら綱も危ないかと思うのだが、件の『光』が彼を過保護に守っているそうで「常にあいつがてるから気にすんな」と言われた。

 (監視されてるんだ…)

「でもなぁ…光は、んなもん関係ねぇって感じだし…簡単に殺るし、隠滅に喰うし…」
「僕も鬼なので関係ないが…あいつは奴ら全員を惨殺するだろうなぁ…」

 僕らは共に過激な保護者に守られているみたいだった。


 ───僕と綱は庇護する者や置かれている境遇などにとてもよく似たところがあった。


 互いに呟いたことに気まずくなり、顔を見合わせて「「あはは…」」と笑い合ってしまった。

 奴らが例え鬼であろうがなかろうが、うちの旦那はそういったことは全く無視する。
 掟を破ったものを罰するのが務めの筈なのに、あいつは自分が掟破りを度々している。

 それで義父から毎度折檻をされているのに懲りない。

「お前の百合なんて名前は女みたいだけど、気になんねーの?」
「……お前はまた失礼だぞ!」(オイ!名前が女とか失礼すぎるぞ!)
「あ、悪ぃ…すまん!」

 綱は少し無神経なところがあり、このように度々失礼な発言をする。
 けれど僕が注意するとすぐに謝り、非を認める。

「これは鬼の名付けに基づいてしていることだから普通だ。
字ではあるが、僕が持つ【華】は庭白百合だからな」
「【華】?なんだそりゃ?
そういやお前の首とか手とかにも、青い薔薇の入れ墨みたいなのがあるな?」

 不思議そうにして僕の腕などに咲く、朱天の【華】を触ったりしながら

「そういや、光の首もとにもピンクの花があったな?」

 なんて呟いているが、いきなり触るなんて流石に無作法がすぎるので窘めた。

「おい!せめて断りを入れてからにしろ!」
「あ、悪ぃ…」

【華】は鬼しか持たないので珍しがるのもわかる。
 ちゃんと謝ってくれるので許すが。

 (全く、そんなことばっかしてたら、さっきから話している『光』とかいう交際相手?に嫌われるぞ…)

「綺麗な銀髪と銀目で色も吃驚するくらいに白いし、…お前、ほんっとに綺麗だよな!」

 物事を素直に受け止め、このようにそれを率直に言う。
 良くないこともあるが、憎めない性格をしている。
 なにより魂の美しさといい、笑顔といい、心身が清らかで好ましい。

「容色については褒められ慣れているからどうでも良い」

 良くそう言われるが、朱天のように中身が好ましいとか言うやつはなかなかいない。

 (まぁ…が良いものは鬼の中でも少ないから仕方ないが)

「なぁ、なんで庭白百合なのに青薔薇なんだ?」
「夫の持つ【華】が青薔薇だからな。
鬼は番にそれを与えて愛を示す誓約の呪いを掛ける」
「え!…呪い?」
「相手の利になるものだ」
「そ…そうだよな、愛の誓いならそうだよな!」

 未だに僕の肌に咲く朱天の【華】を触る綱。
 僕もそろそろ真剣に【これ】について考えなくてはいけない。

『お妃様は若様を愛していない』
『朱点様はお妃様に袖にされている』

 こんなことをずっと言われている。

「んじゃ、お前が百合なら旦那の名は『薔薇ソウビ』やショウビとかになんのか?」
「いや?二つ名は朱天だ」

「は?」

 興味津々に僕の肌のそれを見て、たまに触ったりしていた綱が静止した。

「夫は僕ら鬼族の皇子、朱天だ」

 それを告げた瞬間、綱の顔は驚き強張った。
 そして早口でまくしたて、僕に詰め寄る。

「いやいやいやいや『酒呑童子』なんてヤバ過ぎだろう!
おれも『渡辺 綱』だし、不味い!マズ過ぎる!!」

 彼はかなり顔色を悪くして、慌てている。
「大江山」、「童子切り」、「毒酒が…」とか言っているがなんだろうか?
「茨木」や「腕」なんかも言っている。

 (なんで彼女を知っているんだ?)

 どちらにしても何か誤解しているようなのでそれを正す。

「何を言っている?夫は酒呑童子なんて二つ名は持っていない。
従者に四童子と茨木はいるが…」
「やっぱりか!マジかよ?!ヤバいしマズいわ!!」
「お前はさっき僕に『源 綱』と名乗ってなかったか?」
「あー、それはだな…色々と事情があんだよ」
「なんだ?さっきからホントにおかしなやつだなぁ…」

 本当に不思議なやつだが、こいつも二つ名を持つのかもしれない。
 人族には少ない筈だから珍しい。 
 (魂の色も強く清い『青』であるし不思議すぎるやつだな)

「リリィ、探したよ?」

 姉が来た。
 
「……………………」

 姉を見た瞬間から綱は黙りこんだ。
 その顔を見るとどうやら姉に見惚れているらしい。

「百合、お前の姉ちゃん…凄え、美人だな………」

 口を開いて出たのはそんな言葉。
 さっきからそればかり言っているが、容色ばかり褒めるのは良くないと思う。

「ふふっ、ありがとう、少年。私はこの子の姉のフレイヤだ」

 嫣然と微笑む姉。

「媚びる必要なんてないよ姉様、お義姉様に怒られるよ?」
「ヒルメはそんな狭量ではないよ。
『私の紅薔薇の美しさに平伏すが良い』なんて言いそうだけど?」

 (お義姉様ってそんな方なんだ…)

「おねえさんみたいな方とお付き合いできたら幸せですね!」

 (何言ってんだこいつ、図々しいな!)

「残念ながら私には伴侶もおり、娘もいるのでそれには応えられない。
だが、称賛はありがたく受け取るよ。ありがとう少年」
「いえ、こんなに美しい方がフリーのハズはないし、無理だと分かっていましたから」 

 仄かに赤い顔をした綱は姉に対してはわりと礼儀正しかった。

「リリィ!お前の態度は良くないよ。
人族にも敬意を持ちなさい。人種差別はいけない」

 姉は先程から僕らの遣り取りを見ていたらしく「助けてくれたのに失礼だろ?」なんて言う。 

「でも…【青】の教育係が『人族は醜く、弱く、愚かで下等な生き物』って言ってた…」
「…奴らはもう少し締め上げなければいけなかったな」

 耳長は他種族に無関心だからそんなことは言わない。
 けれど、そう言われ鬼の…【青】の教育はされてきた。

 姉は「まいったな…」なんて呟いてから額に手を遣りため息を吐いてから、僕にお説教をはじめた。

「朱は…アイツはそんな事は絶対に言わないだろう?」
「確かにあいつはそうだけれど…」
「それに、お前も散々『半耳長』呼ばわりされて嫌だっただろう?」
「それは、嫌…だったけど………」
「自分が嫌だったことをひとにしてはいけないよ」

 そこまで言うと姉は「メッ!」と僕のおでこに軽くデコピンをした。

「………」

 痛くはないが言われた言葉は痛かった。

 散々【青】や異母弟の友人である他の四家の同年代の者たちから、ずっと言われていて今でも叩かれる陰口。
 寄越される蔑みの視線。

 異母弟はそんな奴らを注意していたが、奴らの態度は変わらなかった。

 そんな風に彼に接しているつもりはなかったが、教えられてきた認識をいきなり変えるのは難しかった。
 綱が良いやつで、さっきの奴らと全然違うことはよく分かっている。
 だが、いきなり言われてもなかなか難しく、僕は俯いてしまった。

 そんな僕を放っておき姉は綱と話をしだした。

「なぁ少年、君は『あちら』から来たもののようだ。
【青】由来の魂がえる。
出身は?私は日本だとは思うが詳しくは覚えていない」
「な?!な、ななんで!おねえさんもなんですか?!
おれは京都なんで、今とあまり変わらないというか、時代を遡行して生まれ変わったのかと…」

 姉は昔から時々不思議なことを教えてくれた。
 言葉やお話、色々な食べ物や習慣。
 そんな『青の世界あちら』のことを知っている者である姉。
『異世界転生者』などとも言うらしい。

 綱はどうやらその『異世界転生者』であるらしい。
 姉自身も転生するものであるが、元は耳長の始祖のひとりだ。
 何回目の転生かは知らないが、度々転生を繰り返しているそうだ。

「それは、違う。似ているが全く違うから。
だから時々おかしなことをするやつが出てくるんだ…本当に困るんだ」

 姉はまたため息を「はぁ…」と吐いた。
 まだ綱と会話を続けるらしい。

「よし、少年。お姉さんがこの世界のことを教えてあげよう」
「本当ですか?!お姉サマ」
「代わりにこの子の、リリィの友達になって欲しい」

 ───僕らにとんでもない提案をこの時姉はした。
 綱はそのことを知らなかったが、異種族。特に鬼との交流など、彼の一族『ゲンジ』ではありえなかった。

 
「「なっ?!」」


 姉の言葉に僕は顔をあげる。
 綱も不服みたいでそれはそれで腹が立つ。

「この生意気なチビと?!」「頭の悪い人族のオスのガキと?!」

 言われた言葉にカチンとくる。

 (誰が生意気なチビだ!)

「姉様!勝手に決めないでよ!」「お前もガキだろうが!!」

 姉に抗議するが綱も僕に文句を言ってきている。
 こんなんで仲良く出来るはずがない。

「ハイハイ、ふたりともとても仲が良いみたいで良かったよ」

 姉はそんな僕らのことなど意に介さず、いつもの飄々とした調子でパンパンと手を叩いて話を続ける。

「それじゃあ少年、この子の旦那様はそれはもう、恐くて怖ろしくて危険なヤツだ」
「はい?!イヤイヤその紹介では嫌な予感しかしないですよ!お姉サマ!!」
「だから、私からプレゼントをあげよう」

 綱は慌てているが、姉は全く意に介さない。

「え?あ?ヘッ?」
 
 姉が綱の額に中指で何かを描き、最後に口づけた。

「『アルジズ』の印を授けた。
新しく結ばれる友情にも良いだろう」

 少しからかう様に笑い、最後にウインクをする姉。

「な、ななんなんですか?」

 綱は真っ赤になって額を押さえている。

「お前、姉様からルーンを貰うなんて凄いことなんだぞ!」

 耳長の女王であるフレイヤから直接加護を与えられるなんて滅多にないことだ。
強き魂を持つ戦士ᛖᛁᚾᚺᛖᚱᛃᚨᚱ(エインヘリャル)】と呼ばれる傭兵たちくらいにしか、他種族には簡単に与えない。

 どうやら姉は綱のことをかなり気に入っているらしい。
 出かける前に綱に授けた『ᛉ』を、友情と保護などを意味するそれを僕に見せていたので、この出会いをていたのかもしれないが…

「もうすぐ怖ーいのが来るからその前にね。おまもり?かな」

 そんなことを言っていると不意に後ろから…
 とても怖ろしい、震えがくる、あの・・気配を感じた。
 とても良く知る、あの・・青薔薇の匂いもする…

 それは、

 だんだん、

 だんだんと近づいて、


────


 僕にしか聞き取れない真名で声をかけるのは、僕の番で旦那様。

 噂をしていたら朱天が来た。



    
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