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二章 あいつの存在が災厄
Ωは素晴らしく具合が良いぞ? 弐
しおりを挟む「なんと美しい姫じゃ、是非とも我が妃に」
「このような美姫を見つけられたのは僥倖じゃ」
「なんと!あの恐ろしい【赤鬼】の妾か!」
「あやつは多数のおなごもおのこも妾にして飼って、犯して、喰らうと聞いた」
「怒った顔も美しい…」
「姫の杞憂を余が取り除こう!」
「芳しい百合の薫りがするのう…」
「その銀の髪と瞳は本当に美しい。閨で侍らせ堪能したい」
こんなことを言われ、人族のオス共に猛烈に迫られた。
一緒に来ていた姉は姪への土産を買うための支払いに行っていたから、少しの間だけ僕ひとりになっていた時にそれは起きた。
鬼族でお前らとは種族も違うと言っても、
既に朱天の妃で身籠っていると言っても、
お前たちは全然好みじゃないと言っても、
それでも怯まない頭の湧いた奴らがうざかった。
ヒヒ爺や醜い猿みたいなやつらというのも嫌になる。
どことなく目が血走り、情欲のこもった視線が気色悪い。
お前らうちの旦那はマジに怖いやつだから、本当に知らないぞ?
簡単に殺すし、魂すらも【消去】し、嬉々として惨殺するぞ?
鬼族の掟では番に手を出されたら何でもして良いんだぞ!!
朱天は僕や義母には優しいが、罪びとや敵対するものなどには容赦がなく、えげつない仕打ちをする。
相変わらず凄まじい惨殺現場を簡単に作り上げるし、僕や義母以外は兄弟などの身内ですら、ためらいもなく平気で殺す。
実際に兄姉たちを惨殺して、解体して、喰ったし、僕に喰わせたからな…
(またあれを思い出したよ!…おぇッ)
どうするか迷っていたが、突然手を引かれ連れ出された。
「少し、走るぞ」
そんな風に声をかけられ黒髪の男の導くまま市の中を駆けた。
しばらく走り、いくつかの辻を曲がり路地裏に入ってから男は止まった。
男は僕より少し歳上の人族のオスの子どもだが、強い魂を持つ者を見て育った僕ですら驚くほどの、美しく強い魂を持っていた。
その身に宿すのは澄み切った穢れのない清廉な魂。
「あ、お……」
そう表現することしか出来ない息をのむほどに美しい魂に驚き、思わず口に出してしまった。
彼の持つ魂は『青』。
それは僕の生まれた家の者たちが持つものだった。
そんな【青】の家の者の誰よりも強く澄んだ色を持つこの男は何者だろうか?
「な、…んで、知っ、…て、る?」
僕と違い少し息のあがった男が言う。
ほんの一瞬だけ驚愕の表情を見せたが「まさ、か…な」と呟いた。
結構な速度で駆けたので彼はまだ息が乱れている。
「大、丈…夫か?こん…なに、小さ、い女の子に、盛…る、なんて…あいつらおかしいだろ?」
呼吸をを整えつつ僕に質問してきたが、
「僕は男だ」
あまりに失礼なことを言うので、人族のガキに訂正を入れる。
「は?!マジに?ホントに?!着ているものとか女っぽいけれど?なんでだ?腹もなんかデカいみたいだけれど、なんで???太ってないよな?栄養失調ってわけでもなさそうだし…」
(こいつ魂は綺麗なのにめちゃくちゃ失礼なやつだ!)
色々と混乱して早口で僕に問いかける、僕より少しくらい歳上らしい、人族のオスのガキに説明してやる。
「僕ら鬼族には男でも子を孕み、産むことが出来るΩという性がある。
郷を出てこの市などに来るのは、αの者ばかりだかりだから知らないんだろう」
着たくて着ているわけではないが、お腹が大きくなってきたこの頃は、女物に近いものを着せられてる。
それに近頃は朱天が『俺の色を纏え』なんて独占欲に満ちたことを言うので、仕方ないから朱色の物を着ていた。
(ちょっと嬉しかったのはあいつには秘密だ)
「初耳だし、マジかよ?!そんなん知らねぇし、ここは平安時代じゃねーのかよ!はー何だよ何だよなんなんだよ!!」
頭を抱えてなにか色々と不思議なことを言っている人族のガキ。
こいつは人族にしたらわりと見目も良い。
(黒髪に黒目で地味だが)
体付きも僕より大きく、二、三歳くらいは年上かと思う。
「まぁ…僕一人でもなんとか出来たが、感謝する」
実際になんとか出来たと思うが、お忍びではなくなりそうだったので逡巡していた。
だが、助けてもらったのは確かだ。とりあえず礼は言っておく。
頭の悪い下等な人族のガキだが、それなりに助かった。
『人は愚かで醜く弱い』と【青】の教育係教えられていたが、こいつは少しばかり違うらしい。
「お前、滅茶苦茶偉そうだなぁ…」
「それなりの身分は持っている」
姉が言うには『お忍びデート』なので身分は名乗ってはいけないと言われている。
呆れた顔をされているがなぜだろうか?
「てか、お前いくつだ?その歳でガキ作って大丈夫なのか?
体とかにも負担がかかる筈だ。大丈夫なのか?」
こいつは僕を咎めるような口ぶりと視線を寄越して妙に絡んできた。
「僕は次の正月で十三になる」
「は?!十三!となるとかぞえだから…十一か、十ニ歳?!
いや、若すぎてヤバいだろう、幼すぎだろう!!」
確かに僕は少しばかり早く嫁いだから、これに関しては反論出来ない。
子どもを身籠るのも早すぎると言われた。
「オイ!旦那はどんな鬼畜だ?無理矢理とかじゃねーよな?」
男は僕の肩に手を置いて問い詰めてきた。
「夫も僕も鬼だ」
色々と失礼なやつだがあいつが鬼なのは間違いではない。
無理矢理ではあったが、大事にしてもらっているし、僕もあいつに惚れている。
それによく分かっていないようなので傘を取り、
「お前はこの角が見えないのか?」
額から生えている『【皇】の金色の角』を指差す。
他の鬼に比べると肌の色も白く耳も大分長いがちゃんと角はある。
義父が年に数度ほど、人族や妖族の前に姿を見せるので、この角を見たら普通なら恐ろしくて手出しなどしない筈だった。
大丈夫だと言われ安心していたが、実際にはあんなにも絡まれた。
(あいつらにもわざわざ角見せたのに…)
「それもなんでだよ!鬼にエルフに妖怪とかもいるとかもーわけ分からんっ!!こっちに生まれてから不思議なことだらけだッ!」
(お前の方こそさっきから言動などが不思議で挙動不審なんだが?)
【青】の魂を持つ者だから『青の世界』の出身なのかもしれないが。
「…にしても、孕ますってことは旦那?だよな?そいつとかは一緒にいないのかよ?」
「夫は今は狩りに行っていて少し離れて行動しているが、先ほどまで姉が側にいた」
朱天は茨木と四童子を連れて狩りに出ている。
姉が連絡したというから、合流して芸人の出し物でも観て帰る予定だった。
(お前が連れ出したから、姉様が慌てて探しているだろうが…)
「本当に偉そうなチビだなぁ…着てるもんとかも上等だし、お前どっかの若様か何か?」
(チビって言うな!)
僕の父の背はかなり大きい。ひょろくてガリガリだが。
母はそんな父よりもさらに大きく、Ωでは珍しいくらい体格が良かった。
(それでメスに大人気だったらしいけど…)
そんな両親の子なのに僕はちょっと背が低い。
乳母などからは『好き嫌いをすると大きくなれません!』と散々言われてはいたが、緑色のやつは大体が苦くて嫌いだ。
それよりも僕に名乗れと言うのなら、自分から名乗るのが礼儀だ。
そんなものも身についていないのかと呆れてしまう。
やはり人族は知性や品性に欠けるのだろうか?
「イヤイヤイヤイヤ!旦那がいるから嫁?に行ってんのか?なんだよそれおかしいだろ?だから光のやつも『嫁にする』とか言ったのか?!おれは男は無理無理ッて言ってんのに全くあいつはッ!孔雀サンも『若様の嫁御となられるなら』なんて妙にきっついし…待てよ?光の愛人だしあのひとも『おめが』ってやつか?イヤイヤあいつはガチに男しか駄目なやつだったろ!あーもー頭が混乱するっッ!!」
さっきから頭を抱え色々と喚いているこいつがうるさい。
「それより、僕に先に聞くよりも名前くらい名乗れよ人族のオス」
【青】から付けられた偏った思想の教育係の言うことだから、そこまで信じていなかったが…
(やっぱりあいつらの言うように人族は頭の悪い生き物みたいだ)
だが、僕の指摘でさっきまでの礼に欠いた態度に気づいたこいつが「すまん」と謝りを入れてきた。
「お前、ちょっと失礼だったぞ」
「悪かった。とりあえず自己紹介な。おれは綱」
着ているものの埃をなどを払い、軽く立礼をしてから名乗ってきた。
「源綱だ。歳は今度十六になる」
そう言うとニカッと笑った。
意志の強そうな太めの眉に切れ長の瞳はとても鋭い。
なのに口角を上げて笑う人懐っこそうに見える笑顔が魅力的だった。
───綱は、その笑顔も赤ちゃんみたいに無垢で穢れがなさ過ぎる魂も、全てが好ましかった。
僕が欲しくても持てなかった【青】の強い魂を持つからかもしれないが、粗野なうえに少しばかり無礼な彼に何故か強烈に魅せられた───
こいつ、綱はそれなりの身分があるらしい。
さっきまでの態度はないが、ちゃんと礼儀を知っているし、姓を持っている。
体も程々に鍛えているみたいで栄養状態も悪くない。
「僕は百合だ。姓は持たない」
嫁ぐ前は【青】であったけれど、今は無い。
(その代わりに妃って付く筈なんだけどね)
朱天から呼ばれるようになった僕の真名である『紫』。
その名は相変わらず朱天以外には名乗れず、その名で呼ばれることも出来なかった。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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