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059 魔法指南

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 「ストーンランスも見事だったが、こいつは良いな。これなら野営の見張りは要らないだろう」

 「土魔法のお陰で、一人でも何の問題も無く遣って行けている。それより、肩を治療してみるから座ってくれるかな」

 「良いのか、治療費を払えるほどの手当は貰ってないぞ」

 「気にしなくて良いよ。治せと命令してくる奴からは、たっぷりとふんだくるから」

 (鑑定!・症状)〔八十肩〕思わずずっこけそうになってしまったが、八十肩って何だよ。
 四十肩や五十肩は知っているが八十肩って笑っちゃうね。

 まっ、治る様に願って(ヒール!)(鑑定!・症状)〔健康〕ん、良し!

 「ちょっと腕を動かしてみて」

 「おお、腕が上まで上がるぞ。肩も軽いな♪」

 (リフレッシュ♪)

 「おおぉぉぉ、きんもち良い~♪」
 「親爺、気持ち悪い声を出すなよ。引くわ!」
 「馬鹿! リフレッシュがこんなに気持ち良いとはなぁ~」
 「てか親爺、髪はさらさらお肌つやつやだぞ。ちょっと気味悪いくらいだぜ」

 「初めて使った時に止められたので、忘れていたよ」

 「何でだ? 此れだけで十分食って・・・食うだけならいけるだろう」

 「金持ちは少ないし毎日回るのは大変だろう。そこいらのおっかさんやお姉ちゃんには一回銅貨一枚は高すぎるんだ。毎日お声が掛かるとも思えないしね」

 「確かにな、ユーゴなら森で獲物を狩っていた方が稼げるだろう」

 陽が落ちる前に30メートル程の所に標的を立て、グレンの雷撃魔法を見せて貰う。
 的に向かってドームに窓を開け、打ちっぱなしの様にしているので椅子に座って見物だ。

 「天に轟く雷鳴を、アッシーラ様の力を借りて我が手に与え、我の指し示す物を滅ぼせ!・・・ハッ」

 〈バリバリドーン〉

 ・・・惜しいっていうか、30メートルの距離で的から1メートルも外れている。
 雷撃なので周辺も巻き込むから何とかなっていたのだろう。

 (鑑定!・魔力)〔魔力・81〕おいおい、魔力の使いすぎだぞ。
 何も教えずに二発目三発目を射って貰い、鑑定で魔力の使用量を確認する。
 二度目の魔力残が72、三度目が63と使用量も安定していないし、的に当たったのは三発目の一回だけ。

 「どうかな?」

 「先ず命中率が悪いし詠唱が長すぎる。それに魔力の使用が安定していないね。助言をしても良いが、他者に漏らさないと約束は出来るんだろうな?」

 「約束する!」
 「俺もユーゴから教わっていたとは話さないよ」

 「尋ねられたら、魔力切れになるまで必死で練習したとでも言っておけば良いよ。グレンは、魔力をどうやって送り出しているの」

 「どうやってと言っても、魔力溜りから腕を通して獲物に向けて流すんだろう」

 「確かにその通りだけど、どれ位の魔力を流しているのか判っているの? と言うか魔力の扱いって知っている?」

 「ああ、魔力溜りの魔力を感知して、それを腕に導き送り出す練習だろう」

 「間違っちゃいないけど、魔力の扱い方から練習だね。グレンは10発前後魔法を射てば魔力切れになるだろう」

 「その日によって多少の差は有るが大体その通りだな。と言うか判るのか」

 「さっき一発撃つ度に、鑑定で魔力の減り具合を見ていたからね。先ず魔力の扱いだけど、パンを作る時に生地を捏ねたり伸ばしたりするだろう。感知した魔力を、そうやって捏ねたり伸ばしたりすることからだな」

 二人がヘッといった顔になる。

 「ユーゴ、パンなんて物は買う物で自分で作ったりしないぞ」

 あちゃー・・・そうだった。
 趣味でパン作りをする日本と違い、食事の為に各家庭でパン作りをしていたら生活が出来ないんだった。

 「それじゃー魔力を感知して腕に導くことが出来るのなら、導いている魔力を半分に出来るかな。練習したのなら半分にしたり出来る筈だよね」

 グレンが難しい顔をして、魔力の操作が出来るかどうか試している。
 長くなりそうなので、オールズに断って俺は結界のドームで先に寝る。

 翌朝グレンが眠そうな顔で、魔力の使用を半分にすることが出来ると思うと言ってきた。
 流石は実戦で魔法を使ってきただけはあるなと感心するが、グレンって凝り性かな。
 朝食後15メートル先に立てた的を狙って射って貰うことにした。

 「こんなに近くに射つのか?」

 「確実に的に当てる練習も兼ねているからね。魔法は当たらなきゃ意味がないのは判るだろう。それと詠唱は短く、あんなに長い詠唱をしていたら獲物が逃げるよ」

 「どうやって? 教えられた一番良い方法で魔法を使っているのだが」

 「『天に轟く雷鳴を、アッシーラ様の力を借りて我が手に与え、我の指し示す物を滅ぼせ!』、て詠唱していたよね。その詠唱で本当に必要な文言ってなに?」

 またグレンが難しい顔をして考え込み始めたので、氷結魔法を削除し雷撃魔法を貼付すると〔雷撃魔法×11〕に変化した。
 他人に教える時は魔法の在庫が減るのが早いので、機会があれば魔法一つに付き在庫は20以上を目標にしよう。
 50メートル程離れた場所に標的を立て、グレンに手本を見せることにした。

 「グレン、よく見ていてね」

 グレンに横に立って貰い、50メートル先の標的に向かう。
 〈雷撃!・・・ハッ〉〈バリバリバリドオォォォン〉

 「凄ぇぇぇ・・・親爺の言っていた雷撃ってこれか!」
 「ユーゴ、短縮にも程があるぞ!」

 「でも魔法は射てるし的にも当たっているよね。魔法を射つ時は目標から目を離さずに、必要な魔力を魔法と共に的に向かって流すだけで良いんだよ」

 そう言って二度程雷撃魔法を射った後、ストーンランスを三連射し再び雷撃魔法を三連射してみせる。
 最後にドームから20メートル程離れた所に立たせ、俺がドーム内から水平に雷撃魔法を射ってみせる。

 「雷撃は上からだけでなく水平にも射てるんだよ。雷様を見たことがあるだろう、雷光は横にも走るんだよ。但し水平に射つ時は、20メートル以上離れた所から雷光を出さなけりゃならないので難しいんだ。目の前の的に雷撃を撃てば、自分も巻き添えを受ける事になるから注意ね」

 呆気にとられて固まっている二人に聞こえているのか疑問だが、一応注意はしておく。

 その後15メートル先の的を狙い、分離できた魔力を使った雷撃魔法を射ってもらう。
 それも一発射つ度に、魔力溜りに魔力がどの程度残っているのかを確認させながら射たせる。
 21発で魔力切れを起こして昏倒したので、オールズに時計を渡して目覚めた時間を報告する様に言っておく。

 俺は雷撃魔法を削除し氷結魔法に戻してから周辺を散策して、夕食用のヘッジホッグを狩りに出掛けた。
 冒険者が多く王都周辺には獲物が少ないと言われるが、索敵範囲が80~100メートルもあれば結構獲物は見つけられる。
 陽も少し傾き始めたのでドームに帰ると、オールズが預けた小弓で熱心に練習をしている。

 グレンが目覚めたのはきっちり八時間後、俺の時も八時間だったので魔力切れからの回復には八時間必要なのかな。
 (鑑定!・魔力)〔魔力・92〕
 魔力が満タンな時に再度魔法攻撃の練習をして貰うが、今度は一発射つ度に魔力の残量確認をする。

 鑑定結果は92,87,82,78,72,67,63,59,54,48,44,と魔力が減っているので、平均5ずつ魔力が減っているが多少の振れ幅がある。
 グレンに魔力の減り具合を用紙に記した物を見せる。

 「的から目を離さずに魔力を流すと。命中率が上がるだろう。当分これで練習して貰うよ。魔力も今の状態でやり、的も今の距離でだ」

 そう言ってお茶を振る舞い、グレンの様子を観察する。
 魔力が92で魔力切れから回復迄に8時間、て事は5分ちょいで魔力が1回復している事になる。
 俺の場合は魔力が73で回復迄に8時間掛かっていたので、魔力量に関わらず魔力切れからの回復には8時間を必要とするのかな。
 但し魔力が1回復する時間は、俺の時には6分半掛かっていたので高魔力保持者の方が回復には有利なようだ。

 現在俺が魔力切れから回復するまでの時間は約6時間、魔力切れを続けた結果だと思われる。
 それに伴って魔力が1回復する時間も、5分を僅かに切る迄になったのでもっと精進しないとな。

 * * * * * * * *

 五日ほど練習をして一度王都へ帰ることにした。
 その際現在使っている魔力の半分量を取り出せる様に練習するようにと言っておく。
 現在20発程度射てるが、練習すれば40発は楽に射てるだろうと言うと真剣に頷いていた。
 二週間ほどしたら又訪ねて行くと約束して家に帰る。

 用事が有れば書面を入れておく様にと書いた張り紙を残して行ったのだが、ドアに開けた細い隙間から入れられた用紙が散乱していた。
 下に箱を置いていたのだが、紙切れ一枚なので真っ直ぐ下には落ちないのを忘れていた。

 散乱している用紙を拾っていて違和感に気付き、即座に結界を張り何事も無い様に拾った紙を束ねる。
 気配察知になにも引っ掛からないので居ないのか、其れとも完璧に気配を消しているのか。
 居間と食堂兼台所を仕切るカーテンを開けたが誰も居ない、トイレにも居ない。

 新年の宴以来常に監視の目を感じるが、敵意が無いので放置していたのだが考えが甘かった様だ。
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