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第613話 カバディ
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カバディ部出し物『ミニゲーム』。
――ルール――
・攻撃と守備を交互に三回行う。
・防御は攻撃手がボークラインを越えるまで触れてはならない。
・ボーナスあり。(1点)
・人数は七人まで。(経験者は三人分にカウント)
・守備成功時は1点。
・暴力行為、点の動かない遅延行為は禁止。
・他、基本的なルールはカバディの公式ルールに準ずる。
「フェニックスよ。わしから行っても良いか?」
ぐっぐっ、と軽くストレッチしながらサマーちゃんが聞いてくる。その眼は既に草苅君を見ていた。
うむ、明らかに戦士の眼。これは止める方が失礼と言うもの。
「いいよ。お金出したのサマーちゃんだし、好きに攻撃やってよ。掛け声忘れずにね」
「うむ」
役者の揃ったコートで、サマーちゃんがミッドラインを前に一度止まり、草苅君を改めて見る。ふわりと舞う三つ編みは身体全体の躍動感を印象付けた。
「サマーさんは髪の毛が長いので、髪の毛は判定外にしましょう」
草苅君が気を使ってそう言ってくる。タッチが基本となる競技だ。長い髪を振り撒く選手は居ないのだろう。
「――――」
しかし、サマーちゃんは深く集中していた。この辺りの非凡性は流石と言える。そして――
「カバディ」
掛け声と共に敵陣へ入る。
どのスポーツにおいても、高い身体能力と言うモノは優位と言えた。
相手より筋力があれば。
相手より手足が長ければ。
相手より速ければ。
相手より大きければ。
それらの要素はスポーツ選手からすればどれか一つは持っておきたいモノだ。
どんなスポーツでも個人の能力が光る瞬間がある。練習量が同じならその際に優劣を決めるのは身体能力だろう。
サマー・ラインホルト。12歳。女子。
年齢と性別通りの彼女の体格は小柄な女子だ。加えて、カバディ経験のない初心者の女の子。
眼を引く見た目や、力強い言葉は非凡ながらも身体能力の上限は変えられない。故に――
「カバディ、カバディ」
隙だらけで歩いてくる彼女を即刻倒すなどと言う考えは流石に持てなかった。
「カバディ――」
キャントをする彼女は真っ直ぐボークラインを目指す。草苅は彼女のタッチを警戒しつつ退路を塞ぐ様に回り込む。
「カバディ」
サマーの足がボークラインを越えた。その瞬間、導火線に火がつく。
爆発する前に押さえ込む。草苅にはサマーを押さえ込むプランは幾通りも浮かんでいた。
「カバディ」
背後から迫る草苅を感じつつもサマーは帰陣よりも更に奥へ足を伸ばした。
ボーナスライン。その時点で彼女1点を得た。しかし、帰陣出来なければ意味はない。
「無理だ」
18歳のスポーツ男子高校生と12歳の小柄女子。
どちらの身体能力が優れているのかは10人中10人が前者だと答えるだろう。
カバディの経験も雲泥の差。彼女は幼いしなるべく怪我をさせずに足を取る――
「カバディ」
サマーが振り返る。だが、その姿勢は低く中腰だった。
掴みづらい。一瞬だけ草苅は停止する。サマーを安全に押さえ込むには足の位置が低い。
「カバディ――」
脱力。サマーは中腰ながらも力みの無い立ち姿に草苅は直感した。
弾ける。次の瞬間の瞬発力は後手に回ると帰陣されてしまうかもしれない。
この一瞬、草苅はサマーの重心の傾け方に全神経を注いだ。
横から抜けるにしても方向転換は二回必要だ。その為、初動さえ見誤らなければ捕まえられる。どっちに傾く――
「カバディ――」
サマーの重心が右へ傾く。抜ける意識もそちらへ向いている。引き絞った矢が放たれ、サマーは右へ抜け――
「それは経験がある」
草苅は左へ抜けようとしたサマーの手を掴んだ。
読み取れる情報から右へ抜けさせると思わせておいて左へ身体を動かす。
それはアイソレーションと呼ばれる高度な技術。プロのサッカー選手などが使う事が多い。
経験の差を技術で埋めてきた。しかし、草苅にとっては経験のある動きだった故に搦め手とはならない。
「カバディ――」
延びきった綱引き状態となる。軽い。サマーの手を掴んだ草苅の印象はソレで間違いではなかった。
「カバディ――」
間違えたのはキャッチの姿勢。
サマーのアイソレーションに反応はしたものの、完璧なキャッチが出来たワケはなかった。
掴まれた時点でサマーは足を伸ばして前に翔んだ。
咄嗟に追いかける様に手を伸ばした故に、後ろに引く力が入る前に少女一人分の重みを引っ張りきれず、そして――
「レイド成功。アンティ失敗。ボーナスによりレイダー2点」
審判をしている紫月はサマーの伸ばした足先が帰陣した事を宣言した。
――ルール――
・攻撃と守備を交互に三回行う。
・防御は攻撃手がボークラインを越えるまで触れてはならない。
・ボーナスあり。(1点)
・人数は七人まで。(経験者は三人分にカウント)
・守備成功時は1点。
・暴力行為、点の動かない遅延行為は禁止。
・他、基本的なルールはカバディの公式ルールに準ずる。
「フェニックスよ。わしから行っても良いか?」
ぐっぐっ、と軽くストレッチしながらサマーちゃんが聞いてくる。その眼は既に草苅君を見ていた。
うむ、明らかに戦士の眼。これは止める方が失礼と言うもの。
「いいよ。お金出したのサマーちゃんだし、好きに攻撃やってよ。掛け声忘れずにね」
「うむ」
役者の揃ったコートで、サマーちゃんがミッドラインを前に一度止まり、草苅君を改めて見る。ふわりと舞う三つ編みは身体全体の躍動感を印象付けた。
「サマーさんは髪の毛が長いので、髪の毛は判定外にしましょう」
草苅君が気を使ってそう言ってくる。タッチが基本となる競技だ。長い髪を振り撒く選手は居ないのだろう。
「――――」
しかし、サマーちゃんは深く集中していた。この辺りの非凡性は流石と言える。そして――
「カバディ」
掛け声と共に敵陣へ入る。
どのスポーツにおいても、高い身体能力と言うモノは優位と言えた。
相手より筋力があれば。
相手より手足が長ければ。
相手より速ければ。
相手より大きければ。
それらの要素はスポーツ選手からすればどれか一つは持っておきたいモノだ。
どんなスポーツでも個人の能力が光る瞬間がある。練習量が同じならその際に優劣を決めるのは身体能力だろう。
サマー・ラインホルト。12歳。女子。
年齢と性別通りの彼女の体格は小柄な女子だ。加えて、カバディ経験のない初心者の女の子。
眼を引く見た目や、力強い言葉は非凡ながらも身体能力の上限は変えられない。故に――
「カバディ、カバディ」
隙だらけで歩いてくる彼女を即刻倒すなどと言う考えは流石に持てなかった。
「カバディ――」
キャントをする彼女は真っ直ぐボークラインを目指す。草苅は彼女のタッチを警戒しつつ退路を塞ぐ様に回り込む。
「カバディ」
サマーの足がボークラインを越えた。その瞬間、導火線に火がつく。
爆発する前に押さえ込む。草苅にはサマーを押さえ込むプランは幾通りも浮かんでいた。
「カバディ」
背後から迫る草苅を感じつつもサマーは帰陣よりも更に奥へ足を伸ばした。
ボーナスライン。その時点で彼女1点を得た。しかし、帰陣出来なければ意味はない。
「無理だ」
18歳のスポーツ男子高校生と12歳の小柄女子。
どちらの身体能力が優れているのかは10人中10人が前者だと答えるだろう。
カバディの経験も雲泥の差。彼女は幼いしなるべく怪我をさせずに足を取る――
「カバディ」
サマーが振り返る。だが、その姿勢は低く中腰だった。
掴みづらい。一瞬だけ草苅は停止する。サマーを安全に押さえ込むには足の位置が低い。
「カバディ――」
脱力。サマーは中腰ながらも力みの無い立ち姿に草苅は直感した。
弾ける。次の瞬間の瞬発力は後手に回ると帰陣されてしまうかもしれない。
この一瞬、草苅はサマーの重心の傾け方に全神経を注いだ。
横から抜けるにしても方向転換は二回必要だ。その為、初動さえ見誤らなければ捕まえられる。どっちに傾く――
「カバディ――」
サマーの重心が右へ傾く。抜ける意識もそちらへ向いている。引き絞った矢が放たれ、サマーは右へ抜け――
「それは経験がある」
草苅は左へ抜けようとしたサマーの手を掴んだ。
読み取れる情報から右へ抜けさせると思わせておいて左へ身体を動かす。
それはアイソレーションと呼ばれる高度な技術。プロのサッカー選手などが使う事が多い。
経験の差を技術で埋めてきた。しかし、草苅にとっては経験のある動きだった故に搦め手とはならない。
「カバディ――」
延びきった綱引き状態となる。軽い。サマーの手を掴んだ草苅の印象はソレで間違いではなかった。
「カバディ――」
間違えたのはキャッチの姿勢。
サマーのアイソレーションに反応はしたものの、完璧なキャッチが出来たワケはなかった。
掴まれた時点でサマーは足を伸ばして前に翔んだ。
咄嗟に追いかける様に手を伸ばした故に、後ろに引く力が入る前に少女一人分の重みを引っ張りきれず、そして――
「レイド成功。アンティ失敗。ボーナスによりレイダー2点」
審判をしている紫月はサマーの伸ばした足先が帰陣した事を宣言した。
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