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第322話 俺を進化させてくれるかい?

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 オレはショウコさんと国尾さんを引き合わせる為にアパートへ彼と共に帰宅した。

「あそこですよ、国尾さん。オレのアパート」
「ほっほう! 良いー立地じゃなーい!」

 駅も近いし近くには夏祭りが出来る程の公園もある。当然なので気づかなかったが、確かに良い立地だ。

「ん? 門の前にバンが止まってる」

 なにやら話をしている四人組がいる。一人はかなりデカイ。国尾さん程の体躯は無いががっちりと鍛えてる感じが見て取れる。

「すみませーん。そこは駐車禁止ですよー?」
「あ、ああ! すまねぇな! すぐに行くわ!」

 そそくさと四人組は乗り込む。オレはバンと塀の隙間を抜けてアパートの敷地へ入る。国尾さんはバンが動くまで待機。

「ショウコさ――」

 と、敷地に入った所にショウコさんの姿がない。あるのは近くに落ちているスマホと仮面に青竜刀――

「――――」

 オレは後ろを振り向き、エンジンをかけ直したバンを見る。直感した。アレを行かせるのはマズイ、と。

「待て!」
「蓮斗! 行け!」
「すまねぇな!」

 バンは発進する。咄嗟に追い付けるハズもなく、その姿は視界から消えた。

「んん~? 鳳よ。待たせれば良いのかよ?」

 バンは進んでいなかった。何故なら、国尾さんが後部を片手で持ち上げて後輪を浮かせる事で物理的に停止させていたからである。
 わーお。筋肉ってマジで全部解決出来るんだぁ。
 ONの国尾さん程、頼りになる人類はいない。

「何だ? 進んでねぇ?」
「なにやってる!?」
「後ろをマッチョが持ち上げてます!」
「人間じゃねぇ!」
「社長意外にそんなことが出来る人間がいるのか!?」

 そんな会話が聞こえてくる。国尾さんは車を持ち上げてて動けない。オレはバンに近づくと後部座席を確認する。

「……くそ! カーテンが!」

 外から見られない対策か。カーテンで遮られている。ドアも鍵がかけられて開かない。

「ほっほう!」

 すると、国尾さんが少し揺らした。内部も、わー! と惨事。揺れてカーテンが少し捲れると、そこには縛られたショウコさんよ姿が。

「チッ」

 と、舌打ちをしつつ助手席から一人の男が降りてくる。

「不本意だけどよ……」

 運転席からもサイドブレーキをかけた大男が降りてきた。

「殺しはしねぇよ。ただ警察も面倒なんでね。暫く眠っててくれや」
「悪いな、筋肉の兄ちゃん。こっちも事情が込み入っててなぁ」

 マッチメイクは、オレが舌打ち男で、国尾さんが大男か。

「悪いけど今日は二度目でね。簡単には行かないぞ」

 オレは買ってきたコンビニの袋を階段下に置く。

「ほっほーう……不思議だ。大したマッスルでもないのに……君は中々にマッスルだね」

 国尾さんは少し意味のわからない事をいいつつ、バンの後輪を降ろす。

「彼女は連れて行かせない」
「さーて。君は俺を進化させてくれるかい?」

 身構えるオレ。ムキる国尾さん。
 戦闘開始。





「ここまでで良いわ、ハジメ」

 事故の怪我は何年も前に完治したものの、杖を軽く使っての歩行補佐をしている烏間は公道に出るハジメにそう告げた。

「いえ、お送りしますよ。段差も何かと不便でしょう?」
「なら、あの横断歩道を越えるのをお願いしようかしら」
「任せてください! 背負います!」
「ふふ」

 ハジメは烏間を背負うと、横断歩道の階段を一歩一歩と上がる。
 しかし、普段から運動をすると言っても、女の体格では人ひとりを背負っての階段は相当な労力を要する。それでも気合いで上まで登りきる。

「ゼー、ゼー……」
「ふふ。ここで良いわよ」
「すみません……」

 疲労が残ったままだと、下りで転ぶかもしれない。下りは烏間の移動を補佐をする事にした。

「蓮斗君みたいには行かないわね」
「……社長は特別です。比べる基準になりませんよ」
「あの子も苦労したでしょうに……もっと早く知っていれば貴女共々、養子にしたのだけどね」
「畏れ多いです」

 ハジメは様々な資格を取る過程で烏間がどれ程の立場にいる人間なのかを知っていた。
 総理意外に彼女と比肩する者は、野党第一候補の火防議員くらいだろう。

「でも……これで良かったんだと思います」
「なんで?」
「もしかしたら、私たちは顧問の足枷になっていたかもしれません。社長も中卒ですし」
「あら。そんなのは関係ないわ。孫も高卒だし」

 意外な事に、烏間の身内に高学歴の人間は片手で数える程度しかいない。

「それに、貴女たちの様な人間こそ、日本の矢面に立つべきだと思っているの」
「恐縮です。ですが……そんな大役は私には勤まりませんよ」
「今からでも私の側で色々と学んで見る気はない?」

 勤勉で多くの資格を持ち、常に向上心を持つハジメは烏間としても後世の人材としては申し分ない。本心から出た言葉だった。

「いえ。私は“何でも屋『荒谷』”で大丈夫です。魅力的なお誘いをお断りするのは本当に心苦しいですが」
「あら、そう? ふふ。フラれちゃったわねー」

 蓮斗もハジメも、大きな翼を持っていると言うのに、小さな巣に留まる事を躊躇わない。政界としては惜しい人材だが、そう言う人間は世間にいる事に価値があるのだろう。

「それに、社長は目を離すと何をするか分かったものじゃないので」
「蓮斗君はじっとしてるの苦手そうだものね」
「まぁ……今日一日くらいは会社の掃除で大人しくさせてますよ。それくらいの“待て”は出来ると思いますし」

 ハジメはマスクで隠す口元の傷痕を少し意識する。

 アイツは目を離すとすぐにトラブルを起こす。その馬鹿力と単純な思考はきちんと手綱を握っておかないと警察沙汰では済まないだろう。

「トラブルを起こすと十中八九、怪我をするのは相手方ですから」
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