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第98話 JKの声をおくれ~

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 大宮司先輩の携帯に連絡が入り、あたし達は一つの雑居ビルへと入った。
 異質な空気を感じるビル。一番上の三階フロア以外は倉庫の様に使われている様だった。ちなみに中のテナントは、

 3F … ヒューマンウォール
 2F … 空き
 1F … 格納庫

 中でも一階の『格納庫』と言うラベルに少し、ん? と思ったがソレに思考を巡らせる前に、上だ、と言う先輩の後に続いた。

 先輩は三階フロアの事務所の扉のインターホンを鳴らす。すると、中から強面の男が出てきた。

「大宮司……マジで来やがったのか」

 明らかに一般人じゃない風体の対応人は先輩を少し恐れてる様子だった。

 部屋の奥からは、足りねぇなら腎臓売れや! とか、生命保険ってかけてらっしゃるんですよね? とか、うちなら200万即金ですよ、とか、聞き流した方がいいような言葉が聞こえてくる。

「ご無沙汰してます。仮屋さんは居ますか?」
「ご無沙汰……か。あんまり調子に乗るなよ。カシラに気に入られてるからって――」
「山田。何やってる」

 その後ろから別の人がやってきた。そちらは鋭い目付きではあるものの、厳つさは感じないが、威圧は山田さん以上だ。

「工藤のアニキ……」
「俺が対応する」

 へ、へい。と奥へ戻る山田さん。工藤さんはあたし達の前に来ると先輩は会釈した。

「お久しぶりです」
「おう。わざわざご苦労だな。その娘か?」

 工藤さんの視線にあたしも会釈する。

「仮屋さんは?」
「屋上で待ってる。部下を二人連れてるぞ」
「大丈夫です」

 その言葉に工藤さんは先輩の肩をぽん、と叩く。

「仮屋のアニキにはお互い、苦労させられるな」
「いえ……そんなことは」
「お前は良いヤツだが、短所はそれが理解されにくい所だ」

 と、工藤さんは先輩に耳打ちするように何かを話す。先輩は驚いて工藤さんを見た。

「まぁ、自業自得だ。今からでも帰って良いぞ」
「いえ……ケリはつけます」

 いつになく腕に力を込める先輩。なにか因縁があるのだろうか。

「終わるまで彼女を事務所で預かって貰えますか?」
「いいが……事務所内はダメ――」
「先輩、あたしも行きます」

 あたしは何となく先輩を一人で行かせるのは良くないと思い、そう口にした。
 工藤さんは、ほー、と感心する。

「ここで先輩一人で行くなんて、あたしが来た意味無いじゃないですか。最後まで付き合いますよ」
「だがな……」
「あたし、先輩の彼女(ていう設定)ですよね?」
「え?」
「ですよね?」
「あ、ああ……」
「じゃあ一緒に行きます。ここまで来て、船から降ろすのは無しですよ」
「しかし……」

 と、渋る先輩に工藤さんが口を挟む。

「大宮司。女にここまで言わせてんだ。男が恥じかかすんじゃねぇ」

 少し乱暴な物言いだが工藤さんの言葉に先輩は何かを決めた様だった。
 あたしは先輩から、前に助けた時と同じ雰囲気を感じる。

「鮫島、行こう」
「はい」

 先輩は屋上へ向かう階段へ。あたしは工藤さんにペコリと会釈してその後に続いた。

「しっかり青春してんな。アイツも」

 工藤は弟分になったかもしれない大宮司の背を見送ると事務所の扉を閉めた。





「こっちには居ないか」

 オレとヒカリちゃんは見失ったリンカと大宮司君を捜して商店街をウロウロしていた。

「どうしよう……わたしのせいで……リンが……」
「大丈夫だって。落ち着いて、もう一度捜そう」
「うん……」

 少し陽は落ちて、夕焼けが影を濃くする時間帯。オレとしては大宮司君が側にいるので、ヒカリちゃん程には心配していないけど、少し目を離した隙に消えたのは少し気になる。

「そうだ。リンカちゃんに連絡してみれば?」
「! やってみる」

 焦りすぎて最新機器による探索を忘れていた様子。ヒカリちゃんはすぐにリンカに連絡をかけた。

『もしもし?』
「リン!? 今どこにいるの!?」
『ど、どうしたの? なんでそんなに焦って――』
「今どこにいるの!?」
『大宮司先輩と一緒にいるよ。あれ? 今日の放課後は先輩と一緒って言ってなかったっけ?』
「知ってるよ!」
『……まさかヒカリ。後をつけてるの?』
「え? そ、そんな訳ないじゃん! あはは。何を言ってるか、こいつ!」
『ならもう切るよ。しばらく電話には出れないなら。LINEして』
「あ、ちょっ――リン!」

 通話終了。ツー……ツー……と言う音がオレ達の間に響く。

「別につけてる事は言っても良かったんじゃない?」
「……そしたらケン兄が居ることも言わないといけないでしょ」

 オレの事を気づかってくれたのか。でも、あんまり意味はない様な気がする。

「確かに姿が見えないのは少し不安だね」

 急に消えた二人。状況から見るにどこかの建物か路地に入ったと思われるが、時間もだいぶ経っている。

「うー」
「土地勘もないしなぁ」

 ヒカリちゃんを落ち着かせるには、リンカを見つけるのが一番だろう。

「お困りの様だな」

 すると横の路地の闇から声が! オレは、ハッ! とそちらを向きヒカリちゃんは、きゃっ!? と驚いて後ろに隠れる。あれ? さっきもこれあったぞ。

「お二方。また、会えるとは。小生は嬉しい限り!」

 路地闇から身体半分を光の元に晒すのはテツ! ヒカリちゃんは、うわ……でた……と言う眼を向けていた。

「テツ……30分ぶりだな」
「小生もアニメの再放送があったゆえ少し時を貰った。ユニコ君もそろそろ帰還の時間帯なので、お見送りに来たの、だ!」

 ヒカリちゃんはオレの服をくいくい引っ張って、行こう、と眼で催促してくる。
 だが、オレは少しばかりテツに聞いてみることにした。

「テツ。オレらは人を捜してる。何かを良い方法はないか?」
「ある」

 即答のテツ。しかし、ヒカリちゃんは複雑そうだ。

「小生の張り巡らせたネットワークを使えば特定の人間を見つけるなど容易、い!」
「おお。じゃあ早速――」

 オレはリンカの写真をスマホから出そうとした所でテツは、ばっ、と掌を向けてきた。

「報酬は前払い、だ!」
「なにぃ?!」

 金取んのかよ。しかし、日も落ちるとオレらの眼では見つけるのは完全に不可能だ。ここは頼るしかあるまい。

「わかった。いくら――」

 財布を取り出しながら聞くと、テツはまたしても掌をオレに掲げる。

「金はいい!」
「む、ならば何を――」

 と、テツはヒカリちゃんを見た。サっと完全にオレの影に隠れるヒカリちゃん。

「JKの声をおくれ~」
「もしもし、パパ? 今ね――」

 ヒカリちゃんは間髪入れずに伝家の宝刀――警察官おとうさんへの電話を入れていた。
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