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27悪魔の魔法書
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ルドルフの言葉に、リュートはヒュッと息をのみ、気が付けば呼吸が浅くなり始めていた。
ないはずの傷が疼き、ないはずの痛みが背中を襲い、体をその場に屈めて耐えるように震え始める。
「「リュート!」」
焦ったような二人の声が遠くに聞こえ、リュートはそのまま意識を手放してしまいそうだった。
ぐらぐらと揺れる視界に吐き気までも感じてくれば、浮遊感の後、すぐにルミアスによって抱きしめられた。
「……っ、ルミアス」
「落ち着くまで暫くこうしてろ」
膝の上に抱き上げられ、そっと頭に添えられた手が優しく撫でる。
ルミアスの胸元に頭を預ければ、慣れ親しんだ香りと規則正しく脈打つ鼓動によって、徐々に呼吸が落ち着きを取戻し、気分の悪さが引いていった。
無意識に縋りついていた手から漸く力が抜ける。ぼんやりした視界には、強く握っていたせいでくしゃくしゃになってしまったルミアスのシャツが映る。
「大丈夫か?」
「多分、大丈夫」
深呼吸を繰り返しながら答えれば、ルミアスの体からも力が抜けたようだった。
目の前まで来ていたルドルフも安心したように息を吐き、わずかに流れた汗を拭ってくれる。
「この話は改めてした方がよさそうだね」
ルドルフが気遣う言葉をくれるが、リュートは弱く首を振った。
「大丈夫、今聞く」
「無理するこたねーよ。ただでさえ記憶を取り戻してから時間が経ってないんだぞ?」
「でも、早く聞いておいた方がいいことでしょ?」
リュートの視線を受けたルドルフが、ルミアスに視線を送る。
そして同時に二人からの視線を受けたルミアスが、心底嫌そうにため息を吐き出した。
「ダメそうならそこで止めるからな」
「それでいいかなリュート」
リュートが力強く頷けば、ヴァローアによってすぐそばに一人がけ用の椅子が用意され、ルドルフがそこに腰を落ち着け話し始めた。
リュートは教会から派遣された治癒師により死亡が確認され、墓に埋葬されたらしい。
勿論本来の肉体はルミアスが持ち去っているため、ロマリオ達が死んだとみなしたリュートは、全く別人のものだという。
リュートが相続するはずだった遺産の中に含まれている魔法書は、正式にロマリオの手に渡ったようだ。
「それがただの魔法書であれば……よかったんだけどね」
「あぁ本当にな」
「僕が受け継ぐはずだった魔法書はなんだったの?」
「俺の爺さんが渡した魔法書だよ」
驚いてルミアスの顔をまじまじと見れば、頭が痛いとばかりに渋面を作っていた。
悪魔の魔法書自体は、悪魔だけが分かる言葉でしか書かれていない。
しかしルミアスの祖父と契約した初代魔法伯であるコールド伯爵は、手にしたその力からどうやら一部分だけ解読できてしまったようなのだ。
解読されたものは紙に書かれ、魔法書と共にあったという。
「書き記されていたもの自体、運悪く他にバレないようにこの世界の古語で書かれていたわけだが……ロマリオは古語を理解していたみたいでな」
若い頃にはがむしゃらに魔法や勉学に打ち込んでいたらしいロマリオは、悪魔の魔法書の解読された文書を読めてしまった。
そうして悪魔の力を手に入れてしまったらしいのだ。
「あれは使うのにとんでもなく魔力と生命力を消費する。まぁ俺も本来の力を使えなくなってから知ったんだけどな」
人間程度の魔力では扱いきれず、使えば生命力がすぐに枯渇してしまうのだとか。
しかしロマリオは魔法書に書かれた力を持ちいて、今や魔法伯の地位を守れるほどにまでコールド伯爵家の名誉を回復させているらしい。
「今やレディオバーグか、コールドかと賭けの対象にされてしまうくらいでね。変な派閥までできてしまってるんだ」
記憶を取り戻すまでの十数年間の間、随分と様変わりしてしまった状況にリュートは思わず眉を下げた。
ルドルフがリュートに構わなければ、今の状態になる前に魔法伯の地位を奪取できていただろう。
それが理解できるせいで申し訳なさが胸を突く。
「あぁ、リュート。誤解してはいけないよ。さっきも言ったけれど、私は君と本当の家族になれたのが嬉しくてしょうがないんだ。だって君は、僕が敬愛してやまない人の子供だからね。君のせいで、なんて万が一にも思うわけがない」
「そんなこと思うならコイツを消し炭にするだけだしな」
「それに、こちらにはルミアス様がついているからね。魔法書の一部と、悪魔本人とどちらが有益かなんて言わずもがなだろう?」
人が使える限界を少し越したぐらいの力を持つルドルフだが、それでは悪魔の力には敵うかどうかといったところらしい。
二人が顔を顰めたのは、あくまでもその力と、魔術書、取り巻く環境が面倒さに拍車をかけていて嫌気がさしているからのようだ。
「記憶が戻ったばかりだし、リュートは状態が安定するまで学園はお休みしてもらうよ。丁度冬期休暇直前だしね」
すぐに学園に戻ることにならず、リュートはほっとする。
家の中だけでも軽く混乱するのに、すぐに学園生活を送るとなっていれば精神的にも疲れが溜まることだろう。
身構えていたことだけに、ルドルフからの提案は願ってもないものだった。
いつかは戻らなければならないが、冬期休暇はたっぷり三ヵ月はある。
それだけあれば前世の記憶が上位に来ていたとしても慣れるはずだと思い、リュートはルドルフに向けて頷いた。
「——あ、そうか!」
いきなり声を上げたリュートに二人が注視し、ようやく頭の中で繋がったことを嬉々として口にした。
「パーティの時に庭で僕が倒れたでしょ? 記憶を思い出す前に別のクラスの子に押されて頭をぶつけて……それで前の記憶を思い出したんだよね」
「「はぁ!?」」
「派閥があって二分化してるなら、ルミアスと違って魔法が使えない僕がレディオバーグなのがその子は気に入らないわけだよね。だからやられたんだ! ふふふ、なんでか分からなかったけど、理由がわかってスッキリした!」
一人納得していれば、憤怒の形相をしたルミアスとルドルフが怒り出し、それからしばらくの間二人から尋問のように相手の名前や特徴を聞かれる羽目になるのだった。
ないはずの傷が疼き、ないはずの痛みが背中を襲い、体をその場に屈めて耐えるように震え始める。
「「リュート!」」
焦ったような二人の声が遠くに聞こえ、リュートはそのまま意識を手放してしまいそうだった。
ぐらぐらと揺れる視界に吐き気までも感じてくれば、浮遊感の後、すぐにルミアスによって抱きしめられた。
「……っ、ルミアス」
「落ち着くまで暫くこうしてろ」
膝の上に抱き上げられ、そっと頭に添えられた手が優しく撫でる。
ルミアスの胸元に頭を預ければ、慣れ親しんだ香りと規則正しく脈打つ鼓動によって、徐々に呼吸が落ち着きを取戻し、気分の悪さが引いていった。
無意識に縋りついていた手から漸く力が抜ける。ぼんやりした視界には、強く握っていたせいでくしゃくしゃになってしまったルミアスのシャツが映る。
「大丈夫か?」
「多分、大丈夫」
深呼吸を繰り返しながら答えれば、ルミアスの体からも力が抜けたようだった。
目の前まで来ていたルドルフも安心したように息を吐き、わずかに流れた汗を拭ってくれる。
「この話は改めてした方がよさそうだね」
ルドルフが気遣う言葉をくれるが、リュートは弱く首を振った。
「大丈夫、今聞く」
「無理するこたねーよ。ただでさえ記憶を取り戻してから時間が経ってないんだぞ?」
「でも、早く聞いておいた方がいいことでしょ?」
リュートの視線を受けたルドルフが、ルミアスに視線を送る。
そして同時に二人からの視線を受けたルミアスが、心底嫌そうにため息を吐き出した。
「ダメそうならそこで止めるからな」
「それでいいかなリュート」
リュートが力強く頷けば、ヴァローアによってすぐそばに一人がけ用の椅子が用意され、ルドルフがそこに腰を落ち着け話し始めた。
リュートは教会から派遣された治癒師により死亡が確認され、墓に埋葬されたらしい。
勿論本来の肉体はルミアスが持ち去っているため、ロマリオ達が死んだとみなしたリュートは、全く別人のものだという。
リュートが相続するはずだった遺産の中に含まれている魔法書は、正式にロマリオの手に渡ったようだ。
「それがただの魔法書であれば……よかったんだけどね」
「あぁ本当にな」
「僕が受け継ぐはずだった魔法書はなんだったの?」
「俺の爺さんが渡した魔法書だよ」
驚いてルミアスの顔をまじまじと見れば、頭が痛いとばかりに渋面を作っていた。
悪魔の魔法書自体は、悪魔だけが分かる言葉でしか書かれていない。
しかしルミアスの祖父と契約した初代魔法伯であるコールド伯爵は、手にしたその力からどうやら一部分だけ解読できてしまったようなのだ。
解読されたものは紙に書かれ、魔法書と共にあったという。
「書き記されていたもの自体、運悪く他にバレないようにこの世界の古語で書かれていたわけだが……ロマリオは古語を理解していたみたいでな」
若い頃にはがむしゃらに魔法や勉学に打ち込んでいたらしいロマリオは、悪魔の魔法書の解読された文書を読めてしまった。
そうして悪魔の力を手に入れてしまったらしいのだ。
「あれは使うのにとんでもなく魔力と生命力を消費する。まぁ俺も本来の力を使えなくなってから知ったんだけどな」
人間程度の魔力では扱いきれず、使えば生命力がすぐに枯渇してしまうのだとか。
しかしロマリオは魔法書に書かれた力を持ちいて、今や魔法伯の地位を守れるほどにまでコールド伯爵家の名誉を回復させているらしい。
「今やレディオバーグか、コールドかと賭けの対象にされてしまうくらいでね。変な派閥までできてしまってるんだ」
記憶を取り戻すまでの十数年間の間、随分と様変わりしてしまった状況にリュートは思わず眉を下げた。
ルドルフがリュートに構わなければ、今の状態になる前に魔法伯の地位を奪取できていただろう。
それが理解できるせいで申し訳なさが胸を突く。
「あぁ、リュート。誤解してはいけないよ。さっきも言ったけれど、私は君と本当の家族になれたのが嬉しくてしょうがないんだ。だって君は、僕が敬愛してやまない人の子供だからね。君のせいで、なんて万が一にも思うわけがない」
「そんなこと思うならコイツを消し炭にするだけだしな」
「それに、こちらにはルミアス様がついているからね。魔法書の一部と、悪魔本人とどちらが有益かなんて言わずもがなだろう?」
人が使える限界を少し越したぐらいの力を持つルドルフだが、それでは悪魔の力には敵うかどうかといったところらしい。
二人が顔を顰めたのは、あくまでもその力と、魔術書、取り巻く環境が面倒さに拍車をかけていて嫌気がさしているからのようだ。
「記憶が戻ったばかりだし、リュートは状態が安定するまで学園はお休みしてもらうよ。丁度冬期休暇直前だしね」
すぐに学園に戻ることにならず、リュートはほっとする。
家の中だけでも軽く混乱するのに、すぐに学園生活を送るとなっていれば精神的にも疲れが溜まることだろう。
身構えていたことだけに、ルドルフからの提案は願ってもないものだった。
いつかは戻らなければならないが、冬期休暇はたっぷり三ヵ月はある。
それだけあれば前世の記憶が上位に来ていたとしても慣れるはずだと思い、リュートはルドルフに向けて頷いた。
「——あ、そうか!」
いきなり声を上げたリュートに二人が注視し、ようやく頭の中で繋がったことを嬉々として口にした。
「パーティの時に庭で僕が倒れたでしょ? 記憶を思い出す前に別のクラスの子に押されて頭をぶつけて……それで前の記憶を思い出したんだよね」
「「はぁ!?」」
「派閥があって二分化してるなら、ルミアスと違って魔法が使えない僕がレディオバーグなのがその子は気に入らないわけだよね。だからやられたんだ! ふふふ、なんでか分からなかったけど、理由がわかってスッキリした!」
一人納得していれば、憤怒の形相をしたルミアスとルドルフが怒り出し、それからしばらくの間二人から尋問のように相手の名前や特徴を聞かれる羽目になるのだった。
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