【完結】かつて勇者だった者

関鷹親

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67 食事の中身

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 いつものように昼に起きれば、ふと隣にある温もりに春輝はゆるゆると無意識に手を伸ばした。
 すると途端に聞こえてきた笑い声に薄っすらと目を開ければ、既に起きていたガベルトゥスがいた。

「まるで猫みたいだな」
「なんでまだここにいるんだ」
「なんだ寝ぼけてるのか?」

 上手く働かない頭を動かせば、ガベルトゥスが身分を偽りこの屋敷に入り込んだことを思いだした。

「自分の部屋があるだろう」
「ハルキはつれないな。これからずっと一緒にいるんだ、慣れろ」

 わしゃわしゃと春輝の頭を撫でたガベルトゥスは、逞しい体を隠すことなくベッドから降りた。
 鍛えているのか、魔獣と対峙し軽々と大剣を振るっていたガベルトゥスの肉体はがっしりとした筋肉に覆われていて厚みがある。
 しかし春輝は聖剣を振るう時は勝手に身体強化がなされているようで、討伐から帰って来ても体は元の世界にいたころと変わりはない。
 無駄な肉はなく必要な筋肉はついているので、決して貧相な体と言うわけではないのだが、男としてガベルトゥスの肉体には一種の憧れのような物を感じてしまう時がある。なによりその逞しさは安定感があり、安堵を覚えるのだ。
 抱かれる間も、何度となく貫かれ長時間に渡る行為は疲れはするが、あの腕に抱かれているのは心底心地が良い。
 そう考えながら春輝も起き上がろうとすれば、腰が酷く重く眉間に皺を寄せる。抗議するようにガベルトゥスを睨むが、ニヤリと笑わらわれるだけだった。

 二人が動き出すのを待っていたかのように、隣室からトビアスとトゥーラが現れ春輝とガベルトゥスの身を手早く整えていく。
 春輝はできるだけシンプルに、ガベルトゥスは一応貴族と言う形を取っているので貴族然とした煌びやかな装いだ。

 着替えが終われば、アルバロが朝食をどうするか聞きに来る。既に部屋の中で寛ぎ春輝と喋るガベルトゥスに、アルバロは一瞬驚いたような顔をするがすぐにその表情を取り繕った。

「ガイル様、まさかこちらにおられますとは」
「勇者様とお話をしたく、ずうずうしいかと思いましたが早めに来てしまったのです。お陰で楽しく過ごしていますよ」

 にこやかに話す姿に胡散臭さを感じつつ、春輝は普段と変わりない様にトビアスに対応を任せた。
 人数分の昼食が部屋まで運ばれ、トビアスとトゥーラによって配膳された物に口を付ける。
 ガベルトゥスは優雅に食べ進めていくが、食欲が出ない春輝は取り敢えず腹になにかしらは納めねばとパンを手に取りそれを手で一口大にちぎった。

「なんだこれ」

 ちぎったパンの断面がキラキラと光り、春輝は口に運ぼうとした手を止め、断面をじっと見つめる。
 いつの間にかガベルトゥスは身を乗り出しながら春輝の手元を覗き込み、控えていたトビアスとトゥーラは近くまで寄って来ていた。

「ハルキそれを」

 手を差し出してきたガベルトゥスに、春輝は素直に残りのパンを手渡した。そのパンを更に割れば、中から出て来たのは透明な虫の羽のような欠片だった。

「虫の羽?」
「まさかこんな物を混入させるとは……すぐに取り換えさせましょう」
「いや待てトビアス、これは……」

 鼻にパンを近づけ臭いを確かめるように嗅いだガベルトゥスは、眉を潜めるとそのパンをトビアスに渡した。

「嗅いでみろ、覚えがあるはずだ」

 ガベルトゥスに言われるがまま臭いを嗅いだトビアスも、途端に怪訝そうに眉を潜める。

「これは、あの粉と同じ臭いですね」
「粉?」
「オーバンが持ってきたやつがあっただろう」
「あぁあれか。そんな怪しい粉がなんでパンなんかに……それにその虫の羽はなんだ」
「これは……あぁ暫く待ってください。今、思い出せそうなんです」

 目を瞑り、頭を抱えるトビアスは必死に記憶を探っているのか顔を険しくし、額から汗を流した。
 誰もが口を閉ざし、トビアスが口を開くのをただじっと待つ。どれぐらい時間が過ぎたか、食事はすっかりと冷えて固くなっていた。
 トビアスはなにかを思い出したのか、その顔色は信じられないと驚愕の表情を浮かべ、再度パンを手に取った。

「それで、思い出したのかトビアス。ドラゴンの記憶はなんと言っている?」

 少しばかりの怒気を孕ませたガベルトゥスの声音に、トビアスはごくりと息を呑む。

「これは、妖精の羽だと。そうドラゴンの記憶が言っています」
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