【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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73 観劇

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 爵位をアンベールに譲位する書類は、無事に城へと届けられすぐに受理された。これで名実共にグレイス家の一員となれたフェリチアーノは、賑やかなグレイス家で心新たに生活を楽しんでいた。
 血のつながりがある筈のマティアスやアガットよりも、ミリアやジャンの方が姉、兄らしかった。そこに友人となったリンドベルも加わる。フェリチアーノは今迄の重苦しい生活を払拭する様に日々の生活を送っていた。

 その日はミリアの提案で観劇に行く予定になっていた。昼から張り切るミリアに綺麗に着飾られたフェリチアーノは楽しそうにするミリアを見て、自分も楽しく感じる。

「ミリア姉様は朝からご機嫌ですね」
「当たり前じゃないの! 今日の劇は今人気のお芝居よ? きっとテオドールも好きな筈だけれど、お仕事じゃ仕方ないわよね」
「僕はミリア姉様と一緒に観れる事も楽しみなんですよ? 今迄観劇は何度かした事がありましたけど、仕事みたいな物だったのであまり楽しく無かったんです。でもミリア姉様と行けると思うと、それだけで楽しいですね」
「あらっふふふ、私も可愛い弟と観に行けるのが嬉しいわ。辛かった事は沢山の楽しい事で塗り替えなければね?」

 ミリアはフェリチアーノの両手を取り、嬉しそうにそして優しく微笑む。そこに紛れもない家族としての愛情が見えた。
 全くの赤の他人であるが、家族として扱ってくれる嬉しさと幸せは、フェリチアーノにとって言葉にできない程の幸福だった。



 日が傾き始めた頃、フェリチアーノはミリアと共に王都内にある大きな劇場へと降り立った。
 開演時間までもう少しと言う時間で、劇場のホールに居る人は既に疎になっていた。ミリアと談笑しながらエスコートするフェリチアーノに、視線が集まる。今や話題の中心でもあるフェリチアーノに、皆動向を探り、話題を掻き集める事に必死なのだ。
 その視線が気にならない訳では無いのだが、フェリチアーノはそんな事などおくびにも出さず、背筋を伸ばしてミリアをエスコートする。
 危うげで儚げな雰囲気は払拭され、今ではフェリチアーノは麗しい青年と言った所だ。魅力が増したフェリチアーノに女性陣からの視線も熱を持った物が増え、ミリアが社交に出た際などは羨ましがられる事が増えた。

「ミリア様、宜しいでしょうか」

 ミリアに着いている侍女が周りに聞かれない様にミリアに顔を寄せ耳打ちする。扇子で隠したミリアの顔が一瞬驚きに染まった後、くすくすと笑い出した。

「フェリちゃん、お席の変更が合ったようよ」
「そうなんですか? どちらです?」

 大階段を登り劇場の案内係の先導で連れて来られたのは、ひときは豪華な扉の前だった。その扉の前には両脇に専属であろう係員が立っている。まさかと思いミリアを見れば、頷きながら苦笑していた。

「今度は絶対一緒に観ましょうね?」

 ミリアはフェリチアーノをその場に残し、本来の席へと案内されて行く。それと入れ替わるように階段から登って来たのは、仕事で来れない筈のテオドールだった。

「テオ、お仕事じゃなかったんですか?」
「フェリと一緒に観たかったから切り上げてきた。俺はまだフェリと観劇した事がないって言うのに、姉上に先を越されるなんて嫌だよ」

 拗ねた様に口を尖らせるテオドールに思わず笑ってしまうと、可愛い可愛いとテオドールが頬に口付けてくる。
 ミリアとの観劇も勿論楽しみにしていたが、テオドールが来てくれた事に心がどうしても浮き足立ってしまう。
 豪華な扉が開かれ中に入れば、そこは王家の桟敷席だった。予想はしていたがまさかこの場所に足を踏み入れる事になろうとは少し前では考えられない事だ。

 テオドールにエスコートされ座席の元まで歩けば、突然の第四王子の登場に階下の客席や周りの桟敷席から騒めきが広がり、次の瞬間には人々が立ち上がったかと思うと、まるで波の様に次々に腰を折っていく。
 その様に圧倒されながらも、フェリチアーノは慣れた様に片手を上げるテオドールの横に立つに相応しくあろうと背筋を伸ばして緩く微笑みを浮かべた。

「ふはっ皆驚いてるな」
「それはそうでしょう、前触れも何も無かったんですから」
「フェリも驚いてくれたか?」
「それは勿論。でもミリア姉様との観劇も楽しみにしていたんですよ?」
「あぁそれは悪かったよ、姉上は……ほらあそこに居る。一幕が終わればここに呼んでも大丈夫だから呼ぼうか」

 テオドールに示された方向を見れば、ミリアが笑顔で小さく手を振ってくれた。それが
嬉しくてフェリチアーノも手を振りかえす。
 顔を寄せ合い楽しげに話す二人を、劇場に来ていた人々は驚きながらも劇が始まるまでチラチラと様子を盗み見ていた。

 そんな中、一階の客席から憎悪の目をフェリチアーノに向けるマティアスの視線がある事などフェリチアーノは気が付きもしなかった。
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