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55 土砂降りの中
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「頭はあぁ言ってたけどやっぱり勿体ねぇよなぁ」
何処かへ行ったはずの破落戸が数人戻って来た様だった。未だセザールの亡骸に縋り付くフェリチアーノは動く気力も無く、何処か他人事の様に男達の会話を聞いていた。
「こいつは何処かのお貴族様だろう? 攫っちまって身代金でも要求すりゃぁ大金が手に入るってもんよ!」
「どうせあの荷物の金はあんまり俺達には来ないしな」
「だろう? それに殺さなきゃいいんだったら、金を貰える間にコイツと楽しんでも良いわけだしな」
ガハハと笑い声が上がり、バシャバシャと水音を立てながら近づいて来た男の一人に腕を取られそうになった瞬間、フェリチアーノは恐怖に全身が凍りついた。
欲望にギラつく目は、男達の会話を聞き流していたフェリチアーノ自身をこれからどうするかと言うことを如実に語っている。
掴まれた先から肌が粟立ち、既に無い血の気を更に奪っていく。生理的な嫌悪感と恐怖を感じながらも体に力が入ることは無く、只々男達に怯えた目を向けるしかなかった。
しかしそんな視線は男達の欲を更に掻き立てるだけだ。セザールの体を掴みながらガタガタと震えるフェリチアーノは雨で濡れ、血と泥に塗れていたが、それでもフェリチアーノの持つ美しさを消すことは出来ず、そんな状況だからこそ余計に破落戸達の嗜虐心がくすぐられる。
「たったすけてっ」
声にならない声がフェリチアーノの口から紡がれるが、一体誰が助けてくれると言うのか。この辺りは既に観光地で、人はあまり通らない上に今は大雨だ。例え叫んだとしてもこの土砂降りの中では雨音に全て掻き消されてしまうだろう。
服に手を掛けられセザールから引き剥がされそうになり、弱い力で抵抗するがそんな物は無駄でしかない。体に伸びる無数の手はフェリチアーノの体を引き上げ担がれる。
「早く戻って味見しようぜ」
下卑た笑い声が響く。フェリチアーノはバタバタと抵抗しながらも悔しさに涙が溢れた。これからこんな男達に穢されると言うのか。それなら殺された方がどれほどマシだろう。
テオドールと体を交えあの幸福を知ってしまった今では、もう他の者に体を許す事などしたくはなかった。
もしこれがテオドールと出会う前であったならば、全てを諦めていた少し前であったならば、絶望の中で体を明け渡していたかも知れないが、そんな事を想像する事すら気持ちが悪くなる程に今のフェリチアーノには耐え難い物だった。
「テオったすけてっ」
唇を噛み締めて何度も何度も口の中で呟く。あの安心する体に包まれたかった。あの温もりで包み込み、こんな思いを出来事を全て消し去って欲しい。
「……てお」
「フェリ!!」
幻聴だろうか。聞こえるはずがない声が聞こえ、涙で霞む目で声の方を見れば、ここに居るはずのないテオドールが馬で懸命に走って来るのが見えた。
「なっ! おいヤバいぞ、逃げろ!!」
フェリチアーノを担いでいた男が大声でそう言うと、逃げるのに邪魔だと思ったのかフェリチアーノを地面に投げ捨て他の男達と共に走り去っていく。
バシャンと音を立て地面に叩き落とされたフェリチアーノは苦痛に顔を歪めながらも、テオドールの姿を見つめた。
あぁ本当に来てくれたのだとフェリチアーノは安堵する。
「誰も逃すな!」
付き従って来ていた騎士達がテオドールの怒号に答え、逃げ出した男達を追っていく。
「フェリ、大丈夫かフェリ!!」
馬から飛び降り走り寄ってきたテオドールは、地面に投げ出されたままのフェリチアーノの元へ来ると、泥に塗れる事も厭わず強くその体を抱き締めた。
フェリチアーノはそんなテオドールに縋り付き、声を上げて泣きじゃくった。安堵から、そして心から助けを求めていたテオドールが現れた事に嬉しさが込み上げる。
容姿に似合わず時には強く男らしさも見せるフェリチアーノが、震えながら自身に縋り付き、声を上げ泣きじゃくる様子にテオドールはどれだけフェリチアーノが怖い思いをしてしまったのかと考える。
もし自分達が来るのが遅かったら、今頃フェリチアーノはあの男達に何をされていたか。そう考えテオドールもまた血の気が引き、更にフェリチアーノを抱き締めた。
「殿下、全て捕縛しました。ご指示を。」
護衛騎士の一人であるヴィンス・ドュオモが、未だに地面に座り込んだままの二人の近くで膝をつき指示を仰ぐ。
その声にハッとしテオドールはフェリチアーノの体を抱き上げると、男達は拘束したまま一緒に離宮へ戻る指示を出す。
「行こうフェリ、顔色が悪い」
雨に打たれ更に体温を無くしたフェリチアーノの顔は暗がりでもわかる程に青白さを増していた。
ヴィンスが自身のマントを外し、無いよりはマシだろうと二人を包む様にかける。テオドールが馬への歩き出したその時、フェリチアーノが震える声でテオドールに呼び掛けた。
「セザールも、セザールも一緒に……お願いです、テオ」
そう言われ辺りを見れば、少し離れた場所に横たわるセザールを見つけた。ヴィンスに視線を向ければ彼は緩く首を振り、セザールが既に息絶えている事を伝えてくる。
「彼は、僕の家族だから……お願いテオ……」
そういったまま意識を手放したフェリチアーノに、何とも言えない思いが込み上げてくる。
もし来るのが遅ければ、あの場に倒れているのはフェリチアーノだったかも知れないのだ。その事に気が付きテオドールは更なる恐怖に包まれた。
人員を確保する為騎士の一人を連絡役として走らせ、残る二人の騎士には破落戸達の見張を指示し、テオドールはフェリチアーノを抱えたまま馬に乗ると、ヴィンスを伴って離宮へと急いだ。
何処かへ行ったはずの破落戸が数人戻って来た様だった。未だセザールの亡骸に縋り付くフェリチアーノは動く気力も無く、何処か他人事の様に男達の会話を聞いていた。
「こいつは何処かのお貴族様だろう? 攫っちまって身代金でも要求すりゃぁ大金が手に入るってもんよ!」
「どうせあの荷物の金はあんまり俺達には来ないしな」
「だろう? それに殺さなきゃいいんだったら、金を貰える間にコイツと楽しんでも良いわけだしな」
ガハハと笑い声が上がり、バシャバシャと水音を立てながら近づいて来た男の一人に腕を取られそうになった瞬間、フェリチアーノは恐怖に全身が凍りついた。
欲望にギラつく目は、男達の会話を聞き流していたフェリチアーノ自身をこれからどうするかと言うことを如実に語っている。
掴まれた先から肌が粟立ち、既に無い血の気を更に奪っていく。生理的な嫌悪感と恐怖を感じながらも体に力が入ることは無く、只々男達に怯えた目を向けるしかなかった。
しかしそんな視線は男達の欲を更に掻き立てるだけだ。セザールの体を掴みながらガタガタと震えるフェリチアーノは雨で濡れ、血と泥に塗れていたが、それでもフェリチアーノの持つ美しさを消すことは出来ず、そんな状況だからこそ余計に破落戸達の嗜虐心がくすぐられる。
「たったすけてっ」
声にならない声がフェリチアーノの口から紡がれるが、一体誰が助けてくれると言うのか。この辺りは既に観光地で、人はあまり通らない上に今は大雨だ。例え叫んだとしてもこの土砂降りの中では雨音に全て掻き消されてしまうだろう。
服に手を掛けられセザールから引き剥がされそうになり、弱い力で抵抗するがそんな物は無駄でしかない。体に伸びる無数の手はフェリチアーノの体を引き上げ担がれる。
「早く戻って味見しようぜ」
下卑た笑い声が響く。フェリチアーノはバタバタと抵抗しながらも悔しさに涙が溢れた。これからこんな男達に穢されると言うのか。それなら殺された方がどれほどマシだろう。
テオドールと体を交えあの幸福を知ってしまった今では、もう他の者に体を許す事などしたくはなかった。
もしこれがテオドールと出会う前であったならば、全てを諦めていた少し前であったならば、絶望の中で体を明け渡していたかも知れないが、そんな事を想像する事すら気持ちが悪くなる程に今のフェリチアーノには耐え難い物だった。
「テオったすけてっ」
唇を噛み締めて何度も何度も口の中で呟く。あの安心する体に包まれたかった。あの温もりで包み込み、こんな思いを出来事を全て消し去って欲しい。
「……てお」
「フェリ!!」
幻聴だろうか。聞こえるはずがない声が聞こえ、涙で霞む目で声の方を見れば、ここに居るはずのないテオドールが馬で懸命に走って来るのが見えた。
「なっ! おいヤバいぞ、逃げろ!!」
フェリチアーノを担いでいた男が大声でそう言うと、逃げるのに邪魔だと思ったのかフェリチアーノを地面に投げ捨て他の男達と共に走り去っていく。
バシャンと音を立て地面に叩き落とされたフェリチアーノは苦痛に顔を歪めながらも、テオドールの姿を見つめた。
あぁ本当に来てくれたのだとフェリチアーノは安堵する。
「誰も逃すな!」
付き従って来ていた騎士達がテオドールの怒号に答え、逃げ出した男達を追っていく。
「フェリ、大丈夫かフェリ!!」
馬から飛び降り走り寄ってきたテオドールは、地面に投げ出されたままのフェリチアーノの元へ来ると、泥に塗れる事も厭わず強くその体を抱き締めた。
フェリチアーノはそんなテオドールに縋り付き、声を上げて泣きじゃくった。安堵から、そして心から助けを求めていたテオドールが現れた事に嬉しさが込み上げる。
容姿に似合わず時には強く男らしさも見せるフェリチアーノが、震えながら自身に縋り付き、声を上げ泣きじゃくる様子にテオドールはどれだけフェリチアーノが怖い思いをしてしまったのかと考える。
もし自分達が来るのが遅かったら、今頃フェリチアーノはあの男達に何をされていたか。そう考えテオドールもまた血の気が引き、更にフェリチアーノを抱き締めた。
「殿下、全て捕縛しました。ご指示を。」
護衛騎士の一人であるヴィンス・ドュオモが、未だに地面に座り込んだままの二人の近くで膝をつき指示を仰ぐ。
その声にハッとしテオドールはフェリチアーノの体を抱き上げると、男達は拘束したまま一緒に離宮へ戻る指示を出す。
「行こうフェリ、顔色が悪い」
雨に打たれ更に体温を無くしたフェリチアーノの顔は暗がりでもわかる程に青白さを増していた。
ヴィンスが自身のマントを外し、無いよりはマシだろうと二人を包む様にかける。テオドールが馬への歩き出したその時、フェリチアーノが震える声でテオドールに呼び掛けた。
「セザールも、セザールも一緒に……お願いです、テオ」
そう言われ辺りを見れば、少し離れた場所に横たわるセザールを見つけた。ヴィンスに視線を向ければ彼は緩く首を振り、セザールが既に息絶えている事を伝えてくる。
「彼は、僕の家族だから……お願いテオ……」
そういったまま意識を手放したフェリチアーノに、何とも言えない思いが込み上げてくる。
もし来るのが遅ければ、あの場に倒れているのはフェリチアーノだったかも知れないのだ。その事に気が付きテオドールは更なる恐怖に包まれた。
人員を確保する為騎士の一人を連絡役として走らせ、残る二人の騎士には破落戸達の見張を指示し、テオドールはフェリチアーノを抱えたまま馬に乗ると、ヴィンスを伴って離宮へと急いだ。
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