【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

文字の大きさ
55 / 95

55 土砂降りの中

しおりを挟む
「頭はあぁ言ってたけどやっぱり勿体ねぇよなぁ」

 何処かへ行ったはずの破落戸が数人戻って来た様だった。未だセザールの亡骸に縋り付くフェリチアーノは動く気力も無く、何処か他人事の様に男達の会話を聞いていた。

「こいつは何処かのお貴族様だろう? 攫っちまって身代金でも要求すりゃぁ大金が手に入るってもんよ!」
「どうせあの荷物の金はあんまり俺達には来ないしな」
「だろう? それに殺さなきゃいいんだったら、金を貰える間にコイツと楽しんでも良いわけだしな」

 ガハハと笑い声が上がり、バシャバシャと水音を立てながら近づいて来た男の一人に腕を取られそうになった瞬間、フェリチアーノは恐怖に全身が凍りついた。
 欲望にギラつく目は、男達の会話を聞き流していたフェリチアーノ自身をこれからどうするかと言うことを如実に語っている。
 掴まれた先から肌が粟立ち、既に無い血の気を更に奪っていく。生理的な嫌悪感と恐怖を感じながらも体に力が入ることは無く、只々男達に怯えた目を向けるしかなかった。
 しかしそんな視線は男達の欲を更に掻き立てるだけだ。セザールの体を掴みながらガタガタと震えるフェリチアーノは雨で濡れ、血と泥に塗れていたが、それでもフェリチアーノの持つ美しさを消すことは出来ず、そんな状況だからこそ余計に破落戸達の嗜虐心がくすぐられる。

「たったすけてっ」

 声にならない声がフェリチアーノの口から紡がれるが、一体誰が助けてくれると言うのか。この辺りは既に観光地で、人はあまり通らない上に今は大雨だ。例え叫んだとしてもこの土砂降りの中では雨音に全て掻き消されてしまうだろう。

 服に手を掛けられセザールから引き剥がされそうになり、弱い力で抵抗するがそんな物は無駄でしかない。体に伸びる無数の手はフェリチアーノの体を引き上げ担がれる。

「早く戻って味見しようぜ」

 下卑た笑い声が響く。フェリチアーノはバタバタと抵抗しながらも悔しさに涙が溢れた。これからこんな男達に穢されると言うのか。それなら殺された方がどれほどマシだろう。
 テオドールと体を交えあの幸福を知ってしまった今では、もう他の者に体を許す事などしたくはなかった。
 もしこれがテオドールと出会う前であったならば、全てを諦めていた少し前であったならば、絶望の中で体を明け渡していたかも知れないが、そんな事を想像する事すら気持ちが悪くなる程に今のフェリチアーノには耐え難い物だった。

「テオったすけてっ」

 唇を噛み締めて何度も何度も口の中で呟く。あの安心する体に包まれたかった。あの温もりで包み込み、こんな思いを出来事を全て消し去って欲しい。

「……てお」
「フェリ!!」

 幻聴だろうか。聞こえるはずがない声が聞こえ、涙で霞む目で声の方を見れば、ここに居るはずのないテオドールが馬で懸命に走って来るのが見えた。

「なっ! おいヤバいぞ、逃げろ!!」

 フェリチアーノを担いでいた男が大声でそう言うと、逃げるのに邪魔だと思ったのかフェリチアーノを地面に投げ捨て他の男達と共に走り去っていく。
 バシャンと音を立て地面に叩き落とされたフェリチアーノは苦痛に顔を歪めながらも、テオドールの姿を見つめた。
 あぁ本当に来てくれたのだとフェリチアーノは安堵する。
 
「誰も逃すな!」

 付き従って来ていた騎士達がテオドールの怒号に答え、逃げ出した男達を追っていく。

「フェリ、大丈夫かフェリ!!」

 馬から飛び降り走り寄ってきたテオドールは、地面に投げ出されたままのフェリチアーノの元へ来ると、泥に塗れる事も厭わず強くその体を抱き締めた。
 フェリチアーノはそんなテオドールに縋り付き、声を上げて泣きじゃくった。安堵から、そして心から助けを求めていたテオドールが現れた事に嬉しさが込み上げる。

 容姿に似合わず時には強く男らしさも見せるフェリチアーノが、震えながら自身に縋り付き、声を上げ泣きじゃくる様子にテオドールはどれだけフェリチアーノが怖い思いをしてしまったのかと考える。
 もし自分達が来るのが遅かったら、今頃フェリチアーノはあの男達に何をされていたか。そう考えテオドールもまた血の気が引き、更にフェリチアーノを抱き締めた。

「殿下、全て捕縛しました。ご指示を。」

 護衛騎士の一人であるヴィンス・ドュオモが、未だに地面に座り込んだままの二人の近くで膝をつき指示を仰ぐ。
 その声にハッとしテオドールはフェリチアーノの体を抱き上げると、男達は拘束したまま一緒に離宮へ戻る指示を出す。

「行こうフェリ、顔色が悪い」

 雨に打たれ更に体温を無くしたフェリチアーノの顔は暗がりでもわかる程に青白さを増していた。
 ヴィンスが自身のマントを外し、無いよりはマシだろうと二人を包む様にかける。テオドールが馬への歩き出したその時、フェリチアーノが震える声でテオドールに呼び掛けた。

「セザールも、セザールも一緒に……お願いです、テオ」

 そう言われ辺りを見れば、少し離れた場所に横たわるセザールを見つけた。ヴィンスに視線を向ければ彼は緩く首を振り、セザールが既に息絶えている事を伝えてくる。

「彼は、僕の家族だから……お願いテオ……」

 そういったまま意識を手放したフェリチアーノに、何とも言えない思いが込み上げてくる。
 もし来るのが遅ければ、あの場に倒れているのはフェリチアーノだったかも知れないのだ。その事に気が付きテオドールは更なる恐怖に包まれた。

 人員を確保する為騎士の一人を連絡役として走らせ、残る二人の騎士には破落戸達の見張を指示し、テオドールはフェリチアーノを抱えたまま馬に乗ると、ヴィンスを伴って離宮へと急いだ。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました

水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。 彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。 ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。 李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。 運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。 だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。 過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。 東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。

あの日、北京の街角で

ゆまは なお
BL
5年前、一度だけ体を交わした彼が、通訳として出張に同行するーーー。 元留学生×駐在員。年下攻め。再会もの。 北京に留学していた上野孝弘は駐在員の高橋祐樹と街中で出会い、突然のアクシデントにより、その場で通訳を頼まれる。その後も友人としてつき合いが続くうちに、孝弘は祐樹に惹かれていくが、半年間の研修で来ていた祐樹の帰国予定が近づいてくる。 孝弘の告白は断られ、祐樹は逃げるように連絡を絶ってしまう。 その5年後、祐樹は中国出張に同行するコーディネーターとして孝弘と再会する。 3週間の出張に同行すると聞き、気持ちが波立つ祐樹に、大人になった孝弘が迫ってきて……? 2016年に発表した作品の改訂版。他サイトにも掲載しています。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話

BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。 ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。

【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜

葉月
BL
《あらすじ》  カトラレル家の長男であるレオナルドは双子の弟のミカエルがいる。天真爛漫な弟のミカエルはレオナルドとは真逆の性格だ。  カトラレル家は懇意にしているオリバー家のサイモンとミカエルが結婚する予定だったが、ミカエルが流行病で亡くなってしまい、親の言いつけによりレオナルドはミカエルの身代わりとして、サイモンに嫁ぐ。  愛している人を騙し続ける罪悪感と、弟への想いを抱き続ける主人公が幸せを掴み取る、オメガバースストーリー。 《番外編 無垢な身体が貴方色に染まるとき 〜運命の番は濃厚な愛と蜜で僕の身体を溺れさせる〜》 番になったレオとサイモン。 エマの里帰り出産に合わせて、他の使用人達全員にまとまった休暇を与えた。 数日、邸宅にはレオとサイモンとの2人っきり。 ずっとくっついていたい2人は……。 エチで甘々な数日間。 ー登場人物紹介ー ーレオナルド・カトラレル(受け オメガ)18歳ー  長男で一卵性双生児の弟、ミカエルがいる。  カトラレル家の次期城主。  性格:内気で周りを気にしすぎるあまり、自分の気持ちを言えないないだが、頑張り屋で努力家。人の気持ちを考え行動できる。行動や言葉遣いは穏やか。ミカエルのことが好きだが、ミカエルがみんなに可愛がられていることが羨ましい。  外見:白肌に腰まである茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳。中世的な外見に少し幼さを残しつつも。行為の時、幼さの中にも妖艶さがある。  体質:健康体   ーサイモン・オリバー(攻め アルファ)25歳ー  オリバー家の長男で次期城主。レオナルドとミカエルの7歳年上。  レオナルドとミカエルとサイモンの父親が仲がよく、レオナルドとミカエルが幼い頃からの付き合い。  性格:優しく穏やか。ほとんど怒らないが、怒ると怖い。好きな人には尽くし甘やかし甘える。時々不器用。  外見:黒髪に黒い瞳。健康的な肌に鍛えられた肉体。高身長。  乗馬、剣術が得意。貴族令嬢からの人気がすごい。 BL大賞参加作品です。

処理中です...