【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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05 夜会

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 とうとう夜会の日がやって来ると、デュシャン家は朝から上へ下への大忙しだった。ただでさえ人数が少ない使用人達は、日が明ける前から慌ただしく動き、カサンドラとアガットの怒鳴り声が屋敷中に響き渡り、ピリピリとした空気が流れている。

 フェリチアーノからの出し渋りが無い事を良い事にこれでもかと注文を付け、挙句ギリギリまで直させていた悪趣味な衣装をフェリチアーノ以外の家族全員が身に着けていた。

 例年より一層下品さに磨きがかかった姿の人達と一緒に入場しなければならない事実に、フェリチアーノの胃は痛みを訴える。
 会場入りし、ある程度したらいつも通りにすぐさま距離を取ろうとフェリチアーノは決意するのだった。

 狭い馬車の中で充満するきつい香水の匂いに吐き気を覚えながらも、意識を外へと向けフェリチアーノはなんとか王宮までの道のりを耐えた。
 その間、しきりにフェリチアーノの装いを地味だと嘲笑ってきた家族には、呆れて何も言う気が起きなかった。

 日が傾き始めた頃、沢山の人々が既に集まり始めている王宮へデュシャン家の面々は足を踏み入れる。
 煌びやかに輝くホールへと続く道に、他の貴族と挨拶を交わしながら進んでいく。家族の後ろを少し離れて着いて行くフェリチアーノは顔に出さない様にと努めていたが、内心早く家族と離れたくて仕方がなかった。

 前を行く家族に向けられる視線は、どう甘く見積もっても良い物ではない。扇子で口元を隠しながら、こそこそとなされる会話はどんなものか、フェリチアーノは知っている。
 年に一度全ての貴族が集まるのだ。王都やその近郊に居を構えている者達は、金のない者達が精いっぱい着飾りこの夜会に来る事を毎年面白がっている。そしてその対象にはデュシャン家の面々も含まれていた。
 そしてこの夜会の後に行われる茶会などでそれは恰好の話題になる。知らぬは本人達ばかりと、そう言う物なのだ。

 眩いばかりの光りに溢れるホールへと足を踏み入れれば、ゆったりと優雅に流れる音楽がホールに響き渡っており、あちらこちらで歓談を楽しむ人々の姿があった。
 深く深呼吸をしたフェリチアーノは、心底気が進まない中気合を入れ直し、当主としてふるまう父親に嫌々ながらも付き合い挨拶回りをしていく。
 家族と共に最低限の挨拶を終えたフェリチアーノは、兄と姉同様に早々に一人になり個人的な挨拶回りへと繰り出した。

「ごきげんようフェリチアーノ」

 暫くするとチェイアー公爵婦人ミネルヴァが取り巻きの御夫人方を伴い、フェリチアーノに話しかけて来る。

「これはチェイアー公爵婦人、今日もお美しいですね」
「貴方も美しくてよ? ねぇみなさん?」
「その通りですわ、それにしてもフェリチアーノ様は毎年……大変でいらっしゃいますね?」

 その問いかけに曖昧な笑みを作り返すと、彼女達は嬉々として家族の今日の装いについて話し出すのだった。

「今年は例年より下品さに拍車がかかっていませんこと?」
「私、目が痛くて仕方がないわ」
「それに比べてフェリチアーノは素晴らしいわね、貴方もいつもよりお洒落をしているけれど、全てが美しく洗礼されているわ。何か心境の変化でもあったのかしら?」

 家族の悪趣味の反動もあるのだろうが、フェリチアーノは派手な装飾を好まない。今夜の装いはシンプルではある物の、使用している生地は最高級の物であるし、宝飾品のカフス等は祖父が大事につけていたデュシャン家に代々伝わる物であった。
 
 祖父からの付き合いがある老舗の仕立屋と家令のセザールは、やっとこの時が来たと言わんばかりにあれやこれやと仕立てに大はしゃぎだった。
 そうして出来上がった今夜の装いを社交辞令だろうが褒められれば、悪い気はしない。

「お褒め頂きありがとうございます、年に一回の夜会ですから、偶には僕自身も着飾ってみても良いかなと」
「偶にはと言わずにいつもそうした方が良いわ、とても目の保養になりますからね」

 普通であればここで「娘や息子を相手にどうだろうか?」と推してくるのが貴族の親達の常ではあるのだが、デュシャン家の面々を知っている人々はいくらフェリチアーノに魅力があり、デュシャン家で唯一まともな人だとわかっていても、そんな事を口に出したりはしないのだった。
 決して紹介等はせず、目の保養として遠目から眺め、こうして家族の目がない隙に話題の種を求め話しかけるだけなのだ。
 その影響は子供達にまで及ぶ。事情を知っている令息も令嬢も、やはり親達同様フェリチアーノには関わらず、残念だと言わんばかりに眺めては鑑賞するばかり。
 関わる事があるとすればこの夜会に参加した時だけだが、美しいフェリチアーノにそもそも直接話しかける強者はあまり居ない。

 家族の位置を気にしながら、挨拶を終える頃にはフェリチアーノは疲れ果てていた。
 挨拶をした相手に万が一迷惑が掛かってしまっては困る為に、家族と共に出るこう言った場では常に気を張り詰めねばならないので、疲労もひとしおなのだ。
 挨拶をする度に、遠回しに気遣われる言葉を貰いながら、フェリチアーノの心はその度に沈んでいく。
 誰も彼も、フェリチアーノ自身を心配してはくれるが、その背後に居る家族を知っている為に”助ける”や”頼ってくれ”などと言う明確な言葉を口にはしない。
 一時期のパトロン達とて、フェリチアーノの境遇を知り遠回しに援助するだけだ。
 それも致し方ない事であるし、それだけでも十分だとは思う。
 だけれどもフェリチアーノが一人で立たねばならない事に変わりないのだ。それがどれ程心細く、辛い事であっても。
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