407 / 438
第11章 戦より儘ならぬもの
404.臨機応変な作戦変更は現場の特権よ
しおりを挟む
「俺が餌かよ」
「最適でしょ?」
不満そうなヴィネを連れ、オリヴィエラは林の入り口で微笑んだ。気の毒そうな顔だが、ロゼマリアは口を挟まない。魔族の常識が少しわかってきたのだ。
人間相手だと非常識で異常なことも、魔族はさほど気にしない。元から体の作りも考え方も異なるため、それを否定せず受け入れることを学んだ。
足元をじっと見つめ、ヴィネは溜め息をついた。拾った枝で魔法陣を描き始める。ウラノスのように容易に使いこなす域に達していないため、空きスペースで空間の座標計算をする。何度か検算して確認し、魔法陣に追加した。
「じゃあ行ってくる」
「魔力を抑えめにね。攪拌は私がやるわ」
「俺が脱出してからにしてくれよ?」
あっという間に作戦を共有した。というより、攻撃パターンが近いタイプなのだ。互いにどうしたいか、自然と察していた。転移魔法陣で地下空間へ飛んだヴィネを見送り、オリヴィエラは地下水の誘導を始める。複雑な魔法陣を地面に貼り付け、中央に座って魔力を注いだ。
「話しかけても平気かしら」
「構わないわ」
ロゼマリアの声に、オリヴィエラは笑顔で返す。事実魔力を注ぐだけの作業なので、この場から動かなければ問題なかった。
「地下の魔物をどうやって誘き寄せるの?」
「あのミミズもどき、正確な名前は忘れたけど……エルフの魔力が好きなのよ。若いエルフの瑞々しい魔力を感じると、見境なく襲いかかるわ」
「そんなっ! 大丈夫かしら」
「平気よ、エルフの方が強いもの。ただ時々逃げ損ねるエルフもいるみたい」
曖昧に濁したのは、人間や他の魔族との間に生まれたハーフの存在だ。魔力の種類は似ているが、圧倒的に量が少ない。そのため大きな魔法を使えず、森から離れた場所にいると食われることもあった。
エルフは森の番人であり、管理人だ。生まれながらに持つ属性や特性も、森に関する魔法に特化していた。森がなければ、彼らの力は半減する。だが……ヴィネは違った。彼はハイエルフだ。森があれば最強だが、離れていても緑があれば操れた。
人工的に作られた庭だろうと、雑木林程度の小さな緑であっても。ハイエルフなら力を引き出せる。その意味で、ヴィネは最適だった。若いハイエルフの魔力を感知すれば、ミミズはこぞって集まる。
「先に水が来ちゃったわ」
地下水を一時的に迂回させて時間を稼ぐ。巨大な地下空洞に、ミミズが近づいていた。ふと思いつきで、地下水を細く網目状に大地へ染み込ませる。大河の大きさで引っ張った水を、細い水路に流すイメージだ。網で空洞を覆うように水を行き渡らせた時、大地が振動した。
「きたっ!」
ドンっ、大きく揺れた地面にヒビが入る。続いてオリヴィエラの足元が崩れ始めた。大地の内側へ吸い込まれるように、地表の木々が倒れていく。
「ロゼマリア、背に乗って」
駆け寄ったグリフォンが頭を下げ、跳ね上げるようにロゼマリアを回収した。そのまま空へ舞い上がる。直後、雑木林があった大地は空洞を押しつぶす形で陥没した。
「最適でしょ?」
不満そうなヴィネを連れ、オリヴィエラは林の入り口で微笑んだ。気の毒そうな顔だが、ロゼマリアは口を挟まない。魔族の常識が少しわかってきたのだ。
人間相手だと非常識で異常なことも、魔族はさほど気にしない。元から体の作りも考え方も異なるため、それを否定せず受け入れることを学んだ。
足元をじっと見つめ、ヴィネは溜め息をついた。拾った枝で魔法陣を描き始める。ウラノスのように容易に使いこなす域に達していないため、空きスペースで空間の座標計算をする。何度か検算して確認し、魔法陣に追加した。
「じゃあ行ってくる」
「魔力を抑えめにね。攪拌は私がやるわ」
「俺が脱出してからにしてくれよ?」
あっという間に作戦を共有した。というより、攻撃パターンが近いタイプなのだ。互いにどうしたいか、自然と察していた。転移魔法陣で地下空間へ飛んだヴィネを見送り、オリヴィエラは地下水の誘導を始める。複雑な魔法陣を地面に貼り付け、中央に座って魔力を注いだ。
「話しかけても平気かしら」
「構わないわ」
ロゼマリアの声に、オリヴィエラは笑顔で返す。事実魔力を注ぐだけの作業なので、この場から動かなければ問題なかった。
「地下の魔物をどうやって誘き寄せるの?」
「あのミミズもどき、正確な名前は忘れたけど……エルフの魔力が好きなのよ。若いエルフの瑞々しい魔力を感じると、見境なく襲いかかるわ」
「そんなっ! 大丈夫かしら」
「平気よ、エルフの方が強いもの。ただ時々逃げ損ねるエルフもいるみたい」
曖昧に濁したのは、人間や他の魔族との間に生まれたハーフの存在だ。魔力の種類は似ているが、圧倒的に量が少ない。そのため大きな魔法を使えず、森から離れた場所にいると食われることもあった。
エルフは森の番人であり、管理人だ。生まれながらに持つ属性や特性も、森に関する魔法に特化していた。森がなければ、彼らの力は半減する。だが……ヴィネは違った。彼はハイエルフだ。森があれば最強だが、離れていても緑があれば操れた。
人工的に作られた庭だろうと、雑木林程度の小さな緑であっても。ハイエルフなら力を引き出せる。その意味で、ヴィネは最適だった。若いハイエルフの魔力を感知すれば、ミミズはこぞって集まる。
「先に水が来ちゃったわ」
地下水を一時的に迂回させて時間を稼ぐ。巨大な地下空洞に、ミミズが近づいていた。ふと思いつきで、地下水を細く網目状に大地へ染み込ませる。大河の大きさで引っ張った水を、細い水路に流すイメージだ。網で空洞を覆うように水を行き渡らせた時、大地が振動した。
「きたっ!」
ドンっ、大きく揺れた地面にヒビが入る。続いてオリヴィエラの足元が崩れ始めた。大地の内側へ吸い込まれるように、地表の木々が倒れていく。
「ロゼマリア、背に乗って」
駆け寄ったグリフォンが頭を下げ、跳ね上げるようにロゼマリアを回収した。そのまま空へ舞い上がる。直後、雑木林があった大地は空洞を押しつぶす形で陥没した。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」
思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。
「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」
全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。
異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!
と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?
放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。
あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?
これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。
【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません
(ネタバレになるので詳細は伏せます)
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載
2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品)
2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品
2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる