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第11章 戦より儘ならぬもの

405.役割分担は完璧だが、結果は不平等だった

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 ヴィネはミミズの気配を感じながら、タイミングを図る。外へ飛び出すのに転移魔法陣は不要だった。自分に結界を張って頭上を崩せばいい。

 ある程度引きつけないと逃げられる。ミミズもどきが空洞に現れるまで、悍ましさに耐えながら待った。ざっと15匹ほどか。都をひとつ落とすだけと考えれば過剰戦力だが、魔王城を狙うと仮定したら少なすぎる。

「サタン様を見くびり過ぎだ」

 あの人の周りに集まる魔族は、一騎当千――誰が魔王になってもおかしくない実力者ばかりだった。希少なハイエルフである自分が霞むほどに。

 左から飛び出したミミズを避け、土を崩して穴に落とす。もんどりうって転がるミミズが穴の底に転がった。下から出てきたミミズ、次は頭上に近い右側。頭を出すミミズを見つけるたび、その周囲をごっそりと落とした。土を崩せば、自重に耐えかねて穴が広がる。

 ゴゴゴ……ミシッ。後2匹、数えたミミズが足りないが頃合いか。互いの体を踏みつけてヴィネを狙うミミズが絡まり、悪臭に鼻を摘んだ。

「臭ぃ……う、吐きそう」

 この臭い自体が攻撃じゃねえか。ぼやいたヴィネが見上げた天井は、すでにいくつもヒビが入っていた。

 ミチッ、ギチギチ……嫌な音が連続して響き、最後にブチッと切れる。足元の空洞はかろうじて支えられていた。雑木林の木々が必死に根を張り、絡めて土を維持していたのだ。その地下の穴を広げて足元を崩せば、上の木々も支えきれなくなる。

 土を盛大に落としながら、天井が崩れた。オリヴィエラが呼び寄せた地下水は、網の目のように空洞を囲んでいた。根が土を離した瞬間、土に染み込んだ水が一気に流れ込む。あっという間に茶色い泥水で押しつぶされたミミズは、重さで動けなくなった。

「ご苦労さま」

 結界ごと浮遊しながら足下の惨状に顔を顰めるヴィネへ、ロゼマリアが声をかける。

「無事ですか?」

「ああ、攪拌は任せていいんだよな」

 オリヴィエラはグリフォンの姿で空を舞いながら、グルルと喉を鳴らした。一周回って戻り、溜め込んだ風の魔力を叩きつける。竜巻を作る要領で、泥を掻き回した。

「うっ、臭い……無理だ」

 ミミズは雑食だ。栄養素は豊富だが、その臭いが凄まじかった。ヘドロが沈んだ泥を掻き回したのと同じ臭いがする。慌てて高度を上げて逃れるヴィネだが、空で大きく咳き込んだ。

「きちんと埋めないと、数年は使えなくなりそうだな」

 大地と緑に働きかけ、雑木林で蓋をする。その予定は変わらないが、ヴィネは顔を顰めて唸った。くそっ、あの臭いの中に入らないと、大地に魔力を流せない。

 ハイエルフといえど、遠隔で大地と緑を操るには森の密度が低過ぎた。どうしても臭い大地の上に降りて作業する必要がある。

「私は先に帰るけれど、後はよろしくね」

 オリヴィエラは器用に嘴で伝えると、頭上を2周して魔王城へ帰っていく。それを見送りながら、ヴィネはしてやられたと舌打ちした。攪拌は風の魔力を大量に消費するため、大変なのはオリヴィエラだと思っていた。この作戦で一番大変なのは、誘き寄せる餌役でも撹拌担当でもない。この臭いを塞ぐ役だ。

「……覚えてろよ」

 呪詛めいた言葉を吐きすて、ヴィネは鼻を摘まんで泥の上に降り立った。
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