【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
312 / 438
第10章 覇王を追撃する闇

310.配下が誇れる王であることは絶対だ

しおりを挟む
 膝が崩れるなど己に許さず、気持ちを入れ直した。目の前で、威嚇するリシュヤと対峙するリリアーナが爪を使い、攻撃をいなす。彼女が倒れる前に、オレが倒れるわけにいかぬ。

 魔王がこの程度の苦境で膝をつけば、従う配下と部下を危険に晒す。一度己に許した弱さは、いずれ足元を掬い崩壊の切っ掛けとなる。人のうえに立つと決めた時から、この身は己だけのものではない。配下が誇れる王でいることは、オレに命を預ける彼女らを護るのと同意語だった。

 ひとつ大きく息を吸い込み、一気に魔力を解放した。ぶわっとマントが空に舞う。長い黒髪が巻き込まれて宙に踊った。オレを中心に風が輪を描いて広がる様は、魔力の拡散を意味する。

 口角が持ち上がった。ここまで魔力を使わせた作戦は評価してやろう。どのようなつもりであろうが、オレの庇護下にあるモノを傷つけるなら容赦はしない。高まる魔力の密度が息苦しくなり、酔う程の濃さにより実体化した。

 魔力を必要なだけ持っていくがいい。代わりに、オレの物を返してもらうぞ。

 爆発するような魔力の強さに、青い顔のオリヴィエラが飛び込んできた。ロゼマリアはどこかに置いてきたらしい。アスタルテは索敵で動けず、バアルとアナトは捕獲に出た。アルシエルとウラノスはまだ魔法陣を解除し終えておらず、今は動けない。ならば、手の空いた魔族は彼女だけだった。

「サタン様! これは……うっ」

 濃すぎる魔力に気圧されて下がろうとしたオリヴィエラに「下がるな」と命じた。一度退くことを覚えたら、二度目も足は後ろに下がる。気づいたように歯を食い縛るオリヴィエラは、下がりかけた右足を前に踏み出した。

 その心意気やよし。満たした魔力が急速に収束する。術を使うに足りた魔力は、生命力に換算され治癒に使われた。きらきらと眩しい光を放つ子供達の中には目を覚ます者も出る。手足をぎこちなく動かし、痛みが消えるたびに笑みが戻った。

「リシュヤぁ!」

 小さな子供が手を伸ばす。見慣れた保護者を呼ぶ幼子に、ユニコーンの殺気が薄れた。見回して状況を把握すると、威嚇を解いて崩れおちる。血塗れの手で抱いた幼女が目を覚まし、嬉しそうに笑った。

「お兄ちゃん、痛くない!」

「ああ……よかった。本当に……生きててくれてよかっ」

 声を詰まらせて抱きしめ、少し苦しいと文句を言われる。血走った目の色は元に戻り、優しい色を浮かべた。リリアーナもほっとした様子で竜化を解く。

 状況分析に長けたオリヴィエラは、倒れた侍女を起こして子供達の数を確かめるよう命じる。オレや彼女の姿に慌てた侍女が同僚を起こし、彼女らは大急ぎで子供の顔や状態を確認した。

「保護した子は全員揃っているようです」

 オリヴィエラの報告を受け、疲れて怠い身体の不調を隠して頷く。貧血に似た症状は以前も経験していた。魔力の急速な欠乏による眠りだ。

「サタン様、約束。一緒に休んで」

 駆け寄ったリリアーナが、まるで自分が休みたいかのように告げ、強く引っ張った。だが城の結界がまだ万全ではない。そう告げるオレに、オリヴィエラが肩を竦めた。

「陛下のお力なら一瞬でしょうけれど、私達にも活躍の場をお譲りいただきたいわ」

 その言い回しに、彼女も気づいているのだと理解した。途端に身体が重く感じられ、任せると口にする。以前なら絶対にしなかった行動だが、なぜか悪くないと思った。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

処理中です...