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第8章 強者の元に集え

241.教育の成果はいかに

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 徒手空拳、武器は己の爪と腕力のみ。少女の姿をみて侮る兵士を、リリアーナは怒りに任せて叩き伏せた。爪で剣の刃先を受け止め、槍を弾き、彼らから武器を奪って地面に這わせる。武術の心得はない。そんな洗練された動きではなかった。

 逆に野生の獣が持つ俊敏さと無駄のない動きは、リリアーナの褐色の肌や金髪と相まって、美しい獣のようだ。尻尾のように動きを追う金髪と、黒豹に似たしなやかな体裁きは見事の一言に尽きる。

 数十人いた衛兵や騎士を足元に這わせ、リリアーナは勝ち誇った顔で胸を反らした。フリルや襟の刺繍がある程度のシンプルなワンピースは、最初の袖以外傷ついていない。呻く男を足蹴にしてリリアーナは駆け戻ってきた。

「傷がついちゃった」

 唇を尖らせて拗ねた少女の頭を撫でてやり、向きを変えて玉座の方を示す。そこで、まだ掃討中なのを思い出したリリアーナは、八つ当たりできる対象に目を輝かせた。

「殺す? 生け捕り?」

 彼女の尋ね方は狩りの時と同じだ。最強種のドラゴンにとってこれは狩りであり、遊びの一環に過ぎない。残酷なほど力の差がある状況、リリアーナの傲慢な態度は当然だった。人間が同じように考えるはずはなく、自慢の守護兵が子供に倒された現状を認めたくない。

「卑怯なっ!」

「そ、そうだ! 魔法を使ったんだろう」

「こんな子供に負けるわけがない」

 口々にリリアーナの実力を否定する。これこそ、望んでいた状況だった。リリアーナは実力を発揮できない幼い頃に父と生き別れ、同族に否定されて過ごした。その後オレの配下となり、実力を高めて揮う術を覚える。驕りが彼女の言動の端に見えるようになったのは、黒竜王アルシエルが来る少し前だ。

 このまま自分を肯定する生き方も一つだが、他の種族と共存する未来を選ぶなら方向修正した方がよい。己の強さに溺れ、クリスティーヌやウラノスへの態度が変わっている。本人に自覚がないなら、何らかの方法で彼女に弱者との差を理解させる必要があった。

 グルル……不満そうにリリアーナが喉を鳴らす。不当な言いがかりだが、弱者の遠吠えは常に不条理だった。一方的な見解で強者を卑怯だと罵る。力があるのが狡い、勝つのは卑怯だ、こんなに力の差があるなんて。聞き飽きた言葉だが、リリアーナには効果があるだろう。

 ここで実力行使に出るなら、リリアーナの実戦は早すぎたと判断すべきだ。言葉で相手に対抗しようと試みるなら、教育の成果が実を結んだと褒めてやれる。対応次第で間に入るが、リリアーナの出方を待った。王族や貴族の罵りに頬を膨らませて、足元の兵士を蹴飛ばす。

「……魔法は使ってない。サタン様の命令を守ったもん」

 不満そうに唸りながらも言葉で対抗したリリアーナの成長に、頬が緩んだ。彼女は確かに成長している。驚くほどの速さでオレのやり方を吸収し、少しでも近づこうと努力していた。誉めてやろうと手を伸ばした指先がぴくりと揺れる。

 広範囲にわたる魔力感知に、強大な魔力が引っかかった。重なっているが2つか。アルシエルを凌ぐ魔力の持ち主の出現に、背筋をぞろりと歓喜が走った。
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