上 下
244 / 438
第8章 強者の元に集え

242.神より残酷な種族はない

しおりを挟む
 魔力に気づいたリリアーナが眉を寄せる。クリスティーヌも袖を掴む指先に力を入れた。不安そうな2人は馴染みのない強大な魔力に、対応を決めかねている。相手が判別できたものの、向かってくる理由がわからないのだ。

「来るぞ」

 告げた瞬間、玉座との間に魔法陣が浮かんだ。転移用の魔法陣だが、設置の仕方が変わっている。

 通常は立っている状態で使うため、足元の床に出現する。その方が転移の終点の安全確保がしやすいのだ。高さを間違えれば、転移先で足が床に埋まる可能性もあった。その危険性を排除する目的で、床に平面の魔法陣を描き転移するのが一般的だった。

 双子の魔法陣は床の上、空中に刻まれる。使用される魔力量は、床に描く際の3倍近かった。球体の魔法陣は複雑であり、円とは情報量が違う。圧倒的な力を見せつけながら、するりと姿を見せた2人は魔法陣を駆け抜けた。

「お待たせ」

「復活した」

 抱き着いて甘える2人を受け止めたオレに、リリアーナが駆け寄る。彼女の知るアナトやバアルは、ぐったりとベッドに横たわる姿だった。元気な様子に嬉しそうに頬を緩めるリリアーナは、他者への気遣いを自然と身に着けていた。

「ククルはまだか?」

 残された1人の名を口にすれば、バアルが唸った。

「胸の大きいお姉さんに抱き着いて甘えてた」

 オリヴィエラか? ロゼマリアではないだろう。記憶にある姿から失礼な判断を下した。アースティルティトにも懐いていたが、彼女も胸が豊かだったな。

「そ、そなたらは何者だっ!」

「無礼であるぞ」

「そうだ! ここはイザヴェル国の王宮……」

 叫ぶ人間を見回し、アナトはふんと鼻を鳴らした。力もないくせに喚く人間を不快に感じているのは、兄バアルも同様だ。

「あの煩いのは片付ける」

「処分して早く城へ帰ろう」

 オレの魔力が城から離れたのを感知して、回復した魔力の試験がてら飛んだらしい。元神族である双子の能力は高く、イザヴェルの王都を吹き飛ばすくらい簡単だった。

「やだ! 私の獲物なんだから」

「ええ~、一緒に片付けるのもダメ?」

 アナトが首をかしげて妥協案を提示すると、困惑した顔でオレの判断を求める。ペットとして可愛いのだが、配下としては失格だった。まだまだ手を放すのは先の話かと肩を竦める。

「この獲物はリリアーナにやった。お前たちは外で遊べ」

 言外に王都で遊んでもいいと告げれば、彼と彼女は顔を見合わせ笑う。無邪気に、ご褒美をもらった犬のように嬉しそうに、それでいて子供ゆえの残酷さを秘めていた。更地にするなと注意する必要はない。付き合いが長い分、言葉のトーンで正確に意図を推し量ることが可能だった。

「焼くか、煮るか、挟むか、潰すか……」

くよ」

 バアルの指折りの提案を、アナトは浮かれた声で遮った。妹であるアナトは普段は大人しく、兄バアルの奔放さが目立つ。普段の言動からバアルが過激だと思われるが、実際に一番残虐性が強いのはアナトだった。アースティルティトも呆れるほど、人間を見下す傾向がある。それを承知で言いつけた。

 イザヴェルの難民を受け入れる器がない。ならば生き永らえさせ、苦労して他国へ渡ったのちに受け入れられず拒否されるより、この場で奪う方がマシだろう。どれほど傲慢で自分勝手な言い分か理解しながら、オレは撤回しなかった。手を伸ばせる距離も、救える範囲も変わりはしない。

 双子の背にばさりと羽が生まれる。片翼を奪われた痛々しい背中の傷を平然と晒し、堕とされた双子神はふわりと浮いた。玉座に光を降らせる天窓を消し去り、2人は屋根の上で羽ばたいた。両手を繋いだ双子が魔力を練る。眩しい光が2人の前に生まれ、日差しが作った影を光で塗り潰した。

「「アィヤムル」」

 重ねられた声が、イザヴェルの王都に降り注ぎ……閃光が街を覆う。軍事国家イザヴェルの歴史の幕が降ろされる合図となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...