178 / 438
第7章 踊る道化の足元は
176.褒美の下賜は望むままに
しおりを挟む
群れのトップの号令に、銀狼は鳴き声ではなく行動で応えた。20人程の騎馬兵を取り囲み、迎撃の剣を向ける間を与えない。茂みから飛んだ勢いで、馬の首を噛んだ。後ろから馬の足や腹に牙を突き立てる同族は、互いに警戒しあっている。上の人間が持つ剣に傷つけられぬよう、見張り役を務める仲間の指示で、離れて新たに噛み付いた。
人間を乗せた馬の動きは限られる。故に蹴られる心配なく攻撃が可能で、最高の獲物だった。森の奥にある山で待つ家族への土産にするため、1頭も逃す気はない。倒れる馬が出て、振り落とされた人間が剣を乱暴に振り回す。雄叫びに似た叫びを放つ喉を、マーナガルムの爪が引き裂いた。
「我が君の与えてくださった栄誉ぞ! 大将首を落とす」
マルコシアスの指示に、一際大きな体の銀狼が数頭集まった。外敵との戦いを担当してきた狼は、他の同族より大きく傷も多い。熊やサーペント、爪のある鳥類とも戦った経験豊富な狼兵は、それ故に強さも群を抜いていた。
唸りながら距離を詰め、飛びかかるタイミングを合わせる。一斉に飛びついた鎧の男が悲鳴をあげて転げ回った。馬から落とせばこちらのものだ。鎧の上から肩を噛み砕いたマルコシアスが、勝利の声を上げる。
呼応する同族が鳴き声を返し、遠吠えは森を貫いた。周囲の動物を遠ざけ、獲物の横取りを防ぐ目的もある。主人に献上する獲物を足で押さえつけるマルコシアスの前に、転移魔法陣で魔王が降り立った。
黒いぴたりとした革服に、マントをつけた美丈夫は成果を見て満足そうに笑う。
「よくやった。さすがは銀狼の一族よ」
手放しで褒めた魔王が献上品を受け取る頃には、他の獲物は大半が噛み殺されていた。生きたまま腸を引きずり出す激痛に目を見開いた死体は、まだ温かく血の芳香と湯気を燻らせる。
狼は集団で狩りをする。魔物である銀狼や魔狼は、主人や群れのボスにすべての獲物を献上し、その後下賜された肉を食料として公平に分ける種族だ。多少弱くとも、貢献する意思がある同族に彼らは優しかった。集団で狩りをするのは、成功数を上げて生存率を高める本能なのだ。
献上された獲物を確認し、魔王は検分したと頷いた。
「他の獲物はそなたらで分けるがよい」
「温情に感謝申し上げます」
マルコシアスの挨拶に頷き、鎧の男だけを回収した魔王が転移で消える。魔法陣が消えるのを待たずに、狼達は獲物を引き裂き始めた。まだ息のある獲物もあったようで「ひぃ」「やめろ」と叫ぶ声や絶叫が木霊する。
手早く獲物を分割した狼達に山へ戻るよう指示した。数匹、人間と馬を生かしたまま捕獲したのは、新鮮な餌を子狼に与えるためだ。痛めつけて反撃できなくした獲物を襲う練習を、生まれたばかりの子狼に体験させるよい機会だった。
マルコシアスは手足を折った人間を引きずり、息子のマーナガルムも人間を咥えた。狼兵として最前線で戦う銀狼も馬の手綱を上手に咥えて移動を始める。森を抜け、わずか数時間でたどり着く山の中腹へ、狼達は凱旋の遠吠えを放ちながら踏み出した。
テッサリアに、奇妙な荷物を持った難民が一人辿り着いたのは、この時期だった。他国の戦を知るよしもない男は、グリュポスの国旗にある紋様が刻まれた剣を手にしていた。短剣と呼ぶほど短く折れた剣と、何かを包んだ布袋を持った男は、テッサリアの端にある村に住み着く。若い男性は働き手として歓迎された。
彼はやがて見出され、その運命を己で切り拓くが――それはまだ先の話である。
人間を乗せた馬の動きは限られる。故に蹴られる心配なく攻撃が可能で、最高の獲物だった。森の奥にある山で待つ家族への土産にするため、1頭も逃す気はない。倒れる馬が出て、振り落とされた人間が剣を乱暴に振り回す。雄叫びに似た叫びを放つ喉を、マーナガルムの爪が引き裂いた。
「我が君の与えてくださった栄誉ぞ! 大将首を落とす」
マルコシアスの指示に、一際大きな体の銀狼が数頭集まった。外敵との戦いを担当してきた狼は、他の同族より大きく傷も多い。熊やサーペント、爪のある鳥類とも戦った経験豊富な狼兵は、それ故に強さも群を抜いていた。
唸りながら距離を詰め、飛びかかるタイミングを合わせる。一斉に飛びついた鎧の男が悲鳴をあげて転げ回った。馬から落とせばこちらのものだ。鎧の上から肩を噛み砕いたマルコシアスが、勝利の声を上げる。
呼応する同族が鳴き声を返し、遠吠えは森を貫いた。周囲の動物を遠ざけ、獲物の横取りを防ぐ目的もある。主人に献上する獲物を足で押さえつけるマルコシアスの前に、転移魔法陣で魔王が降り立った。
黒いぴたりとした革服に、マントをつけた美丈夫は成果を見て満足そうに笑う。
「よくやった。さすがは銀狼の一族よ」
手放しで褒めた魔王が献上品を受け取る頃には、他の獲物は大半が噛み殺されていた。生きたまま腸を引きずり出す激痛に目を見開いた死体は、まだ温かく血の芳香と湯気を燻らせる。
狼は集団で狩りをする。魔物である銀狼や魔狼は、主人や群れのボスにすべての獲物を献上し、その後下賜された肉を食料として公平に分ける種族だ。多少弱くとも、貢献する意思がある同族に彼らは優しかった。集団で狩りをするのは、成功数を上げて生存率を高める本能なのだ。
献上された獲物を確認し、魔王は検分したと頷いた。
「他の獲物はそなたらで分けるがよい」
「温情に感謝申し上げます」
マルコシアスの挨拶に頷き、鎧の男だけを回収した魔王が転移で消える。魔法陣が消えるのを待たずに、狼達は獲物を引き裂き始めた。まだ息のある獲物もあったようで「ひぃ」「やめろ」と叫ぶ声や絶叫が木霊する。
手早く獲物を分割した狼達に山へ戻るよう指示した。数匹、人間と馬を生かしたまま捕獲したのは、新鮮な餌を子狼に与えるためだ。痛めつけて反撃できなくした獲物を襲う練習を、生まれたばかりの子狼に体験させるよい機会だった。
マルコシアスは手足を折った人間を引きずり、息子のマーナガルムも人間を咥えた。狼兵として最前線で戦う銀狼も馬の手綱を上手に咥えて移動を始める。森を抜け、わずか数時間でたどり着く山の中腹へ、狼達は凱旋の遠吠えを放ちながら踏み出した。
テッサリアに、奇妙な荷物を持った難民が一人辿り着いたのは、この時期だった。他国の戦を知るよしもない男は、グリュポスの国旗にある紋様が刻まれた剣を手にしていた。短剣と呼ぶほど短く折れた剣と、何かを包んだ布袋を持った男は、テッサリアの端にある村に住み着く。若い男性は働き手として歓迎された。
彼はやがて見出され、その運命を己で切り拓くが――それはまだ先の話である。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる