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第7章 踊る道化の足元は
177.そなたの主君に足る器か
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ドラゴンがばさりと羽をはためかせて舞い降りる。するすると人化したリリアーナは、大急ぎでワンピースを被った。上空から飛び下りたウラノスが、くるりと一回転して猫のようにしなやかに着地する。リリアーナがワンピースを被る姿にぼやいた。
「年頃の乙女が外で着替えずに済むよう、先にこちらを教えるべきか」
ひらひら舞う大きなコウモリも人化して地に足をつけるが、半分ほどワンピースに首を突っ込んだところで動けなくなった。どうやら引っかかったらしい。もぞもぞ動くが、脱いで着直す選択肢はないようだ。慌てたリリアーナが駆け付けて、首と腕の位置を調整し直した。
「ありがと、リリー」
「降りてから着ればいいのよ」
「うん……」
それが嫌だから途中で服を着たのだが、そこら辺の羞恥心が薄いリリアーナに説明しないところが、クリスティーヌらしい。配下のやりとりを苦笑いして見守る頭上で、グリフォンが滑空して高度を落とす。そのまま器用に服を着替えて地面に降り立った。
長く生きた分だけ器用なグリフォンは、背の翼を残して変化した。その理由が背に乗せていたロゼマリアの存在だろう。自分だけなら地表近くで人化しても間に合った。しかしロゼマリアを落とす心配があるため、ある程度高さのあるうちに人化して、彼女を抱いて降りることを選択したのだ。
「ヴィラは上手だね」
「ありがとうございます、リリアーナ様。今度コツを教えましょうか?」
「いいの? やった!」
「私も、私もやる」
褒めたリリアーナに、オリヴィエラがくすくす笑いながら提案する。受け入れたリリアーナに、過去の遺恨はなさそうだ。一時期は裏切ったオリヴィエラを敵視してたが、ようやく落ち着いた。クリスティーヌも一緒に覚えると大騒ぎする。
微笑ましい光景だが、これは三万強の大軍をほぼ壊滅させた強者の集まりだ。何も知らなければ、仲の良い姉妹のじゃれ合いに見えた。
「ひとまず喉が渇いたので、お茶にしませんか?」
ロゼマリアの提案で、彼女たちはガゼボに向かう。女性だけで楽しむよう告げ、彼女らの労をねぎらう意味で茶菓子の差し入れを申し出ておいた。騒がしい少女達がいなくなると、ウラノスに近づく。
「先ほどの魔法陣は見事だった」
にやりと笑ったウラノスは、少年の外見に似合わぬ言葉遣いで返した。
「恐悦至極。我が君のお役に立てたなら幸いですな」
見た目は美少年なのに、年寄りくさい言葉を使うのは、彼が長寿な証拠だろう。魔族の中には外見年齢を自由に操る者もいる。魔族同士は互いを魔力や本能で判断し、外見で侮る愚かな種族は人間くらいだった。
「オレはそなたの主君に足る器か」
「他に我を扱える器量の者がおりましょうか?」
戯けた口調で肩を竦めるウラノスの銀髪をくしゃりと撫で、オレは何も言わなかった。この男の持つ不思議な懐かしさも、いずれわかるだろう。解らぬことは解らぬ理由がある。それを無理に暴く無粋を、オレは好まなかった。
「年頃の乙女が外で着替えずに済むよう、先にこちらを教えるべきか」
ひらひら舞う大きなコウモリも人化して地に足をつけるが、半分ほどワンピースに首を突っ込んだところで動けなくなった。どうやら引っかかったらしい。もぞもぞ動くが、脱いで着直す選択肢はないようだ。慌てたリリアーナが駆け付けて、首と腕の位置を調整し直した。
「ありがと、リリー」
「降りてから着ればいいのよ」
「うん……」
それが嫌だから途中で服を着たのだが、そこら辺の羞恥心が薄いリリアーナに説明しないところが、クリスティーヌらしい。配下のやりとりを苦笑いして見守る頭上で、グリフォンが滑空して高度を落とす。そのまま器用に服を着替えて地面に降り立った。
長く生きた分だけ器用なグリフォンは、背の翼を残して変化した。その理由が背に乗せていたロゼマリアの存在だろう。自分だけなら地表近くで人化しても間に合った。しかしロゼマリアを落とす心配があるため、ある程度高さのあるうちに人化して、彼女を抱いて降りることを選択したのだ。
「ヴィラは上手だね」
「ありがとうございます、リリアーナ様。今度コツを教えましょうか?」
「いいの? やった!」
「私も、私もやる」
褒めたリリアーナに、オリヴィエラがくすくす笑いながら提案する。受け入れたリリアーナに、過去の遺恨はなさそうだ。一時期は裏切ったオリヴィエラを敵視してたが、ようやく落ち着いた。クリスティーヌも一緒に覚えると大騒ぎする。
微笑ましい光景だが、これは三万強の大軍をほぼ壊滅させた強者の集まりだ。何も知らなければ、仲の良い姉妹のじゃれ合いに見えた。
「ひとまず喉が渇いたので、お茶にしませんか?」
ロゼマリアの提案で、彼女たちはガゼボに向かう。女性だけで楽しむよう告げ、彼女らの労をねぎらう意味で茶菓子の差し入れを申し出ておいた。騒がしい少女達がいなくなると、ウラノスに近づく。
「先ほどの魔法陣は見事だった」
にやりと笑ったウラノスは、少年の外見に似合わぬ言葉遣いで返した。
「恐悦至極。我が君のお役に立てたなら幸いですな」
見た目は美少年なのに、年寄りくさい言葉を使うのは、彼が長寿な証拠だろう。魔族の中には外見年齢を自由に操る者もいる。魔族同士は互いを魔力や本能で判断し、外見で侮る愚かな種族は人間くらいだった。
「オレはそなたの主君に足る器か」
「他に我を扱える器量の者がおりましょうか?」
戯けた口調で肩を竦めるウラノスの銀髪をくしゃりと撫で、オレは何も言わなかった。この男の持つ不思議な懐かしさも、いずれわかるだろう。解らぬことは解らぬ理由がある。それを無理に暴く無粋を、オレは好まなかった。
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