47 / 159
第46話 視察の同行でお買い物
しおりを挟む
仮にも倭国最高位の巫女が、禁足地に入って封印を壊した。幼い頃やらかした事件以上の騒動になる。この話が外へ出れば、分家や公家の貴族共が黙っていないだろう。シンは可愛い妹を守る決断をした。それに賛同したのが、次女ヒスイだ。まだ話は通っていないが、長女アオイも同意するだろう。
慣例により皇帝である父の妻は四人いる。それぞれの母親だ。全員が母親違いで生まれ、高位を争う立場だった。女性でも皇位継承権は同じ、生まれた順番で与えられる。
武に特化して舞姫として有名なヒスイは、皇太子シンを脅かす存在になれる。長姉アオイは巫女としての能力が高く、もしアイリーンが生まれなければ最高の地位を得ただろう。大神宮の神主を約束された彼女だが、今は立場を保留にしている。
最後に生まれた末っ子姫アイリーンは、様々な意味で規格外だった。生まれた瞬間から神々の祝福を受け、巫女としての能力も高い。天真爛漫で笑顔を振り撒いて、誰でも味方にする才能があった。その能力が違う方向へ発揮されたのが、三歳の祝いを行った翌日だ。
最終的に神狐ココと契約することで、騒動は収まった。だが制約がついてしまう。巫女として倭国に一生を捧げ、類稀な才能をすべて神々のために使え、と。彼女の命を奪うかどうかの瀬戸際で、ようやく引き出せた譲歩だった。
可哀想だが、幼子の運命は定まる。家族が彼女に対して甘く、過保護になるのはこの事件が尾を引いていた。
「アオイには、僕から話しておく」
どうしよう、思ったより騒動が大きいわ。やっぱりキエに言われた通り、黙っていればよかった。肩を落とすアイリーンだが、牛車が街に入ると表情が明るくなる。普段は下りて来られない街の様子に目を輝かせた。
「下りて買い物をしようか」
視察の仕事を先に済ませようと提案され、アイリーンは大きく頷いた。可愛い妹を落ち込ませておくのは、二人とも本意ではない。薄衣を纏った三人は牛車から降り、賑わう人の群れに足を踏み入れた。
透き通った飴細工を兄に買ってもらったアイリーンは、光に輝く蝶に満面の笑みを浮かべる。次に野菜や魚の価格を確かめ、途中で姉が小さな鈴が連なる飾りを買い与えた。舞うなら音も添えたら、なお引き立つと考えたのだ。
国一番の舞い手から送られた鈴を、末っ子は嬉しそうに抱き締めた。ココは小さなぬいぐるみのように肩で蹲り、時々あれが欲しいと示してくる。アイリーンのお小遣いから出したのは、兄と姉に色違いの筆の代金とココのおやつにする干し肉だった。
ふらふらと街を歩くも、薄衣を羽織った姿は目立つ。人々はぶつからないよう避けてくれるし、とても歩きやすかった。逸れてしまう心配も不要だ。
ぐるりと見て回った三人は、子どもを育てる施設へ向かうことになった。この国では、子は宝として慈しまれる。両親がいなくても、育てられなくても、国の税で暮らしが賄われた。いずれ国を支える柱の一本になるのが、子ども達だ。大切にする意味を、誰もが理解していた。
「子ども達へのお土産も買っていきましょうか」
ヒスイの提案で、アイリーンやシンはお菓子を選び始めた。喜んでくれる顔を想像するだけで嬉しくなる。両手いっぱいに選んだアイリーンの横で、シンは数種類を手に取り「これを三十人分」と手際よく頼んだ。
「シン兄様、手慣れてるわね」
「両手が塞がらないよう考えるのも、政の一つだからね」
くすくすと笑う兄を見習い、アイリーンもお店の人に頼んだ。
「このお菓子を五倍用意して」
慣例により皇帝である父の妻は四人いる。それぞれの母親だ。全員が母親違いで生まれ、高位を争う立場だった。女性でも皇位継承権は同じ、生まれた順番で与えられる。
武に特化して舞姫として有名なヒスイは、皇太子シンを脅かす存在になれる。長姉アオイは巫女としての能力が高く、もしアイリーンが生まれなければ最高の地位を得ただろう。大神宮の神主を約束された彼女だが、今は立場を保留にしている。
最後に生まれた末っ子姫アイリーンは、様々な意味で規格外だった。生まれた瞬間から神々の祝福を受け、巫女としての能力も高い。天真爛漫で笑顔を振り撒いて、誰でも味方にする才能があった。その能力が違う方向へ発揮されたのが、三歳の祝いを行った翌日だ。
最終的に神狐ココと契約することで、騒動は収まった。だが制約がついてしまう。巫女として倭国に一生を捧げ、類稀な才能をすべて神々のために使え、と。彼女の命を奪うかどうかの瀬戸際で、ようやく引き出せた譲歩だった。
可哀想だが、幼子の運命は定まる。家族が彼女に対して甘く、過保護になるのはこの事件が尾を引いていた。
「アオイには、僕から話しておく」
どうしよう、思ったより騒動が大きいわ。やっぱりキエに言われた通り、黙っていればよかった。肩を落とすアイリーンだが、牛車が街に入ると表情が明るくなる。普段は下りて来られない街の様子に目を輝かせた。
「下りて買い物をしようか」
視察の仕事を先に済ませようと提案され、アイリーンは大きく頷いた。可愛い妹を落ち込ませておくのは、二人とも本意ではない。薄衣を纏った三人は牛車から降り、賑わう人の群れに足を踏み入れた。
透き通った飴細工を兄に買ってもらったアイリーンは、光に輝く蝶に満面の笑みを浮かべる。次に野菜や魚の価格を確かめ、途中で姉が小さな鈴が連なる飾りを買い与えた。舞うなら音も添えたら、なお引き立つと考えたのだ。
国一番の舞い手から送られた鈴を、末っ子は嬉しそうに抱き締めた。ココは小さなぬいぐるみのように肩で蹲り、時々あれが欲しいと示してくる。アイリーンのお小遣いから出したのは、兄と姉に色違いの筆の代金とココのおやつにする干し肉だった。
ふらふらと街を歩くも、薄衣を羽織った姿は目立つ。人々はぶつからないよう避けてくれるし、とても歩きやすかった。逸れてしまう心配も不要だ。
ぐるりと見て回った三人は、子どもを育てる施設へ向かうことになった。この国では、子は宝として慈しまれる。両親がいなくても、育てられなくても、国の税で暮らしが賄われた。いずれ国を支える柱の一本になるのが、子ども達だ。大切にする意味を、誰もが理解していた。
「子ども達へのお土産も買っていきましょうか」
ヒスイの提案で、アイリーンやシンはお菓子を選び始めた。喜んでくれる顔を想像するだけで嬉しくなる。両手いっぱいに選んだアイリーンの横で、シンは数種類を手に取り「これを三十人分」と手際よく頼んだ。
「シン兄様、手慣れてるわね」
「両手が塞がらないよう考えるのも、政の一つだからね」
くすくすと笑う兄を見習い、アイリーンもお店の人に頼んだ。
「このお菓子を五倍用意して」
95
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる