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第46話 視察の同行でお買い物
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仮にも倭国最高位の巫女が、禁足地に入って封印を壊した。幼い頃やらかした事件以上の騒動になる。この話が外へ出れば、分家や公家の貴族共が黙っていないだろう。シンは可愛い妹を守る決断をした。それに賛同したのが、次女ヒスイだ。まだ話は通っていないが、長女アオイも同意するだろう。
慣例により皇帝である父の妻は四人いる。それぞれの母親だ。全員が母親違いで生まれ、高位を争う立場だった。女性でも皇位継承権は同じ、生まれた順番で与えられる。
武に特化して舞姫として有名なヒスイは、皇太子シンを脅かす存在になれる。長姉アオイは巫女としての能力が高く、もしアイリーンが生まれなければ最高の地位を得ただろう。大神宮の神主を約束された彼女だが、今は立場を保留にしている。
最後に生まれた末っ子姫アイリーンは、様々な意味で規格外だった。生まれた瞬間から神々の祝福を受け、巫女としての能力も高い。天真爛漫で笑顔を振り撒いて、誰でも味方にする才能があった。その能力が違う方向へ発揮されたのが、三歳の祝いを行った翌日だ。
最終的に神狐ココと契約することで、騒動は収まった。だが制約がついてしまう。巫女として倭国に一生を捧げ、類稀な才能をすべて神々のために使え、と。彼女の命を奪うかどうかの瀬戸際で、ようやく引き出せた譲歩だった。
可哀想だが、幼子の運命は定まる。家族が彼女に対して甘く、過保護になるのはこの事件が尾を引いていた。
「アオイには、僕から話しておく」
どうしよう、思ったより騒動が大きいわ。やっぱりキエに言われた通り、黙っていればよかった。肩を落とすアイリーンだが、牛車が街に入ると表情が明るくなる。普段は下りて来られない街の様子に目を輝かせた。
「下りて買い物をしようか」
視察の仕事を先に済ませようと提案され、アイリーンは大きく頷いた。可愛い妹を落ち込ませておくのは、二人とも本意ではない。薄衣を纏った三人は牛車から降り、賑わう人の群れに足を踏み入れた。
透き通った飴細工を兄に買ってもらったアイリーンは、光に輝く蝶に満面の笑みを浮かべる。次に野菜や魚の価格を確かめ、途中で姉が小さな鈴が連なる飾りを買い与えた。舞うなら音も添えたら、なお引き立つと考えたのだ。
国一番の舞い手から送られた鈴を、末っ子は嬉しそうに抱き締めた。ココは小さなぬいぐるみのように肩で蹲り、時々あれが欲しいと示してくる。アイリーンのお小遣いから出したのは、兄と姉に色違いの筆の代金とココのおやつにする干し肉だった。
ふらふらと街を歩くも、薄衣を羽織った姿は目立つ。人々はぶつからないよう避けてくれるし、とても歩きやすかった。逸れてしまう心配も不要だ。
ぐるりと見て回った三人は、子どもを育てる施設へ向かうことになった。この国では、子は宝として慈しまれる。両親がいなくても、育てられなくても、国の税で暮らしが賄われた。いずれ国を支える柱の一本になるのが、子ども達だ。大切にする意味を、誰もが理解していた。
「子ども達へのお土産も買っていきましょうか」
ヒスイの提案で、アイリーンやシンはお菓子を選び始めた。喜んでくれる顔を想像するだけで嬉しくなる。両手いっぱいに選んだアイリーンの横で、シンは数種類を手に取り「これを三十人分」と手際よく頼んだ。
「シン兄様、手慣れてるわね」
「両手が塞がらないよう考えるのも、政の一つだからね」
くすくすと笑う兄を見習い、アイリーンもお店の人に頼んだ。
「このお菓子を五倍用意して」
慣例により皇帝である父の妻は四人いる。それぞれの母親だ。全員が母親違いで生まれ、高位を争う立場だった。女性でも皇位継承権は同じ、生まれた順番で与えられる。
武に特化して舞姫として有名なヒスイは、皇太子シンを脅かす存在になれる。長姉アオイは巫女としての能力が高く、もしアイリーンが生まれなければ最高の地位を得ただろう。大神宮の神主を約束された彼女だが、今は立場を保留にしている。
最後に生まれた末っ子姫アイリーンは、様々な意味で規格外だった。生まれた瞬間から神々の祝福を受け、巫女としての能力も高い。天真爛漫で笑顔を振り撒いて、誰でも味方にする才能があった。その能力が違う方向へ発揮されたのが、三歳の祝いを行った翌日だ。
最終的に神狐ココと契約することで、騒動は収まった。だが制約がついてしまう。巫女として倭国に一生を捧げ、類稀な才能をすべて神々のために使え、と。彼女の命を奪うかどうかの瀬戸際で、ようやく引き出せた譲歩だった。
可哀想だが、幼子の運命は定まる。家族が彼女に対して甘く、過保護になるのはこの事件が尾を引いていた。
「アオイには、僕から話しておく」
どうしよう、思ったより騒動が大きいわ。やっぱりキエに言われた通り、黙っていればよかった。肩を落とすアイリーンだが、牛車が街に入ると表情が明るくなる。普段は下りて来られない街の様子に目を輝かせた。
「下りて買い物をしようか」
視察の仕事を先に済ませようと提案され、アイリーンは大きく頷いた。可愛い妹を落ち込ませておくのは、二人とも本意ではない。薄衣を纏った三人は牛車から降り、賑わう人の群れに足を踏み入れた。
透き通った飴細工を兄に買ってもらったアイリーンは、光に輝く蝶に満面の笑みを浮かべる。次に野菜や魚の価格を確かめ、途中で姉が小さな鈴が連なる飾りを買い与えた。舞うなら音も添えたら、なお引き立つと考えたのだ。
国一番の舞い手から送られた鈴を、末っ子は嬉しそうに抱き締めた。ココは小さなぬいぐるみのように肩で蹲り、時々あれが欲しいと示してくる。アイリーンのお小遣いから出したのは、兄と姉に色違いの筆の代金とココのおやつにする干し肉だった。
ふらふらと街を歩くも、薄衣を羽織った姿は目立つ。人々はぶつからないよう避けてくれるし、とても歩きやすかった。逸れてしまう心配も不要だ。
ぐるりと見て回った三人は、子どもを育てる施設へ向かうことになった。この国では、子は宝として慈しまれる。両親がいなくても、育てられなくても、国の税で暮らしが賄われた。いずれ国を支える柱の一本になるのが、子ども達だ。大切にする意味を、誰もが理解していた。
「子ども達へのお土産も買っていきましょうか」
ヒスイの提案で、アイリーンやシンはお菓子を選び始めた。喜んでくれる顔を想像するだけで嬉しくなる。両手いっぱいに選んだアイリーンの横で、シンは数種類を手に取り「これを三十人分」と手際よく頼んだ。
「シン兄様、手慣れてるわね」
「両手が塞がらないよう考えるのも、政の一つだからね」
くすくすと笑う兄を見習い、アイリーンもお店の人に頼んだ。
「このお菓子を五倍用意して」
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