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第45話 よく理解できなかったわ
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街に向かう牛車の中で、いろいろとバレてしまった。本当にヒスイ姉様は聞き上手というか、隠し事が出来ないのよね。アイリーンは諦めて、ほとんどを白状した。隠しても無駄だと思う。最後は上手に聞き出されるんだもの。
「ふーん、このところ眠そうにしていた理由が分かったわ」
「父上もお人が悪い。リンもそうだけど、相談してくれたらいいのに」
すみません。そう、頭を下げる以外何も出来ない。膝に乗ったココは、我関せずで毛繕いを続けた。実害のない兄弟姉妹のやり取りに首を突っ込めば、自分へ飛び火するからだ。僕が責められるのは間違ってるよね、ココは白い毛皮をぺろりと舐めた。
「シン兄様はお忙しいし、ヒスイ姉様も……」
同じく忙しい。倭国の政を動かしているのは、父ではなくこの二人だった。相談して煩わせるのも申し訳ないし、元は自分のミスだし。そんな口調で濁したアイリーンに、ヒスイは穏やかに微笑みかけた。
「その場で解決する約束は出来なくても、話して欲しいわ。だって家族だもの」
「次からは気を付けます」
家族だからと言われたら、アイリーンは弱い。幼い頃にやらかした騒動で、皇族から外して大神宮へ送ったらどうか。そんな話が出たことがあった。その際に父は無言で抵抗を示し、兄と姉達は全力で守ってくれた。
家族だけは裏切らず大切にしよう。幼いアイリーンが心を決めるには、十分すぎる出来事だった。恩があるからではなく、私を愛する家族を私も愛し抜く。守る力があるなら、家族も国も大切にしたい。自然にそんな感情が生まれた。
ココと契約したことで見逃された罰は、今もアイリーンの言動を縛る鎖だ。神々との約定を違える事なかれ、アイリーン自身が誰より理解していた。
「ところで、狗神様は祭壇がない気がするけれど」
自ら祭祀を行わぬ皇太子シンだが、国を守る神々の数とお名前は知っている。祭壇を持つ神々は、倭国と繋がりを持ち御力を振るう。だが狗神と称される神様に心当たりがなかった。
言いづらい。出来たら言わずに済ませたかった。兄が気づいてしまえば、アイリーンは答えるしかない。ごめんなさい、お父様、キエ。完全にバレました。心の中で謝ってから、口を開いた。
「お屋敷の裏の……禁足地に封じられてて……封印の木札を割っちゃったんです」
「……はい?」
「ごめんなさいね、リン。よく理解できなかったわ」
尋ね返す意図で首を傾げる兄、理解できないと言いながら手にした扇をへし折った姉。どちらも怖いし、どちらも目が真剣だ。アイリーンは震えながら同じ言葉を繰り返した。二度目を聞いた二人はそれぞれに感情を処理するため、長い間黙り込む。
『リン、封印を破いた話は言わなくて良かったと思うよ』
「……そういうことは、もっと早くお願い」
ぼそぼそと内緒話をした巫女と神狐に、皇太子シンは思わぬ提案をした。
「聞かなかったことにしよう、その方が平和だ」
「……お兄様がそう決めたのでしたら」
シンの決断に、ヒスイも同調する。よほどマズイ状況なのだろうと、神妙な顔でアイリーンも頷いた。何が問題なのか、全く理解できていない様子で。
「ふーん、このところ眠そうにしていた理由が分かったわ」
「父上もお人が悪い。リンもそうだけど、相談してくれたらいいのに」
すみません。そう、頭を下げる以外何も出来ない。膝に乗ったココは、我関せずで毛繕いを続けた。実害のない兄弟姉妹のやり取りに首を突っ込めば、自分へ飛び火するからだ。僕が責められるのは間違ってるよね、ココは白い毛皮をぺろりと舐めた。
「シン兄様はお忙しいし、ヒスイ姉様も……」
同じく忙しい。倭国の政を動かしているのは、父ではなくこの二人だった。相談して煩わせるのも申し訳ないし、元は自分のミスだし。そんな口調で濁したアイリーンに、ヒスイは穏やかに微笑みかけた。
「その場で解決する約束は出来なくても、話して欲しいわ。だって家族だもの」
「次からは気を付けます」
家族だからと言われたら、アイリーンは弱い。幼い頃にやらかした騒動で、皇族から外して大神宮へ送ったらどうか。そんな話が出たことがあった。その際に父は無言で抵抗を示し、兄と姉達は全力で守ってくれた。
家族だけは裏切らず大切にしよう。幼いアイリーンが心を決めるには、十分すぎる出来事だった。恩があるからではなく、私を愛する家族を私も愛し抜く。守る力があるなら、家族も国も大切にしたい。自然にそんな感情が生まれた。
ココと契約したことで見逃された罰は、今もアイリーンの言動を縛る鎖だ。神々との約定を違える事なかれ、アイリーン自身が誰より理解していた。
「ところで、狗神様は祭壇がない気がするけれど」
自ら祭祀を行わぬ皇太子シンだが、国を守る神々の数とお名前は知っている。祭壇を持つ神々は、倭国と繋がりを持ち御力を振るう。だが狗神と称される神様に心当たりがなかった。
言いづらい。出来たら言わずに済ませたかった。兄が気づいてしまえば、アイリーンは答えるしかない。ごめんなさい、お父様、キエ。完全にバレました。心の中で謝ってから、口を開いた。
「お屋敷の裏の……禁足地に封じられてて……封印の木札を割っちゃったんです」
「……はい?」
「ごめんなさいね、リン。よく理解できなかったわ」
尋ね返す意図で首を傾げる兄、理解できないと言いながら手にした扇をへし折った姉。どちらも怖いし、どちらも目が真剣だ。アイリーンは震えながら同じ言葉を繰り返した。二度目を聞いた二人はそれぞれに感情を処理するため、長い間黙り込む。
『リン、封印を破いた話は言わなくて良かったと思うよ』
「……そういうことは、もっと早くお願い」
ぼそぼそと内緒話をした巫女と神狐に、皇太子シンは思わぬ提案をした。
「聞かなかったことにしよう、その方が平和だ」
「……お兄様がそう決めたのでしたら」
シンの決断に、ヒスイも同調する。よほどマズイ状況なのだろうと、神妙な顔でアイリーンも頷いた。何が問題なのか、全く理解できていない様子で。
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