45 / 159
第44話 巫女の向き不向き
しおりを挟む
用意した装束をキエに預け、指定した場所に届けてくれるよう頼んだ。神妙な顔で頷く彼女に、ココのお稲荷も注文する。
「姫様、ついでに頼むことではございませんよ」
「ごめん、でも約束しちゃったの。柚子風味も入れてあげてね」
仕方ないと笑うキエの承諾を得て、視察用の衣装に着替える。こちらは舞うわけでも動くわけでもないので、裾の長いワンピースドレスだ。倭国の意匠なので、和風ドレスと呼ぶべきかも。襟を右、左と合わせてから腰の部分に帯を締めた。帯飾りや紐を巻いて、可愛く結ぶ。
最後にふわりと薄衣を纏った。これは頭の上まで被るのが作法だ。普通に着用するサイズより、大きめに作られていた。男女関係なく、皇族や公家などの貴族は着用して街に出る。
面倒くさい部分もあるが、一目で身分が分かるように工夫したらしい。日除けになるので、女性には評判がよかった。今回は桜色のワンピースなので、薄桃の衣を羽織る。髪飾りは衣に引っかかるので控えめに、その代わりに手首と足首に玉の輪を飾った。
琥珀に近い蜂蜜のような色と、若草色を重ねて付ければしゃらんと音がする。満足して鏡の前でくるりと回った。
「うん、可愛い」
『そういうのって、人に言ってもらうものじゃない?』
「だって、私とココしかいないじゃない」
『ぼ、僕に言えと?!』
「違うわよ。人が私しかいないって意味」
褒め言葉を強要する気かと慌てるココへ、アイリーンはウィンクして臙脂色の草履を履いた。小さな刺繍が施された足袋もお気に入りだ。用意を終えて、兄の部屋へ向かう。当たり前のように飛びついたココを抱いて、静かに声をかけた。
「兄様、準備ができました」
「ああ、リンだね。入っていいよ」
珍しく戸の前に誰もいない。静かに開けて滑るように入れば、兄だけでなく姉もいた。真ん中の姉、ヒスイだ。
「ヒスイ姉様、ご一緒されるのですか」
外出用の準備を整え、薄衣を被った姉は艶やかな目元を緩めて笑った。赤を使った目はキツイ印象なのに、すごく引き立つ。少し垂れ目だとこの方が美人に見えるのね。巫女の化粧に近いため、アイリーンにも馴染みの赤だった。
「ええ。先日建てた子どもの保護施設を見に行きたいのよ」
巫女としての能力は授からなかったが、次女であるヒスイは政に長けている。普段から皇太子シンの補佐を行ってきた。今回もその延長だろうと頷く。
「リンはまた、何をしたいのかしら」
何をやらかすの? と匂わせながらも、途中で言葉を変えた姉はこてりと首を傾げる。皆、私が何か騒動を起こすと思ってるなんて。ぷんと頬を膨らませ、怒ってますよと示す。
「ある神様を祀るために、踊りたいのです。騒動なんて起こしません」
「おや、そうなのかい? まったく聞いていないけれどね」
確かに兄シンには外出を強請っただけで、理由を話していなかった。思わず話してしまい、慌てて口を手で押さえるも遅い。呆れ顔の神狐が、尻尾を大きく一振りした。
『ヒスイの才能って、こういうところだよね。巫女はバカが付くくらいまっすぐな子が向いてるから……』
遠回しに「巫女向きじゃない」とココが呟く。なるほどと思うアイリーンは眉を寄せた。ちょっと待って、それって私がバカって意味じゃない?
「姫様、ついでに頼むことではございませんよ」
「ごめん、でも約束しちゃったの。柚子風味も入れてあげてね」
仕方ないと笑うキエの承諾を得て、視察用の衣装に着替える。こちらは舞うわけでも動くわけでもないので、裾の長いワンピースドレスだ。倭国の意匠なので、和風ドレスと呼ぶべきかも。襟を右、左と合わせてから腰の部分に帯を締めた。帯飾りや紐を巻いて、可愛く結ぶ。
最後にふわりと薄衣を纏った。これは頭の上まで被るのが作法だ。普通に着用するサイズより、大きめに作られていた。男女関係なく、皇族や公家などの貴族は着用して街に出る。
面倒くさい部分もあるが、一目で身分が分かるように工夫したらしい。日除けになるので、女性には評判がよかった。今回は桜色のワンピースなので、薄桃の衣を羽織る。髪飾りは衣に引っかかるので控えめに、その代わりに手首と足首に玉の輪を飾った。
琥珀に近い蜂蜜のような色と、若草色を重ねて付ければしゃらんと音がする。満足して鏡の前でくるりと回った。
「うん、可愛い」
『そういうのって、人に言ってもらうものじゃない?』
「だって、私とココしかいないじゃない」
『ぼ、僕に言えと?!』
「違うわよ。人が私しかいないって意味」
褒め言葉を強要する気かと慌てるココへ、アイリーンはウィンクして臙脂色の草履を履いた。小さな刺繍が施された足袋もお気に入りだ。用意を終えて、兄の部屋へ向かう。当たり前のように飛びついたココを抱いて、静かに声をかけた。
「兄様、準備ができました」
「ああ、リンだね。入っていいよ」
珍しく戸の前に誰もいない。静かに開けて滑るように入れば、兄だけでなく姉もいた。真ん中の姉、ヒスイだ。
「ヒスイ姉様、ご一緒されるのですか」
外出用の準備を整え、薄衣を被った姉は艶やかな目元を緩めて笑った。赤を使った目はキツイ印象なのに、すごく引き立つ。少し垂れ目だとこの方が美人に見えるのね。巫女の化粧に近いため、アイリーンにも馴染みの赤だった。
「ええ。先日建てた子どもの保護施設を見に行きたいのよ」
巫女としての能力は授からなかったが、次女であるヒスイは政に長けている。普段から皇太子シンの補佐を行ってきた。今回もその延長だろうと頷く。
「リンはまた、何をしたいのかしら」
何をやらかすの? と匂わせながらも、途中で言葉を変えた姉はこてりと首を傾げる。皆、私が何か騒動を起こすと思ってるなんて。ぷんと頬を膨らませ、怒ってますよと示す。
「ある神様を祀るために、踊りたいのです。騒動なんて起こしません」
「おや、そうなのかい? まったく聞いていないけれどね」
確かに兄シンには外出を強請っただけで、理由を話していなかった。思わず話してしまい、慌てて口を手で押さえるも遅い。呆れ顔の神狐が、尻尾を大きく一振りした。
『ヒスイの才能って、こういうところだよね。巫女はバカが付くくらいまっすぐな子が向いてるから……』
遠回しに「巫女向きじゃない」とココが呟く。なるほどと思うアイリーンは眉を寄せた。ちょっと待って、それって私がバカって意味じゃない?
74
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる