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41.無条件で信じることはないの
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式典も無事終わったため、王宮ではなく屋敷へ引き上げた。セントーレア帝国の皇太子であるコルジリネは、数日で一度帰国する予定だ。皇太子という身分ゆえに、他国に長く身を置くことは認められない。残念だと散々繰り返し、屋敷内でごねた。
「お父様、客間で侍女同席の時間を過ごす許可をくださいませ」
「……侍女は二人だ、いいな」
渋々認めてもらい、入浴前の一時間ほどを共に過ごす。部屋に入って、侍女二人を壁際に立たせた状態で向き合って座った。会話の内容をお父様に報告されないよう、日本語で会話を始める。
『聖女の話だが……指摘しないのはわざとか?』
『ええ、だって彼女ったら違うお話をしたんですもの』
ビオラの調査結果が入ったのが、つい先日。すでに裏が取れたティアレラ、クレチマスは調査中だった。日本人を名乗り、日本語が読めたからと言って簡単に信じたりしない。
ビオラ自身の説明では、飛び降り自殺に巻き込まれて死亡した。その後気づいたら馬に蹴られかけ、パン屋に拾われたと聞いている。転生ではなく、転移と判断されたのもこの話からだった。日本人なのは間違いないが、それでも貴族なら話の裏を取る。
たとえ友人だろうと、親だろうと。関係なく話の裏付けは必須で、皇太子に転生したコルジリネも理解できる部分だった。その結果、神殿から両親がいた事実を掴んだ。実母を病で失い、ケガで働けない父を養う健気な少女……少なくとも神殿の記録に残っている話は、彼女の身の上話と異なる。
聖女が形骸化し、実を求められない名誉職になったとしても。聖女は神殿の管轄だった。痛み止めの薬を安く得るために神殿に出入りした記録は、複数の者が関わった正式な書類として残っている。
通常考えて、嘘をついたのは聖女ビオラだ。あの時は日本人だと告白した彼女の話を疑う必要はなかった。だが通常通りの手順で裏を取った途端、全く違う話が入ってきたのだ。そのタイミングで、エキナセア神聖国が動いた。
攻め込むかどうかは不明でも、聖女が無関係だと思うのは危険である。カレンデュラは思わし気に溜め息を吐いた。
「あの子はおっちょこちょいだから、心配です」
「ならば、侍女を付けたらどうだ? きっと聖女ビオラをサポートしてくれる」
心配する口調のカレンデュラに、侍女という監視を派遣しようとコルジリネが応じた。ここは侍女達に聞かれても構わない、いや聞かせた方がいい会話だった。
「そうですわね」
微笑んで、用意されたお茶に手を付ける。
『ビオラが敵だった場合、カレンは……』
『切り捨てますわ。貴族の友人とは、そういった存在でしょう?』
割り切った口調なのに、悲しそうな表情を浮かべる。婚約者の素直な感情の吐露は、侍女達に言葉が通じていないからこそ。日本語だから、同じ日本人だから、共有してもいいとコルジリネに示された好意だった。
『別の理由があるかも知れない』
『そう願いますわ』
ここで目配せし合い、日本語は一時封印した。
「ビオラが聖女として、隣国で輝けるといいのですが」
「私もそう願っている。それより……君と離れる寂しさが強くてね」
「ふふっ、刺繍したハンカチをお渡ししますわ」
途中まで刺繍したハンカチを取り出し、コルジリネに渡す。その意味は、続きを刺せるよう早く帰ってきてください、だった。淑女の願いを受け止め、黒髪の皇太子は嬉しそうに微笑んだ。
「お父様、客間で侍女同席の時間を過ごす許可をくださいませ」
「……侍女は二人だ、いいな」
渋々認めてもらい、入浴前の一時間ほどを共に過ごす。部屋に入って、侍女二人を壁際に立たせた状態で向き合って座った。会話の内容をお父様に報告されないよう、日本語で会話を始める。
『聖女の話だが……指摘しないのはわざとか?』
『ええ、だって彼女ったら違うお話をしたんですもの』
ビオラの調査結果が入ったのが、つい先日。すでに裏が取れたティアレラ、クレチマスは調査中だった。日本人を名乗り、日本語が読めたからと言って簡単に信じたりしない。
ビオラ自身の説明では、飛び降り自殺に巻き込まれて死亡した。その後気づいたら馬に蹴られかけ、パン屋に拾われたと聞いている。転生ではなく、転移と判断されたのもこの話からだった。日本人なのは間違いないが、それでも貴族なら話の裏を取る。
たとえ友人だろうと、親だろうと。関係なく話の裏付けは必須で、皇太子に転生したコルジリネも理解できる部分だった。その結果、神殿から両親がいた事実を掴んだ。実母を病で失い、ケガで働けない父を養う健気な少女……少なくとも神殿の記録に残っている話は、彼女の身の上話と異なる。
聖女が形骸化し、実を求められない名誉職になったとしても。聖女は神殿の管轄だった。痛み止めの薬を安く得るために神殿に出入りした記録は、複数の者が関わった正式な書類として残っている。
通常考えて、嘘をついたのは聖女ビオラだ。あの時は日本人だと告白した彼女の話を疑う必要はなかった。だが通常通りの手順で裏を取った途端、全く違う話が入ってきたのだ。そのタイミングで、エキナセア神聖国が動いた。
攻め込むかどうかは不明でも、聖女が無関係だと思うのは危険である。カレンデュラは思わし気に溜め息を吐いた。
「あの子はおっちょこちょいだから、心配です」
「ならば、侍女を付けたらどうだ? きっと聖女ビオラをサポートしてくれる」
心配する口調のカレンデュラに、侍女という監視を派遣しようとコルジリネが応じた。ここは侍女達に聞かれても構わない、いや聞かせた方がいい会話だった。
「そうですわね」
微笑んで、用意されたお茶に手を付ける。
『ビオラが敵だった場合、カレンは……』
『切り捨てますわ。貴族の友人とは、そういった存在でしょう?』
割り切った口調なのに、悲しそうな表情を浮かべる。婚約者の素直な感情の吐露は、侍女達に言葉が通じていないからこそ。日本語だから、同じ日本人だから、共有してもいいとコルジリネに示された好意だった。
『別の理由があるかも知れない』
『そう願いますわ』
ここで目配せし合い、日本語は一時封印した。
「ビオラが聖女として、隣国で輝けるといいのですが」
「私もそう願っている。それより……君と離れる寂しさが強くてね」
「ふふっ、刺繍したハンカチをお渡ししますわ」
途中まで刺繍したハンカチを取り出し、コルジリネに渡す。その意味は、続きを刺せるよう早く帰ってきてください、だった。淑女の願いを受け止め、黒髪の皇太子は嬉しそうに微笑んだ。
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