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42章 魔王妃殿下のお勉強

【お正月特番w】異世界から伝わる餅つき文化

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※あけましておめでとうございます。
 以前からリアルイベントに合わせたSS希望がでておりましたので、外伝をUPします(o´-ω-)o)ペコッ
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「だから、もち米ってのが必要なんですよ」

 年末が近づいたある日、アベルが大騒ぎを始めた。なんでも彼のいた世界では「もちつき」なる行事が存在し、それをクリアしないと新しい年が来ないらしい。いっそ年を取らなくていいじゃないかと返したところ、半泣きでイラストを描いて説明された。民族的に大事な習慣なのだそうだ。

 同意の頷きをするイザヤはもちろん、アンナも目を輝かせている。隣で臼が必要だと大きさを示す図を描き始めた。彼らの説明を総合したところ、お祭り好きな魔族が喜びそうなイベントである。試す許可を出したところ、もち米が必要だと力説された。

「もち米……」

 その響きに心当たりはない。食用の米はエルフが貯蔵しているが、これではないらしい。隣であちこちへ手紙を出したアスタロトが、戻ってきた返事を開いて差しだした。

「これではありませんか?」

 返事の封筒に米が数粒入っているが、色が濁って見える。透き通った米ではなく、サイズもやや小ぶりだった。イザヤは見覚えがあるようで「これかも知れない」と言う。

 意外だが、もち米はリザードマンが育てていた。彼らの領地は湿地帯だ。米作りに適している。普通の米はエルフが狩る兎などと物々交換するために育てるが、自分達がお祭りで食す米はもっと粘り気が強い品種だった。アベル達が「もちーっとしてねばーっと伸びる」と表現した米に近い。

「まとめて供出できるようですね。新しい家を建てるドワーフの派遣と、保存のきく肉類を対価に求めていますので、すぐ用意させましょう」

 ドライアドに協力してもらい、臼と杵を調達してもらう。ドライアドが選んだ木を切り倒し、削る作業はエルフが担当した。アンナの詳細な図の通りに作り上げた道具に、イザヤは満足そうだった。見本は彼が見せてくれるという。

「パパ、楽しみだね」

 可愛いリリスの言葉に「そうだね」と返しながら、幼女の頬を摘まんでみた。この感触に近いのが餅という食べ物らしい。蒸すための鍋をイフリートに借り、セイロを鳳凰に貸してもらった。なんでも好物の蒸し肉を作る際に使うらしい。魔族がそれぞれに持ち寄った道具で、ほとんどの道具は賄えた。

 餅つき大会を開催する旨を告知したところ、即位記念祭並みの種族が集まった。蒸したもち米を臼に入れ、杵でついていく。薄着のイザヤの筋肉が盛り上がり、振り上げた杵を落とす。持ち上げる間にアンナが餅をひっくり返し、初めて見る作業に魔族は沸き立った。

 やってみたいと数人の立候補があったので、予備として用意した臼と杵を使って見様見真似で餅つきが始まる。ドラゴンが杵で臼を叩き割り失格、次に杵を振り上げたドワーフが目測を誤り隣の仲間を叩いて退場。魔法で復元した臼のもち米をひっくり返そうとして手が巻き込まれたまま、上から叩かれた精霊族が回収された。治癒魔法と復元魔法を駆使した餅は、ややピンク色だった。

 誰かの血が入ってる……しかし血を主食とする種族もいるため、大して問題にならなかった。熱い餅を手のひらサイズに丸め、アンナが用意した豆粉を塗す。「きなこ」と呼ぶらしいが、砂糖を入れて甘くしたため、魔族の味覚にぴったりだった。

「こっちにしような」

 念のため白い餅を受け取ったルシファーが、小さい餅をリリスの前に差し出す。きなこを塗した黄色い状態のスライムに似た物体に、リリスはフォークを突き刺した。しかし持ち上げようとすると、きちんと刺さっておらず落ちる。

「……姫様、餅は手で食べるのが普通です」

 見かねたアンナの助けに、リリスは嬉しそうに手で掴んで齧り付いた。伸びるので、両手を突きだして切ろうと必死になる。

「ふぁふぁ、ほへはへにふい」(パパ、これ食べにくい)

 ――うむ、餅とやら。いい仕事をした。褒めて遣わす。

 両手を突っ張って餅と絡まるリリスが可愛くて、頬が緩むルシファーが真ん中を切った。べろんと顎に張りついた餅は、幸いにも温度が下がっていたので火傷はしない。それをもぐもぐと口に押し込んだリリスが、「うふぅ!!」と声を上げた。




 ***続く***
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