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21.これはキュロットじゃないの

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 エルの屋敷にキュロットが届いたのは、予定より1日早い午後だった。注文してから6日目、おやつのアイスを食べている時に連絡が入る。リディの膝に座って、アランの「あーん」で頬張ったアイスがじわりと溶けた。

 さっきまでエルもいたんだけど、仕事で呼び出されたんだよね。領主なんて辞めてやると騒いで出て行ったけど、無責任なことはダメよ。私はそういうの嫌い。任されたお仕事を途中で放り出すのはいけないことだわ。

 優しい甘さのアイスに頬を緩めながら、また口を開ける。人は外見や立場に釣られる生き物だとテレビで聞いた。たしか心理学か何かの偉いお医者さんで、犯罪者の気持ちを勝手に代弁していたよね。あの時に、心理実験の話がちらりと出て、興味深かったのでそこはちゃんと耳を傾けたの。

 学生に実験と説明した上で、囚人と看守に別れてもらう。与えられた役の通りに振る舞ってもらうだけ。囚人役は徐々に怯え従うようになり、看守役は傲慢に命じるようになる。与えられた立場に相応しい行動を取る一例だった。何かの先生や社長さん、政治家もその例に相応しく振る舞う。

 私も同じなのかな。子どもの姿になってから、考えが幼くなった気がするの。些細なことでも泣きたくなるし、すぐ眠くなって愚図った。抱っこされると嬉しくて笑顔になるのも、全部この現象じゃないかと思っている。そうじゃないと恥ずかしくて認められない。

「あーん、して」

 アランが掬ったアイスは、オレンジ色。柑橘系を想像して食べたら、まさかのメロン味だった。いや、メロンとも違うのかな? マンゴーではないのよね。強いて言えば味の濃いスイカ。やっぱりメロンか。甘過ぎず、でも美味しい。個人的にはもっと甘くてもいいかな。

「次はベリーのアイスを作りましょうね」

「どうやって作るの?」

 前の世界でもアイスは買ってくるもので、作るものじゃなかった。イメージとしては果汁を冷やして、がりがりと削る感じ。シャーベットになっちゃうけど、そこにバニラを混ぜたら味のついたアイスになると思う。

「簡単よ。水の魔法が使えれば、こうやってこう」

 コップに入っている水がふわりと空中に浮いて、くるくる回ったと思ったら……かき氷になって降ってきた。綺麗に元のコップへ戻っていく。今、何したの?

「アイスを作ったのよ。あ、服が届いたんだったわね。食べたら着替えに行きましょう」

 リディが簡単そうに見せてくれた異世界ならではのアイス作りは、後日また習おうと決めた。自分で作れたら便利だし、仕事を終えて戻るエルにも食べさせてあげたい。にこにことそう考えた私を撫でるリディとアランも笑顔だった。

 アイスをすべて胃の中に納め、隣の部屋に移動する。客間をいくつも占拠してるけど、まだ部屋があるのは凄い。領主様って儲かるお仕事かも。

 あまり家具がない部屋は、鏡と服が用意されていた。二人と手を繋いで入った私は、届いたばかりの箱へ向かってダッシュする。手を離した私を追いかけて、アランが小走りに付いてきた。キュロットが入ってるだけなのに、木箱はやたら大きい。首を傾げた私の前で、屋敷の使用人の人が開けてくれた。

「キュロットって、これのことだったんですね」

「あら、可愛いわ」

 アランとリディは見たことのある衣装に喜んでるけど、私は顔を引き攣らせた。ある意味知っているけど、着たことはない。ふわっとしたフォルムで腰と膝の辺りが括れたデザインだ。色は指定通り淡いピンクで可愛いけど……。

「これは違うの」

 ぼそりと呟いた。だってコレ――カボチャパンツじゃん!
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