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20.やっぱり魔法のある世界でした

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 デパートをぐるりと見て周り、上の階も歩き回った。足が疲れたので、用意された個室でジュースを飲む。この世界では、大人は果汁たっぷりでもいいが、子どもは果汁を水で割って飲むのが一般的だった。味が薄い。なんでも健康に良くないとか。

 この世界では、糖分の摂りすぎで病気に繋がる認識があるのかな? でも昔飲んだ小説みたいに氷がなくて、チートで作り出して冷やす必要はなかった。氷がごく普通に入っている。それも熊の形で可愛かった。

「可愛い」

 指先で熊を突く。お行儀悪いけど、許して欲しい。可愛くて気に入った。出来たら持ち帰りたいくらい。

「この氷を作る容器があったでしょ。購入するから持ってきて」

「狐は?」

「猫もありますよね!」

 リディとアランが食いついた。この熊は聖獣のエルを象ったイメージみたい。この街を守るのは聖獣の熊だと住民が知っていた。そのためたくさん売れるとか。

「ねえ、氷はどうやって作るの?」

「魔法で冷やすの。魔法が使える人の半分は水が扱えるわ。だから氷も水も困らないのよ」

 私が異世界から来たと知っているリディは、丁寧に説明してくれた。二人に一人が魔法で水を? じゃあ、私も出来るかな。異世界に来たら、まず魔法だよね! 剣と魔法のなんたら、そんなゲームや小説の煽り文句はいっぱい目にした。

「水の魔法が使いたければ、教えるけれど……それより先にお買い物をしましょうね」

 リディと話している間に、たくさんの容器が運ばれてきた。氷を作るために前側と後ろ側を割った状態で凍らせる。それから表面を濡らして貼り付けるんだって。熊の形にくり抜いた器で凍らせると、取り出すたびに入れ物を壊さないと出せないから。

 くっつけた直後に、氷の魔法を使えば密着完了と聞いて興味が湧いた。ひとまず熊は欲しい。並べられた動物型はすべて聖獣だと聞いた。まとめて4点お買い上げが決まる。

「いいの?」

「子どもは遠慮せず、お礼を言って微笑めばいいのですよ」

 アランの言葉に「ありがとう」と3人にお礼を言った。出来るだけ喜んでもらえるよう、可愛く微笑むことを心がける。歓声が上がって、すごく喜ばれた。こういうのって擽ったいけど、子どものうちだけだから。自分がいていいと肯定されるみたいで嬉しい。

 私が知らない間に大量に購入された品が、木箱に詰められ重なっていく。時間が経つほどに増える木箱は、縦3段、横6列になった。この時は見えなかったけど、奥にも3列伸びてたの。

 注文したキュロットは、作るのに一週間ほどかかる予定なので、今日は別のお店に行くことになった。まだ足りないものがあるの? アランが左、右はエルと繋いで歩く。両手に美男子! 後ろを歩くリディが「ぷっ」と吹き出した。ちょっと、失礼よ! 勝手に読んで、そのうえ彼らを貶すなんて。

 複雑そうな顔をした二人だけど、私と繋いだ手は緩まなかった。いつか一回でいいんだけど、幼女のうちにやってみたいことがある。大人と両手を繋いでぶらんと足を縮めてぶら下がる遊び。子どもの頃に試した記憶がなくて、でも気づいたら大人だったから憧れてるんだよね。

「いいですよ」

「試してみる?」

 二人ともすぐ引き受けてくれて、私の小さな願いがひとつ叶った。ブランコみたいに揺れながら、憧れが昇華されていく。これ、想像より楽しいね。
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