上 下
306 / 321

304.悪くないから叱らないで

しおりを挟む
 痛くて暗くて怖くて、必死でセティを呼んだ。助けに来てくれたんでしょ? 泣きそうな顔をしないで、僕、痛いけど我慢できるから。お母さん達も叱らないで。きっとね、僕が落ちたんだと思うの。出入口は崖にあって風が強いから注意するんだよ、って言われてたのに。

 僕以外、誰も悪くないから。叱らないで……。

 目を開いた僕を抱き締めるセティの温かさに、ほっとする。まだ体が痛いところもあるけど、動かせそう。もぞもぞ動くと、セティがすぐに顔を覗き込んだ。いつもと違って、なんだか泣きそう。

「ごめ、なさ……」

 話そうとすると顎や頬が突っ張る。ずきずきするから、ケガしたの? セティが優しく頬を撫でたら、痛いのが楽になった。ありがとう、お祈りみたいに心の中でお礼を言う。やっと笑ってくれた。セティが笑ってないと僕も笑えないんだよ。

「ガイアに傷を治してもらうが……まずは食事で体力を付けよう」

 抱き起された。優しくゆっくりと、僕が痛くないようにしてくれる。テントの外へ出るとお父さん達が集まっていた。お母さんやお兄さん達も覗き込んでくる。声にしてごめんねを言いたいけど、まだ痛いの。それも重ねてごめんなさいと呟いたら、代わりにセティが話してくれた。

「ああ、やっぱり体力が限界だね。ご飯食べて休んだら、残りも治すからね」

 神殿の冷たくない泉に入れば治るけど、今は無理なんだって。カイルが禊してて、一緒に入るのは許さんとセティが怒ってた。お洋服脱いで入るからダメなのかな? 僕はセティが一緒なら平気だけど。

 用意されたのはジュースや果物が多かった。あとスープ。とろとろでお肉も野菜も全部すり潰してあるから、噛まなくても飲めるの。お父さん達が潰したと聞いて、セティにお礼を伝えてもらった。抱っこするセティの膝に座って、毛布で包まれたままご飯を食べる。

 スープはふーふーして冷ましてから、僕の口に入ってきた。ごくりと飲む動きで肩や首も痛い。すごくいっぱいケガしたみたい。心配させたし、悲しくさせたかも。すごく悪いことをしちゃった。早く元気になろう。

 スープを飲んだら、果物だけど……お母さんが水で包んだ果物をぺちゃんと潰す。それを器の上に運んで、エルランドお兄さんとルードルフお兄さんが布で絞った。ボリスがよたよたと運んで来る。心配そうに後ろからお父さんが支えた。

 フェリクスお兄さんがそわそわしながら、柔らかな毛皮を差し出す。僕じゃなくて、卵に使ってあげたらいいのに。そう言ったら、カイサお姉さんも僕が使えって。毛布の下に毛皮を敷いて、セティに抱っこされて座った。

 果物は甘くて酸っぱいのもあって、飲みやすかった。唇の端に傷があったみたい。ぴりっと染みた。でも全部飲んで、目を閉じる。眠くなったら寝てていい。優しいセティの声や、家族が喉を鳴らす声を聞きながら、僕は幸せな気持ちで目を閉じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】銀鳴鳥の囀る朝に。

BL / 完結 24h.ポイント:213pt お気に入り:1,218

彼は最後に微笑んだ

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:490

最愛の夫に、運命の番が現れた!

BL / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:1,081

エンシェントドラゴンは隠れ住みたい

BL / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1,691

幸せの温度

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:595

召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

BL / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:1,913

誰も愛さない

BL / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:1,300

処理中です...