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303.離れたオレが悪い(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
イシスがいなくなった。姿が見えない。心配に声を震わせるヴルムの呼び出しに、慌てて戻った。ファフニール達が修復する土地に豊穣の加護を与えたらいいと話した後、出入り口に向かったらしい。そのまま行方不明になった。
おろおろするカイサは卵から離れることが出来ず、外へ駆け出そうとするボリスを留めるので手いっぱいだ。ヴルムは何度も周辺を飛んだが、イシスの呼び声がないと怯えていた。彼女は4匹のドラゴンを育てたが、失った子もいる。その時の恐怖が蘇ったのだろう。
呼び戻されたのはファフニールや3匹の兄弟も一緒だった。イシスが自分で出て行ったのか、誰かに攫われたのか。現時点で判断がつかない。意識がないらしく、呼びかけに答えもなかった。オレや家族を呼ぶ声も聞こえない。
最悪の想像が胸を過るが、深呼吸して落ち着く。イシスの寿命や命はオレと繋がれている。そのために一緒に神族の契りを交わしたのだから、イシスは無事だ。何も伝わってこなかった。自分に言い聞かせる。そうしないと世界を壊してでもイシスを取り戻したいと叫ぶ心を抑えられない。
下の森で狼の声がした。仲間に救援を頼む鳴き声だ。その直後、イシスが痛いと泣く声が重なった。視線を向けた先は洞窟下の森で、先ほどの狼が鳴いた地点と近い。そう気づいた瞬間、転移した。正確な位置が掴めず、茂みの脇に降りる。見回し、耳を澄ませたとき……イシスの声が届く。
セティ、セティを呼ばなくちゃ。誰にも襲われてないけど、怖くないけど、帰り方が分からないの。迎えに来て!
今度こそ場所が特定できる。大急ぎで駆け寄ろうとして、驚きに息が詰まる。全身を強く打ち付けたのだろう。白い手足は痣だらけだった。意識を失ってから目覚めるまで、半日近く経過しているかも知れない。足は切り裂いた傷が口を広げ、腕はおかしな向きに曲がっていた。
近くにいた狼に声をかけて、知らせたことを労う。頬をすり寄せて心配だと示す狼を撫で、膝を突いてイシスを抱き上げた。全身が痛むようで、顔を顰めるたびにオレまで痛くなる。ううう、泣き出すのを耐えたのか、変な声を喉から絞り出した。
「すぐに治すから安心しろ」
もう大丈夫……その信頼を受け止めながら、洞窟に転移する。オレが使える治癒では時間がかかり過ぎた。だから大声で召喚する。寝所代わりに建てたテントに運び込んで、クッションの間に細い体を横たえた。膝枕の形でイシスを支える。
「ガイア、すぐに来い」
普段使わない指定の強制召喚に驚きながら現れたガイアは、状況を聞くより早く動いた。全力で行われる治癒が、ぱっくり開いた傷を塞いでいく。服に隠れていたが、背中から腹部にかけて大きな裂傷もあった。青ざめた唇が少し動く。
「まだ痛いのか? イシス」
声はうまく言葉にならず、代わりに流れ込んできたのは思いがけない願いだった。
――お母さん達を叱らないで。僕が悪いの、たぶん落ちたんだと思う。お母さんもカイサお姉さんも、ボリスも叱らないで。
「叱らないから、早く治して元気になろうね」
ガイアがそう声を掛けると、ぎこちなく微笑んで目を閉じる。回復に使う体力が限界なのだろう。すべてを治癒するのは目覚めてからになる。大きな傷が消えても、まだ打撲などの痕が痛々しいイシスを抱き締めた。
離れたオレが悪い。
*********************
新作のお知らせです_( _*´ ꒳ `*)_
【膨大な魔力と知識ありのチートだけど、転生先がツノはないよね?】
異世界転生、胸躍らせる夢の展開のはず。しかし目の前で繰り広げられる勇者vs魔王の激戦に、僕は飽きていた。だって王の頭上で、魔力を供給するだけのツノが僕だ。魔王が強いからツノがあるのではなく、ツノである僕がいるから彼が最強だった。
ずっと動けない。声は誰にも聞こえない。膨大な魔力も知識チートも披露できぬまま、魔王の頭上で朽ちるのか。諦めかけていた。
勇者の聖剣が僕を折るまでは……!
動けなかったツノは、折れたことで新たな仲間と出会う。チート無双はできないが、ツノなりに幸せを掴めるのか!? いつか自力で動ける日を夢見て、僕は彼と手を組んだ。
※基本ほのぼの、時々残酷表現あり(予告なし)ハッピーエンド確定
イシスがいなくなった。姿が見えない。心配に声を震わせるヴルムの呼び出しに、慌てて戻った。ファフニール達が修復する土地に豊穣の加護を与えたらいいと話した後、出入り口に向かったらしい。そのまま行方不明になった。
おろおろするカイサは卵から離れることが出来ず、外へ駆け出そうとするボリスを留めるので手いっぱいだ。ヴルムは何度も周辺を飛んだが、イシスの呼び声がないと怯えていた。彼女は4匹のドラゴンを育てたが、失った子もいる。その時の恐怖が蘇ったのだろう。
呼び戻されたのはファフニールや3匹の兄弟も一緒だった。イシスが自分で出て行ったのか、誰かに攫われたのか。現時点で判断がつかない。意識がないらしく、呼びかけに答えもなかった。オレや家族を呼ぶ声も聞こえない。
最悪の想像が胸を過るが、深呼吸して落ち着く。イシスの寿命や命はオレと繋がれている。そのために一緒に神族の契りを交わしたのだから、イシスは無事だ。何も伝わってこなかった。自分に言い聞かせる。そうしないと世界を壊してでもイシスを取り戻したいと叫ぶ心を抑えられない。
下の森で狼の声がした。仲間に救援を頼む鳴き声だ。その直後、イシスが痛いと泣く声が重なった。視線を向けた先は洞窟下の森で、先ほどの狼が鳴いた地点と近い。そう気づいた瞬間、転移した。正確な位置が掴めず、茂みの脇に降りる。見回し、耳を澄ませたとき……イシスの声が届く。
セティ、セティを呼ばなくちゃ。誰にも襲われてないけど、怖くないけど、帰り方が分からないの。迎えに来て!
今度こそ場所が特定できる。大急ぎで駆け寄ろうとして、驚きに息が詰まる。全身を強く打ち付けたのだろう。白い手足は痣だらけだった。意識を失ってから目覚めるまで、半日近く経過しているかも知れない。足は切り裂いた傷が口を広げ、腕はおかしな向きに曲がっていた。
近くにいた狼に声をかけて、知らせたことを労う。頬をすり寄せて心配だと示す狼を撫で、膝を突いてイシスを抱き上げた。全身が痛むようで、顔を顰めるたびにオレまで痛くなる。ううう、泣き出すのを耐えたのか、変な声を喉から絞り出した。
「すぐに治すから安心しろ」
もう大丈夫……その信頼を受け止めながら、洞窟に転移する。オレが使える治癒では時間がかかり過ぎた。だから大声で召喚する。寝所代わりに建てたテントに運び込んで、クッションの間に細い体を横たえた。膝枕の形でイシスを支える。
「ガイア、すぐに来い」
普段使わない指定の強制召喚に驚きながら現れたガイアは、状況を聞くより早く動いた。全力で行われる治癒が、ぱっくり開いた傷を塞いでいく。服に隠れていたが、背中から腹部にかけて大きな裂傷もあった。青ざめた唇が少し動く。
「まだ痛いのか? イシス」
声はうまく言葉にならず、代わりに流れ込んできたのは思いがけない願いだった。
――お母さん達を叱らないで。僕が悪いの、たぶん落ちたんだと思う。お母さんもカイサお姉さんも、ボリスも叱らないで。
「叱らないから、早く治して元気になろうね」
ガイアがそう声を掛けると、ぎこちなく微笑んで目を閉じる。回復に使う体力が限界なのだろう。すべてを治癒するのは目覚めてからになる。大きな傷が消えても、まだ打撲などの痕が痛々しいイシスを抱き締めた。
離れたオレが悪い。
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