【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

文字の大きさ
上 下
304 / 321

302.痛くて怖くて苦しい

しおりを挟む
 卵が割れて産まれるまで、僕とボリスは卵を温める係だ。大切なお仕事だし、変な人が洞窟に入ってきたら追い払う役ももらった。カイサお姉さんかお母さんのどちらかも、僕達と一緒に卵を守るの。最近は人間も追い詰められてるからね、とお母さんが溜め息をついた。

 追い詰められたら怖いけど、人を傷つけちゃいけない。僕には当たり前だし、家族もそうだねって笑った。今日はセティがフェルと一緒に出掛ける。僕は卵を守るから残るんだ。

「怖いことがあったら、すぐに呼べ。わかったか? 絶対に呼ぶんだぞ」

 何度も同じことを聞いたけど、何度でも頷く。大丈夫、僕はちゃんとセティを呼べるよ。練習で何回か呼んだら、やっと安心したみたい。今日はお母さんも一緒に洞窟に残るから、お父さんやお兄さんは出かける。順番で出かけたら、いつも誰か洞窟で卵を守れるんだね。

 セティはゲリュオン達を見つけてくる約束をした。お土産を渡したいの。神様同士はすぐ見つけられると聞いたけど、じゃあ、僕もゲリュオンを見つけられるのかな? もっと長く神様をやらないと無理かも知れない。

 出かけるセティを見送って、お母さんの尻尾に座ってお話をする。僕は豊穣の神になったからずっとセティと一緒にいられると話したら、お願いがあるんだって。お父さん達が直した山に、いっぱいの木の実や美味しい草が生えますように! とお祈りする役だった。それなら僕も出来る。

 セティが帰ってきたら、山に連れて行ってもらおう。フェルに乗って行ったらすぐだよ。洞窟の出入り口まで走って行って、外を見た。遠くで大きな音がしてる。あの辺にお父さん達がいるね。身を乗り出して眺めていたら、ふっと軽くなった。

 気づいたら僕は浮いてて、寝ちゃったみたい。目を開けたら真っ暗だった。洞窟の中の暗さじゃなくて、お外だね。夜の鳥が鳴く声がして、動こうとしたらすごく痛い。ばさっと僕の上を何かが飛んで行った。大きな生き物だ。ぱちりと目を瞬いて、横に転がる。

「い、たぃ……痛いっ」

 泣きながら鼻を啜る。ぽろぽろと涙がこぼれて、近くの茂みがごそごそ音を立てた。出てきたのは狼、灰色の毛皮はフェルと同じだ。痛くてこれ以上動けないから丸くなった。狼は近づいて、僕の頬を舐める。それから大きな声で遠吠えした。

 おーん! 高い声で誰かを呼んでるみたい。あ、セティ。セティを呼ばなくちゃ。誰にも襲われてないけど、怖くないけど、帰り方が分からないの。セティ、僕を迎えに来て。

「イシス!? こんなところに……っ、ああ、お前が守ってくれたのか」

 頬をすり寄せる狼の頭を撫でて褒めたセティの腕が、僕を持ち上げる。抱き上げられると足も首も胸も全部痛かった。足もずきずきするし、そっと見たら手が変な方向いていた。怖いし痛い。ううう、動物みたいな声で唸った。

「すぐに治すから、安心しろ」

 抱きしめるセティの腕に安心して、僕は目を閉じた。痛いし苦しいし怖いけど、もう大丈夫。だってセティがいるんだから。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼毎週、月・水・金に投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...