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302.痛くて怖くて苦しい
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卵が割れて産まれるまで、僕とボリスは卵を温める係だ。大切なお仕事だし、変な人が洞窟に入ってきたら追い払う役ももらった。カイサお姉さんかお母さんのどちらかも、僕達と一緒に卵を守るの。最近は人間も追い詰められてるからね、とお母さんが溜め息をついた。
追い詰められたら怖いけど、人を傷つけちゃいけない。僕には当たり前だし、家族もそうだねって笑った。今日はセティがフェルと一緒に出掛ける。僕は卵を守るから残るんだ。
「怖いことがあったら、すぐに呼べ。わかったか? 絶対に呼ぶんだぞ」
何度も同じことを聞いたけど、何度でも頷く。大丈夫、僕はちゃんとセティを呼べるよ。練習で何回か呼んだら、やっと安心したみたい。今日はお母さんも一緒に洞窟に残るから、お父さんやお兄さんは出かける。順番で出かけたら、いつも誰か洞窟で卵を守れるんだね。
セティはゲリュオン達を見つけてくる約束をした。お土産を渡したいの。神様同士はすぐ見つけられると聞いたけど、じゃあ、僕もゲリュオンを見つけられるのかな? もっと長く神様をやらないと無理かも知れない。
出かけるセティを見送って、お母さんの尻尾に座ってお話をする。僕は豊穣の神になったからずっとセティと一緒にいられると話したら、お願いがあるんだって。お父さん達が直した山に、いっぱいの木の実や美味しい草が生えますように! とお祈りする役だった。それなら僕も出来る。
セティが帰ってきたら、山に連れて行ってもらおう。フェルに乗って行ったらすぐだよ。洞窟の出入り口まで走って行って、外を見た。遠くで大きな音がしてる。あの辺にお父さん達がいるね。身を乗り出して眺めていたら、ふっと軽くなった。
気づいたら僕は浮いてて、寝ちゃったみたい。目を開けたら真っ暗だった。洞窟の中の暗さじゃなくて、お外だね。夜の鳥が鳴く声がして、動こうとしたらすごく痛い。ばさっと僕の上を何かが飛んで行った。大きな生き物だ。ぱちりと目を瞬いて、横に転がる。
「い、たぃ……痛いっ」
泣きながら鼻を啜る。ぽろぽろと涙がこぼれて、近くの茂みがごそごそ音を立てた。出てきたのは狼、灰色の毛皮はフェルと同じだ。痛くてこれ以上動けないから丸くなった。狼は近づいて、僕の頬を舐める。それから大きな声で遠吠えした。
おーん! 高い声で誰かを呼んでるみたい。あ、セティ。セティを呼ばなくちゃ。誰にも襲われてないけど、怖くないけど、帰り方が分からないの。セティ、僕を迎えに来て。
「イシス!? こんなところに……っ、ああ、お前が守ってくれたのか」
頬をすり寄せる狼の頭を撫でて褒めたセティの腕が、僕を持ち上げる。抱き上げられると足も首も胸も全部痛かった。足もずきずきするし、そっと見たら手が変な方向いていた。怖いし痛い。ううう、動物みたいな声で唸った。
「すぐに治すから、安心しろ」
抱きしめるセティの腕に安心して、僕は目を閉じた。痛いし苦しいし怖いけど、もう大丈夫。だってセティがいるんだから。
追い詰められたら怖いけど、人を傷つけちゃいけない。僕には当たり前だし、家族もそうだねって笑った。今日はセティがフェルと一緒に出掛ける。僕は卵を守るから残るんだ。
「怖いことがあったら、すぐに呼べ。わかったか? 絶対に呼ぶんだぞ」
何度も同じことを聞いたけど、何度でも頷く。大丈夫、僕はちゃんとセティを呼べるよ。練習で何回か呼んだら、やっと安心したみたい。今日はお母さんも一緒に洞窟に残るから、お父さんやお兄さんは出かける。順番で出かけたら、いつも誰か洞窟で卵を守れるんだね。
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泣きながら鼻を啜る。ぽろぽろと涙がこぼれて、近くの茂みがごそごそ音を立てた。出てきたのは狼、灰色の毛皮はフェルと同じだ。痛くてこれ以上動けないから丸くなった。狼は近づいて、僕の頬を舐める。それから大きな声で遠吠えした。
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「すぐに治すから、安心しろ」
抱きしめるセティの腕に安心して、僕は目を閉じた。痛いし苦しいし怖いけど、もう大丈夫。だってセティがいるんだから。
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