299 / 321
297.桃はまだいっぱいあるのに
しおりを挟む
いっぱいのドラゴンに囲まれた。挨拶して舐められて、金鎖の鱗に気づいて騒ぐドラゴンもいる。見せてあげると驚いたドラゴン達は目を見開いた。そんなに珍しいの? 首を傾げた僕にお父さんが教えてくれる。
「ドラゴン種は誇り高い。鱗を渡す行為は番や家族以外には行わぬのだ」
「僕はお父さんの子だから?」
「そうだ。さすがはイシスだな」
セティと同じ褒め方。嬉しくて笑うと、薄い水色のドラゴンに舐められた。僕の周りはドラゴンだらけで、他に何も見えない。足元をすり抜けてきたボリスが抱き着いた。一緒に転がるけど、お母さんの尻尾で支えられて無事だった。びっくりしたよ、転んで頭を打つかと思ったの。
「イシス、桃が剥けたぞ」
ぽんと転移して現れたセティが、綺麗に切った桃を僕の口に入れる。もぐもぐ噛む間に、また次の桃を唇に押し当てられた。ぱくりと齧る。汁が唇の端を伝ったら、ぺろりとセティが舐めた。人前で唇の近くなのにいいのかな?
抱っこされて外へ出ると、涼しい気がする。桃が積まれた場所に行って、ついてきたドラゴンの口に入れた。つぎつぎと口を開けるから忙しい。でも楽しくて牙に当たらないように、入れ続けた。途中でボリスが手伝ってくれる。僕はボリスの背中に乗って、高い位置で口を開けたドラゴンにも食べさせた。
いっぱいあった桃が半分くらいになる頃、ガイアが笑いながら追加する。
「ねえ、カイルスが戻ってくるよ」
「カイル、桃食べる?」
「イシスが渡したら必ず食べるさ」
あの弟のお気に入りだからな。セティに言われて、僕は真似して皮を剥こうとした。でも難しい。ナイフは危ないからダメだと言われた。苦労していると、向かいに寝そべる赤い竜が爪で手伝ってくれる。爪で縦に桃をなぞると、半分になるの。それを剥くと簡単だった。
「ありがとう」
「いやいや。こちらこそ」
桃を口に入れてお礼を言うと、赤い竜は豪快に笑ってまた桃を齧った。お礼も込めてたくさん桃を渡す。ふわりと姿を現したカイルに駆け寄って、剥いたばかりの桃を差し出した。
「あーん」
「ちょ、待て!」
セティが叫んだので振り返るけど、手の桃にカイルが口を付ける。そのまま齧ってにやりと笑った。悔しそうにセティが大股で歩いてきて、残った半分をくれという。同じように「あーん」と持ち上げたら、すぐに齧った。
「どうした? 天下の破壊神タイフォンともあろう者が」
揶揄うカイルに、セティがむっとして唇を尖らせる。2人を交互に見ながら、手に残った桃に困った。両手が塞がってるし、持ち上げてるから腕に汁が伝う。もったいない。ぺろぺろと僕が舐めていたら、上からお父さんが両手の桃を舌で掬い取った。
「ケンカなど大人げないことよ」
「「あああっ!!」」
カイルとセティが同時に騒ぎ、ガイアが噴き出した。見ていたドラゴン達も笑い出し、洞窟が揺れる騒ぎになる。お父さんが舐めた後をボリスが一生懸命舐めるので、僕は新しい桃を渡した。ボリスは皮も種も関係なく飲み込んだ。大きな口の中には、立派な牙が生えてきてる。
成長した僕の弟に桃を上げながら、僕は少しだけ胸がちくりとした。セティが楽しそうなの嬉しいけど、そこに僕がいないのに……そんなことを思うのは、欲深い悪い子かも知れない。
「ドラゴン種は誇り高い。鱗を渡す行為は番や家族以外には行わぬのだ」
「僕はお父さんの子だから?」
「そうだ。さすがはイシスだな」
セティと同じ褒め方。嬉しくて笑うと、薄い水色のドラゴンに舐められた。僕の周りはドラゴンだらけで、他に何も見えない。足元をすり抜けてきたボリスが抱き着いた。一緒に転がるけど、お母さんの尻尾で支えられて無事だった。びっくりしたよ、転んで頭を打つかと思ったの。
「イシス、桃が剥けたぞ」
ぽんと転移して現れたセティが、綺麗に切った桃を僕の口に入れる。もぐもぐ噛む間に、また次の桃を唇に押し当てられた。ぱくりと齧る。汁が唇の端を伝ったら、ぺろりとセティが舐めた。人前で唇の近くなのにいいのかな?
抱っこされて外へ出ると、涼しい気がする。桃が積まれた場所に行って、ついてきたドラゴンの口に入れた。つぎつぎと口を開けるから忙しい。でも楽しくて牙に当たらないように、入れ続けた。途中でボリスが手伝ってくれる。僕はボリスの背中に乗って、高い位置で口を開けたドラゴンにも食べさせた。
いっぱいあった桃が半分くらいになる頃、ガイアが笑いながら追加する。
「ねえ、カイルスが戻ってくるよ」
「カイル、桃食べる?」
「イシスが渡したら必ず食べるさ」
あの弟のお気に入りだからな。セティに言われて、僕は真似して皮を剥こうとした。でも難しい。ナイフは危ないからダメだと言われた。苦労していると、向かいに寝そべる赤い竜が爪で手伝ってくれる。爪で縦に桃をなぞると、半分になるの。それを剥くと簡単だった。
「ありがとう」
「いやいや。こちらこそ」
桃を口に入れてお礼を言うと、赤い竜は豪快に笑ってまた桃を齧った。お礼も込めてたくさん桃を渡す。ふわりと姿を現したカイルに駆け寄って、剥いたばかりの桃を差し出した。
「あーん」
「ちょ、待て!」
セティが叫んだので振り返るけど、手の桃にカイルが口を付ける。そのまま齧ってにやりと笑った。悔しそうにセティが大股で歩いてきて、残った半分をくれという。同じように「あーん」と持ち上げたら、すぐに齧った。
「どうした? 天下の破壊神タイフォンともあろう者が」
揶揄うカイルに、セティがむっとして唇を尖らせる。2人を交互に見ながら、手に残った桃に困った。両手が塞がってるし、持ち上げてるから腕に汁が伝う。もったいない。ぺろぺろと僕が舐めていたら、上からお父さんが両手の桃を舌で掬い取った。
「ケンカなど大人げないことよ」
「「あああっ!!」」
カイルとセティが同時に騒ぎ、ガイアが噴き出した。見ていたドラゴン達も笑い出し、洞窟が揺れる騒ぎになる。お父さんが舐めた後をボリスが一生懸命舐めるので、僕は新しい桃を渡した。ボリスは皮も種も関係なく飲み込んだ。大きな口の中には、立派な牙が生えてきてる。
成長した僕の弟に桃を上げながら、僕は少しだけ胸がちくりとした。セティが楽しそうなの嬉しいけど、そこに僕がいないのに……そんなことを思うのは、欲深い悪い子かも知れない。
35
お気に入りに追加
1,207
あなたにおすすめの小説
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる