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297.桃はまだいっぱいあるのに

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 いっぱいのドラゴンに囲まれた。挨拶して舐められて、金鎖の鱗に気づいて騒ぐドラゴンもいる。見せてあげると驚いたドラゴン達は目を見開いた。そんなに珍しいの? 首を傾げた僕にお父さんが教えてくれる。

「ドラゴン種は誇り高い。鱗を渡す行為は番や家族以外には行わぬのだ」

「僕はお父さんの子だから?」

「そうだ。さすがはイシスだな」

 セティと同じ褒め方。嬉しくて笑うと、薄い水色のドラゴンに舐められた。僕の周りはドラゴンだらけで、他に何も見えない。足元をすり抜けてきたボリスが抱き着いた。一緒に転がるけど、お母さんの尻尾で支えられて無事だった。びっくりしたよ、転んで頭を打つかと思ったの。

「イシス、桃が剥けたぞ」

 ぽんと転移して現れたセティが、綺麗に切った桃を僕の口に入れる。もぐもぐ噛む間に、また次の桃を唇に押し当てられた。ぱくりと齧る。汁が唇の端を伝ったら、ぺろりとセティが舐めた。人前で唇の近くなのにいいのかな? 

 抱っこされて外へ出ると、涼しい気がする。桃が積まれた場所に行って、ついてきたドラゴンの口に入れた。つぎつぎと口を開けるから忙しい。でも楽しくて牙に当たらないように、入れ続けた。途中でボリスが手伝ってくれる。僕はボリスの背中に乗って、高い位置で口を開けたドラゴンにも食べさせた。

 いっぱいあった桃が半分くらいになる頃、ガイアが笑いながら追加する。

「ねえ、カイルスが戻ってくるよ」

「カイル、桃食べる?」

「イシスが渡したら必ず食べるさ」

 あの弟のお気に入りだからな。セティに言われて、僕は真似して皮を剥こうとした。でも難しい。ナイフは危ないからダメだと言われた。苦労していると、向かいに寝そべる赤い竜が爪で手伝ってくれる。爪で縦に桃をなぞると、半分になるの。それを剥くと簡単だった。

「ありがとう」

「いやいや。こちらこそ」

 桃を口に入れてお礼を言うと、赤い竜は豪快に笑ってまた桃を齧った。お礼も込めてたくさん桃を渡す。ふわりと姿を現したカイルに駆け寄って、剥いたばかりの桃を差し出した。

「あーん」

「ちょ、待て!」

 セティが叫んだので振り返るけど、手の桃にカイルが口を付ける。そのまま齧ってにやりと笑った。悔しそうにセティが大股で歩いてきて、残った半分をくれという。同じように「あーん」と持ち上げたら、すぐに齧った。

「どうした? 天下の破壊神タイフォンともあろう者が」

 揶揄うカイルに、セティがむっとして唇を尖らせる。2人を交互に見ながら、手に残った桃に困った。両手が塞がってるし、持ち上げてるから腕に汁が伝う。もったいない。ぺろぺろと僕が舐めていたら、上からお父さんが両手の桃を舌で掬い取った。

「ケンカなど大人げないことよ」

「「あああっ!!」」

 カイルとセティが同時に騒ぎ、ガイアが噴き出した。見ていたドラゴン達も笑い出し、洞窟が揺れる騒ぎになる。お父さんが舐めた後をボリスが一生懸命舐めるので、僕は新しい桃を渡した。ボリスは皮も種も関係なく飲み込んだ。大きな口の中には、立派な牙が生えてきてる。

 成長した僕の弟に桃を上げながら、僕は少しだけ胸がちくりとした。セティが楽しそうなの嬉しいけど、そこに僕がいないのに……そんなことを思うのは、欲深い悪い子かも知れない。
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