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296.お兄さんが噛んで噛まれた

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 挨拶して奥へどうぞって声をかけるのは僕、とことこ走って奥まで案内するのがボリスのお仕事だ。手分けしてお客さんのドラゴンを中へ通した。お父さんがいっぱい掘ってくれたから、奥はすごく広くなった。

 ルードルフお兄さんは「早く家族か財産を増やさないと」って苦笑いしてた。家が広くても、奥のお部屋を使わなければいいのにね。首を傾げた僕に、笑いながらセティが頷く。

「イシスの言う通りだ」

 全員奥へ通したら、セティが出入り口を塞いだ。まだ僕には使えない魔法だから。いつかは使えるといいな。

 たくさんのお肉を焼いて、お魚も串で焼いた。空気穴があるから、煙は外へ出ていく。這ったら抜け出せそうな穴だけど、空気や煙しか通らないんだって。小さい動物が落ちてきそうだよね。

「先日はご苦労であった。大いに食べて飲んでくれ! 我が息子エルランドと妻カイサの間に産まれた卵も、もうすぐ孵化するゆえ、祝福も頼む」

「「「「おう」」」」

 大きな声で洞窟が揺れる。ガイアは耳を押さえたけど、セティは平気な顔。僕も平気だった。こっそり結界を張ったと教えてもらう。ズルしたの? 声が大きいから半分くらいに小さくしたみたい。

 セティとガイアが祝いの桃をたくさんくれた。山盛りにした桃に、ドラゴン達も喜ぶ。フェリクスお兄さんと同じ赤い鱗のドラゴンが、じっと見つめる先にルードルフお兄さんがいた。きょろきょろと両方を見比べていると、セティが僕を膝に座らせる。

「こら、よその恋愛に首を突っ込まない」

「恋愛なの?」

「多分な。ようやくルードルフにもお嫁さんが……っと、あっちもか」

 セティと同じ方を見ると、フェリクスお兄さんが一匹のドラゴンを見つめてる。お相手は黄色いドラゴンだった。向こうもフェリクスお兄さんを見てる。ご飯もそっちのけで近づき、匂いを嗅いで、首に噛み付いた。

「あっ!」

 僕の口をセティが手で押さえる。首を横に振るから静かにした。そっと外れた手を掴んで、僕は声を出さずに指差す。お兄さんが噛まれて、今度は噛んでる。お互いに首を噛むと嬉しそうに頬を擦り寄せた。

 喧嘩して、やり返して、仲直り? じゃあ、この後で仲直りのお呪いするのかも!

「ねえ、セティ。まだちゃんと教えてないの? お呪いなんて誤魔化し、いい加減にやめなよ」

 ガイアが串に刺した魚を齧りながら文句を言う。小さな魚を食べるドラゴンは、串を抜いた方に手をつけた。串がついてるのは僕達用だから少しだけ。渡された魚を僕も食べる。誤魔化しって何?

「後でな、イシス」

「うん」

 セティが桃を手に取って、小さなナイフでくるくる剥いていく。皮が繋がってて凄い。僕は中身より皮が気になって、食べ終わった魚の串を置いて立ち上がった。セティの手元を向かい合って見ていると、後ろからボリスに襟を咥えて引っ張られる。どんと尻もちついた僕に、ボリスはぐぁと鳴いた。

 ごめんねでしょ? いいよ。今度は袖を咥えたボリスに引っ張られ、お父さんとお母さんの間に挟まれる。

「皆覚えておいてくれ、新しい豊穣神で我が息子のイシスだ。番は破壊神タイフォン殿ゆえ、手を出すでないぞ」
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