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227.知らない神殿は芒果の香り

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 大きな建物は神殿みたい。入り口は右と左に石像がいた。あれは彫刻だよね。人の形をした石像は武器を持ってる。剣を床に突き立てて見下ろしてくる人と、槍を振りかぶった人かな。凄く細かい彫刻にびっくりした。生きてるかと思った。

 僕を抱っこするセティは機嫌が悪そうで、コカトリスは入り口でお水を飲んでいる。乗ってきた動物を繋ぐ場所なんだって。誰かが勝手に乗っていかないか聞いたら、神殿前で馬鹿なことする奴はいないと言われた。やっぱりここは神殿なの?

 セティの神殿より大きいけど、階段も大きくて使いづらい。神様に合わせたのかな。歩くセティの髪がさらりと長くなり、足首まで伸びる。抱っこする腕が太くなって僕を引き寄せた。紫の瞳は神殿を睨んでいるけど、僕を見る時は優しい。

 顔に出た模様を指で辿った。神様の姿に戻ると、セティの肌は黒っぽくなる。艶があって綺麗。ガイアはもっと色が濃いけど、僕はどっちも好き。

「ガイアとオレはどっちがいい?」

「セティ」

 変なこと聞くセティ。セティは僕の一番だし、食べてもらうんだもん。そうしたら僕が死んでもセティの物だから。なぜか泣きそうな顔で頬ずりされた。

「死ぬ心配はしないが、攫われそうだ」

「セティのそばがいい」

 首に回した手でしがみつき、セティは一度止めた足を動かした。階段を上っていくけど、僕は重くない? 軽すぎて心配だと笑ってくれた。お父さんも軽すぎるからもっと食べろって言う。たくさん食べて大きくならないと、セティは足りないのかも。

 向き合って抱っこされたから、階段の下が良く見えた。人がたくさん足を止めて、僕達に手を合わせている。中には地面に座ったり頭を下げてる人もいた。セティが神様だから敬うのはわかるけど、僕にも手を合わせる人がいるのは変だよね。僕は贄なのに。

「セティ、あの人達……」

「気にするな、行くぞ」

 指さそうとした僕の手を握り、セティが扉に手をかざす。触る直前で開くのは前と同じだった。神様に反応して開くのかな。人を指さしたらいけないから、セティは僕の手を握ったんだと思う。失礼しないように気を付けなくちゃ。ぎゅっとセティの手を握り返し、僕は前を見た。

 天井が高くて色のついたガラスが埋めてある。きらきらしたいろんな色が降ってきて、すごく綺麗だった。うわぁ……と声が漏れてそれが響く。光に色が付いてるんだね。紫のガラスだけ欲しいな。

「後で買ってやるよ、紫だけでいいのか?」

「本当? 紫がいい」

 ほかの色は要らない。セティの色は黒と紫、僕も同じ。黒は光が通らない色だから、紫だけ。綺麗な紫がいい。頷いた僕は正面にある椅子に座ってる人に気づいた。セティの神殿だと、セティの椅子があった。この神殿の神様?

「よく来た」

「来たくて来たんじゃねえよ」

 セティの声が怖くなる。この人のこと嫌いなの? だったら代わりに僕が話をしよう。そう思ったのに、ころんと口に飴を入れられた。大きいから右や左に持って行っても、話せない。溶けるのも時間がかかりそう。諦めて舌を這わせた飴は、ほんのりと芒果マンゴーの味がした。
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