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160.懐かしいけど違うの

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 お爺ちゃんだ! 久しぶりに見たけど、前より皺が増えてるみたい。あの手は優しく撫でてくれたし、僕を打ったり叩いたりしない。ご飯以外の食べ物をくれて、絵本を読んでくれた。

 お話ししたい。期待の眼差しを向けたセティは、うーんと唸ってしまった。ダメなのかな。首を傾げると、お外でぺたんと頭を下げている白い服の人に、何か命令したみたい。すぐにお爺ちゃんは別の人の手を借りて、奥へ行っちゃった。

 しょんぼりしていると、僕を抱っこしたセティが立ち上がった。もう帰るなら、お爺ちゃんに「またね」って言いたかったのに。そう思ったら、セティは階段を降りずに、椅子の裏の方へ向かった。こっちに来るのは初めてだね。扉は触れなくても勝手に開いた。ぼんやりと明るい廊下を進む。両側にたくさんの絵が飾られていた。いろんな綺麗な人、絵本よりずっと細かい絵がいっぱい。

「ほら、この先にいるぞ」

 誰が? って、聞かなくてもいい。きっとお爺ちゃんだ。大急ぎで扉に触ると、びっくりするくらい軽かった。振り返ったらセティが笑うから、安心して部屋に入る。宿より立派な横に長い椅子があった。触ると布がすべすべしている。フェルの毛皮みたいだ。頬擦りしていると、笑いながらセティに抱っこされて椅子に乗せられた。

 紺色っていうの。この青と黒が混じった色は、前に見たことがある。絵本と一緒に買ってもらった本で勉強した色だった。座ると柔らかくて、背筋がぴっと伸びる。なんか緊張しちゃう。

 ノックの音がして、セティがぱちんと指を鳴らした。周りの音がよく聞こえるようになって、前にある扉が開かれた。両側に1人ずついて重そうにしてる。

「あの扉は人間には重く、神族には軽い。連中は徳を積むと軽くなると信じてるのさ」

 悪戯を教えるみたいに、そっと耳元で囁く。セティの声、すごいね。なんかゾクゾクしちゃう。背中を舐められたみたい。肌がぶわっとした。

「猊下をお連れいたしました」

「ご苦労、下がれ」

 セティの声で、扉を開けた人が外に出る。ゆっくりと閉まる扉がばたんと音を立てた。重そうな音。扉が開いている間に入ってきたのは、お爺ちゃんだった。猊下ってお名前かな。僕もそう呼んだほうがいいの?

 さっきは挨拶したかったのに、今はどう呼んだらいいか分からない。周りの人の態度から、偉い人かもと思った。困ってセティを見上げると、くしゃっと黒髪を撫でてくれる。

「楽にしろ、イシスが会いたがったので呼んだ」

「伴侶様、お久しぶりでございます」

 少し顔を上げたお爺ちゃんの言葉に、僕はなぜか涙が溢れた。どうしたらいいか分からないけど、違うの。そうじゃない。僕はこんなの望んでない。ぼろぼろと流れる涙を拭うけど、鼻も詰まって変な音がした。ずずっと啜って、その度に涙も溢れる。

「イシス、落ち着け。大丈夫だ……前と同じように接してやってくれ」

 僕の涙を拭ってキスをしてくれるセティが、困ったように笑ってお爺ちゃんに話しかけた。お爺ちゃんは頷いて身を起こし、昔と同じように座る。両足を複雑に組んだ形で、僕はその膝に乗せてもらったことがあった。もう大きくなったから無理だけど。

 セティの隣から降りて、そっと近づく。ゆっくり、一歩ずつ。伸ばした手で、皺だらけの手に触れた。
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