上 下
127 / 321

126.帰ってくる約束をして

しおりを挟む
 無事にボリスも生まれたし、一度街に行くことになった。大きな街で、枕を作ってもらうんだって。それから僕のお洋服と、トムの袋を新しくして……あと、お布団やテントも買うみたい。よくわからないけど、一緒に寝ると危険だとか。

 僕はセティが決めたならいいけど。一緒にいるのに、何が危険なんだろうね。絵本も買ってもらう約束をした。大きな街にはすごい大きい本屋さんがあって、前のお店より本がたくさんある。そう聞いたからわくわくしていた。

「ボリス、お土産買ってくるね」

 話しかけて撫でたら、避けないけどそっぽ向いてる。機嫌が悪いのかな? そう思ったけど、尻尾は僕に巻き付いていた。お母さん達をそのまま小さくした形だから、ボリスは4本脚で歩くの。それを折り曲げて長い首をよそに向けたら、僕からは顔が見えなかった。

 背中の鱗を撫でながら、ちょっと寂しいと思った。僕、昨日何かしちゃったかな。もしかして食べたお肉の柔らかいところ、本当はボリスが食べたかった?

 しょんぼりした僕を舐めたお母さんが、ボリスに唸った。びくっとしたボリスが何か唸り返す。この話し方、フェルみたい。

『まったく、この子ったらイシスがいなくなるのが寂しいんですって』

 お母さんが教えてくれたのは、ボリスが僕と一緒にいたいと思ってること。なのに僕が街に行くから、離れ離れになるのが寂しくて拗ねてる。抱き着いて全身でボリスを包んだ。僕の弟は本当に可愛い。僕、可愛くて素敵な家族が出来て幸せだよ。

「僕はボリスのお兄ちゃんだもん。約束して帰ってくるよ」

 ぐるる? 鳴いたボリスの喉も撫でて、潤んだ目の下も撫でて、それから鼻先をぎゅっとした。いっぱい撫でて、約束する。僕、ちゃんと戻ってくるから。

『危なくなったら呼べ、いや……これを渡しておこう』

 お父さんが僕に綺麗な腕輪をくれた。前にも首飾りと指輪をもらったけど、今回は少し違うみたい。光る輪っかで、僕の左手首にぴたっと貼りついた。その後、見えなくなっちゃう。撫でると付いてるのが分かるけど……見えないのに飾りなの?

「悪いな、だが助かる。すぐに攫われるからな」

 セティがお父さんにお礼を言った。僕も慌ててお礼したら、ぺろっと舐められる。

『イシスが危険になったら、大きな声で呼べ。必ず駆け付けてやる』

「お父さん、忙しいのにいいの?」

 帝様って、王様と同じで忙しいと思う。なのに僕が呼んだら来てくれるの? すごいけど、大変じゃないかな。不思議に思っていると、セティが教えてくれた。普段じゃなくて、本当に危ない時や怖い時に呼ぶんだって。そうすると腕輪が光って、お父さんに居場所を連絡する。

『親が子供の危機に駆け付けるのは当然だ』

 よく分かんない。そういう親は僕にいなかったから。セティも前に同じようなことを言ってた。絶対に助けてやるから、心の中で神様に祈れって。みんなが助けてくれるなら、僕は何も怖くないね。ふふっと笑ったら、お母さんに舐められた。

 駆け寄ってお母さんに抱き着いたら、後ろからボリスがしがみついた。お父さんもボリスごと僕を抱える。お父さんとお母さんに潰されちゃうよ。凄く幸せで、笑いながら見た先でトムを捕まえたセティが手を振る。

 僕、セティと一緒に神殿を出て良かったよ。すごく幸せ。これ以上がないと思えるくらい、本当に幸せ。絵本のお姫様より嬉しいと思う。

「さて、いくぞ」

 セティに助け出され、僕は抱っこされた。転移して街の近くの森に行くんだと聞く。鳴くボリスの声に「また帰ってくる」と叫んだ。お母さんがしっかり抱き締めたボリスは、ぼろぼろ涙を零してる。ごめんね、でも帰るから待ってて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...