【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

文字の大きさ
上 下
75 / 321

74.手ぇ出されたのか?

しおりを挟む
 うとうとする僕の胸に擦り寄る子猫を、無意識に抱き締める。温かくて、小さくて、壊れそう。大切にしないと、すぐに死んじゃうかも知れない。柔らかくした魚が入った器を持ったセティが近づいた。

 子猫は起き上がって、よたよた歩く。足がすごく短いんだ、この子。器の中のご飯を匂い嗅いで、すぐに食べ始めた。小さい牙と舌で食べる姿を見ていると、目蓋がとろんと落ちてくる。

 あ、寝ちゃう。

 起きてたい気分と、眠い身体がケンカしてるみたい。僕はお母さんになるんだから、寝てばかりじゃダメだと思う。何度も閉じる目蓋を押し上げた。ずずっと鼻が鳴る。少し息が苦しい。

「ん? イシス……熱がないか?」

 首を横に振る。すると額に手のひらが押し当てられた。ひんやりする。折角開いた目蓋がまた閉じちゃいそう。なんか気持ちいい。ふらっと傾いた体が、そのままベッドに倒れちゃいそう。

「具合悪くないのか」

 確認する声にまた横に首を振った。具合も気分も悪くないよ。ただ眠いだけ。ご飯を食べ終わった子猫が、僕の手に擦り寄った。

 くにゃくにゃして、柔らかくて温かい。僕がしてもらったみたいに撫でていると、セティが溜め息をついた。顔をあげた僕に困ったように笑いかける。

「オレも寝るから、一緒に休もう」

 よく分からないけど、セティは眠いの? なら、僕も付き合ってあげる。

「一緒に、寝る」

「いい子だ。おいで」

 窓にくっついた方へセティが乗った。真ん中が僕、抱っこしたフォンの隙間に子猫が入ってくる。みんな一緒に寝るのは初めてだね。

「にぃ」

 子猫は器用に体を舐めていたけど、ひと鳴きすると僕の顔の横で丸くなった。体が柔らかいんだな。僕には真似できそうにない。背中に当たるセティの体が温かくて、抱き締める腕が嬉しくて……目を閉じた。

 セティが大好き、子猫も好きだけど……もっとずっと好き。僕はセティのお嫁さんになるから、ちゃんとお母さんもしなくちゃ。でも今だけ少し休んでもいいかな。起きたらちゃんとするね。

 神様にごめんなさいして、そこから覚えていない。夢を見た気がする。金の髪の綺麗な人が、何か言ってた。でも聞こえなくて、セティがいないから慌てる。どうしよう、この夢から出られなくなったらやだ。

 そこで額に何かが触れた。最初はひんやりして、次は温かい。それが目の辺りを優しく覆った。気持ちいい。セティの手みたい。怖い夢が消えて、髪が金色の人もいなくなった。

「お、起きたか?」

 がらがらした声、でも聞いたことがある。一度開いた目をもう一回瞬きした。僕がさっきご飯を食べた席に、ゲリュオンが座ってる。

「ゲリュオン?」

「そうだ。子猫は気に入ったか?」

 言われて慌てて確認すると、子猫は床で飛び跳ねていた。ゲリュオンが持ったリボンの先を追いかけて、右へ左へすばしっこく動く。

「うん。僕がお母さんになるの」

「げっ、まさかこの幼さで手ぇ出されたのかよ……」

 何のお話だろう。首をかしげる僕の後ろで、セティが低い声を出した。

「出入り禁止にされたいのか?」

「すまん、何も言わん」

 謝るゲリュオンが肩を寄せて小さくなったのを見て、何だかおかしくなって笑ってしまった。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼毎週、月・水・金に投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...