【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
76 / 321

75.その声に泣きたくなった(SIDEセティ)

しおりを挟む
*****SIDE セティ



 子猫はイシスに懐いている。面白くない感情もあるが、子猫に八つ当たりをする気はない。何しろ、奴は何も覚えていないのだから。幼い姿でよたよた歩く子猫は、あのいけすかない豊穣神アトゥムの魂を宿した器だった。記憶も神格もすべて剥奪してやったが、元神である事実は変わらない。

 あの場で完全に食ってしまうつもりでいた。オレに逆らうなら、神でも魔物でも同じだ。滅びてしまえばいい。ゲリュオンに半分譲ったが、残りを貪って吸収した。神が神を食らうということは、その力も能力も信仰すら奪う行為だ。ほとんど吸収し終え、残るのは作り物めいた頭くらいか。

 そのタイミングで、あの野郎が横やりを入れやがった。豊穣の神がいなくなると困る。数万年の封印で許してやれと頭ごなしに命じてきた。撥ねのけることも可能だが……オレは譲歩した。代わりに別の条件を飲ませるために。

 全能神を名乗る不遜な奴は、悩んだ末に了承した。いや、了承せざるを得ないだろう。オレが本気で攻撃すれば、奴だって無事では済まない。今は戦いと争いを司るゲリュオンがいる。過去の聖戦ほど簡単に引いてやる理由はなかった。

 赤い顔のイシスは熱がある自覚はないのだろう。怠い体を動かして、子猫に手を伸ばす。何も持たない子供が初めて得た生き物は、あふっと小さな口で欠伸をした。体調不良に気づかないイシスは、鼻を啜り息苦しそうだ。額に触れると熱い。間違いなく具合が悪いのに、尋ねると否定する。

 どうやら全能神を名乗るあのバカが仕事をしたらしい。イシスの体は作り替えられていく。その過程で発熱や体の痛みがあるのは仕方なかった。根本的に作り直すのだから。

「オレも寝るから、一緒に休もう」

「一緒に、寝る」

「いい子だ。おいで」

 壁際に横たわると、のそのそベッドを四つん這いで進むイシスが寝転ぶ。あっという間に手足を丸めて、子猫のように丸くなった。当然のように子猫がイシスの顔のそばで丸まって鳴く。

 起きたら少し楽になればと、手をかざして力を流し込む。この子の本質を変えないよう、だがオレが望んだ存在に変質させるために。治癒なんて苦手なんだが……。イシスが楽になるなら、苦手な調整もこなせるし、苦にならなかった。

 起きたイシスが、ゲリュオンと軽口をたたきあう。どうやら体調不良は落ち着いたらしい。これから数回に分けて、イシスの体は変わっていく。楽しみであると同時に、多少の怖さもあった。

 人間はいつだって、大きな力を手にすると変わる。美しかった透明の内面を曇らせ、濁らせて腐らせるのだ。イシスなら大丈夫だと思う反面、恐怖はどうしても拭いきれなかった。

 くすくす笑うイシスを後ろから抱きしめる。

「どうしたの?」

「おいおい、俺がいないときにしてくれ」

 きょとんとしたイシスと、肩を竦めて立ち上がるゲリュオン。友人が出ていくのを見送り、イシスの首に唇を押し当てた。ひゃっと変な声が出ていたが、すぐにイシスは体の力を抜く。そんなに無防備だと、悪い神に食われちまうぞ……。

「セティ、僕……セティが大好き。子猫もありがとう。頑張ってお母さんになるね」

 指先の冷たい手がオレの腕をつかみ、イシスはゆっくりと話す。その声が耳に心地よくて、なぜか鼻の奥がツンとした。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...