46 / 321
45.いかに特別な子か(SIDEセティ)
しおりを挟む
*****SIDE セティ
イシスを膝に乗せて座ることで、この子がいかに特別かを示す。神が自ら選び取った供物なのだ。死と破壊を司るタイフォンに捧げる贄は、花嫁を意味した。知らずに選んだとはいわせない。
大司教に調べさせた結果は、最悪だった。豊穣の神アトゥムを信仰する隣国を目の敵にするこの国は、愚かにもオレの力を頼ろうとした。古に定められた贄を捧げ、神に娶られた子供を通じて願いを通そうとする。方法として、確かに神に声は届くだろう。
贄となる子は純粋で、神の色を持つことが条件だった。イシス以上に、条件を満たす子供は存在しない。この子の声はどこにいても届くのだから。
しばらく洞窟で飼ったが、神の反応がない。無駄な金がかかる贄を殺したいが、選んでしまった以上神の持ち物だ。勝手に殺すわけにもいかず放置した。その結果が洞窟の神殿の有り様だ。神の花嫁に教育もまともな住環境も与えず、食料を制限し、虐待した。
オレが神殿を離れて旅をしていた所為もあるが、イシスが祈りの形を知らなかったことも大きく影響した。何も知らない子供は、祈ることすらしなかった。ただ与えられる環境と物を受け取りながら生きるだけ。だから祈らない贄の声は、神に届かなかった。
元凶はこの国だが、この子を贄として差し出したのは属国のティターンだ。さて、どちらから先に滅ぼすのが正しいか。
目を細めて視線をやれば、イシスは絵本の表紙を凝視していた。タイフォンの神話が描かれてた絵本は、長い黒髪と紫の瞳のオレの過去の一部だ。国王の始祖となった男を従え、他国の侵略を食い止めた英雄譚だった。
オレは単に飛んでくる火の粉を払っただけだ。勝手に隣で戦った男がその後国を興した。だが人間は常に自分に都合のよい話を残していく。死者を司る面もあるため、わざわざ死人の名誉を穢す気もなく放置したら、いつの間にか真実として伝わってしまった。
懐かしい逸話を、嬉しそうに見つめる。気が向いて表紙を捲った。イシスの心が少し曇る。もう1枚捲ると、目を輝かせた。なるほど、神官と同じ白い服が気に入らなかったらしい。次のページは今と同じ青い服で、傍目に分かるほどイシスの表情が明るくなった。
まだ痩せすぎの哀れな子供は、飴を舐めながら足を揺らす。まるで動物の尻尾のようだ。この子ならば尻尾や獣耳を付けても可愛いだろう。試すなら何の動物が似合うか。兎、いや……尻尾を揺らすなら犬。くたりと柔らかく身を預けて膝に乗る姿から、猫も似合うと口元を緩めた。
揃いの青い服の下は、美しい赤い痕を刻んである。痣などという無粋な痕跡ではなく、ただただ愛しいと示すための印だ。この子はまだ意味を知らないが、これからゆっくり教えていけばいい。オレから離れられないよう、心にも身体にもオレを刻みつけてやろう。
話半分に聞いた大司教の声が途切れるのを待って、オレは顔を上げた。自分でページを捲っていたイシスが、ほっと息をつく。読み終えた本から顔を上げた途端、怯えたように身を硬くした。司教の白い衣に身を包んだ男が、イシスを睨みつける。その醜い心にオレの眉が寄った。
イシスを膝に乗せて座ることで、この子がいかに特別かを示す。神が自ら選び取った供物なのだ。死と破壊を司るタイフォンに捧げる贄は、花嫁を意味した。知らずに選んだとはいわせない。
大司教に調べさせた結果は、最悪だった。豊穣の神アトゥムを信仰する隣国を目の敵にするこの国は、愚かにもオレの力を頼ろうとした。古に定められた贄を捧げ、神に娶られた子供を通じて願いを通そうとする。方法として、確かに神に声は届くだろう。
贄となる子は純粋で、神の色を持つことが条件だった。イシス以上に、条件を満たす子供は存在しない。この子の声はどこにいても届くのだから。
しばらく洞窟で飼ったが、神の反応がない。無駄な金がかかる贄を殺したいが、選んでしまった以上神の持ち物だ。勝手に殺すわけにもいかず放置した。その結果が洞窟の神殿の有り様だ。神の花嫁に教育もまともな住環境も与えず、食料を制限し、虐待した。
オレが神殿を離れて旅をしていた所為もあるが、イシスが祈りの形を知らなかったことも大きく影響した。何も知らない子供は、祈ることすらしなかった。ただ与えられる環境と物を受け取りながら生きるだけ。だから祈らない贄の声は、神に届かなかった。
元凶はこの国だが、この子を贄として差し出したのは属国のティターンだ。さて、どちらから先に滅ぼすのが正しいか。
目を細めて視線をやれば、イシスは絵本の表紙を凝視していた。タイフォンの神話が描かれてた絵本は、長い黒髪と紫の瞳のオレの過去の一部だ。国王の始祖となった男を従え、他国の侵略を食い止めた英雄譚だった。
オレは単に飛んでくる火の粉を払っただけだ。勝手に隣で戦った男がその後国を興した。だが人間は常に自分に都合のよい話を残していく。死者を司る面もあるため、わざわざ死人の名誉を穢す気もなく放置したら、いつの間にか真実として伝わってしまった。
懐かしい逸話を、嬉しそうに見つめる。気が向いて表紙を捲った。イシスの心が少し曇る。もう1枚捲ると、目を輝かせた。なるほど、神官と同じ白い服が気に入らなかったらしい。次のページは今と同じ青い服で、傍目に分かるほどイシスの表情が明るくなった。
まだ痩せすぎの哀れな子供は、飴を舐めながら足を揺らす。まるで動物の尻尾のようだ。この子ならば尻尾や獣耳を付けても可愛いだろう。試すなら何の動物が似合うか。兎、いや……尻尾を揺らすなら犬。くたりと柔らかく身を預けて膝に乗る姿から、猫も似合うと口元を緩めた。
揃いの青い服の下は、美しい赤い痕を刻んである。痣などという無粋な痕跡ではなく、ただただ愛しいと示すための印だ。この子はまだ意味を知らないが、これからゆっくり教えていけばいい。オレから離れられないよう、心にも身体にもオレを刻みつけてやろう。
話半分に聞いた大司教の声が途切れるのを待って、オレは顔を上げた。自分でページを捲っていたイシスが、ほっと息をつく。読み終えた本から顔を上げた途端、怯えたように身を硬くした。司教の白い衣に身を包んだ男が、イシスを睨みつける。その醜い心にオレの眉が寄った。
248
あなたにおすすめの小説
身代わりの出来損ない令息ですが冷酷無比な次期公爵閣下に「離さない」と極上の愛で溶かされています~今更戻ってこいと言われてももう遅いです〜
たら昆布
BL
冷酷無比な死神公爵 × 虐げられた身代わり令息
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる
レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。
ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。
死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる
kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。
かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。
そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。
「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」
おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる