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本編
69.正義は我らにあり
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「正義は我らにあり! 神敵どもを叩きのめせ!」
号令を掛ける鎧姿の騎士に、わっと同調の声が沸き起こった。
「神のお望みのままに!」
「神敵を滅ぼせ! 世界を我らの手に!」
多神教と一神教の違いはここにある。他国の神や信仰を否定するかどうか。神々が複数いると考える者は、よその神を信じる者が現れても受け入れる。寛容さというより、自分達が相手を否定することで同じ目に遭う危険性を理解するからだ。
己の神を誇るなら、他の神を貶すなかれ。多神教の神殿で当たり前に口にされる言葉だった。信者はその教えを守り、どんな神であろうと拒まない。だが、一神教は違った。自分達が信じる神以外に神はなく、信仰しない者や他の神を信じる者は神敵となる。
ルベリウス国の熱気は高まっていた。ずっと地下で燻ってきた火山が、ようやく噴火口を見つけたように。彼らは他国を蹂躙し奪い尽くす気でいる。たとえ最強の傭兵団が待ち受けようと、神の加護を受けた自分達が負けるなど想像もしなかった。
ゆえに、付け入る隙が生まれる。送り込まれたカミルは溜め息をついて、熱狂したルベリウスの民に眉を寄せた。気の毒に……あの悪魔のような男が用意した作戦は、傭兵団の副団長をもってして「えげつない」と言わしめる内容だった。
体を痛めつけられても信者は折れない。ならば心や信じる神を折ればいい。理屈は分かるが、一般的に良心が咎める作戦だろう。ボスがいいならいいけれど。カミルは考えることを放棄した。人を切り殺す瞬間に、神の心を推し量っても答えなど出ない。
与えられた命令を遂行するだけだ。
あちこちの酒場は、戦争に赴く者やその仲間で盛り上がっていた。他国に侵略して、神の敵を殺す。綺麗な女を奪い、豪華な屋敷を燃やし、豊かな実りを持ち帰ろう。唯一絶対の神を信じない蛮族は、人ではない。神殿の教えを真に受けて、略奪で明るい未来が開けると疑わなかった。
にわかに活気づいた酒場で、一つの噂が広まる。不謹慎だと言いながら、浮かれた酔っ払いは噂を誰かに伝達し続けた。こんな話は与太話だと前置きしながら、噂を口にする。聞いた者がまた伝え、気づけば一晩で知らぬ者がいないほど広まった。
酔っ払いは自宅に戻り、その話しを妻や子に漏らす。秘密だぞと囁かれた噂を、近所の奥さんへ。はたまた遊び相手の子ども達の間で、止まることを知らずに耳にして口にする。その結果は、数日で現れた。
「なあ、あの噂を知ってるか?」
「知らない奴なんていないさ。神殿が神様の言葉を騙って、俺らから搾取していたらしい」
「うちの子の食べ物も足りないってのに、ぶくぶくと太って」
「左右の指にすべて指輪を嵌めるなんざ、王族でもしないらしいぜ」
噂が虚言であったなら、すぐに鎮火しただろう。だが人々の普段の生活における重税などの不満を薪に、炎は鮮やかに燃え上がった。豊かな生活をして肥え太った連中が、豪華な絹の衣装を着て王族より贅を尽くした生活をしている。
言葉の信ぴょう性は、すぐに目の前に提示された。戦争へ向かう信徒に神の言葉を伝えるとして、大神官が人前に姿を見せたのだ。隣に立つ王族は細く麗しい。真逆の醜さが詰まった腹を揺すりながら、テラスに立つ見苦しい神官達に、民の不信感は大きく膨らんだ。
号令を掛ける鎧姿の騎士に、わっと同調の声が沸き起こった。
「神のお望みのままに!」
「神敵を滅ぼせ! 世界を我らの手に!」
多神教と一神教の違いはここにある。他国の神や信仰を否定するかどうか。神々が複数いると考える者は、よその神を信じる者が現れても受け入れる。寛容さというより、自分達が相手を否定することで同じ目に遭う危険性を理解するからだ。
己の神を誇るなら、他の神を貶すなかれ。多神教の神殿で当たり前に口にされる言葉だった。信者はその教えを守り、どんな神であろうと拒まない。だが、一神教は違った。自分達が信じる神以外に神はなく、信仰しない者や他の神を信じる者は神敵となる。
ルベリウス国の熱気は高まっていた。ずっと地下で燻ってきた火山が、ようやく噴火口を見つけたように。彼らは他国を蹂躙し奪い尽くす気でいる。たとえ最強の傭兵団が待ち受けようと、神の加護を受けた自分達が負けるなど想像もしなかった。
ゆえに、付け入る隙が生まれる。送り込まれたカミルは溜め息をついて、熱狂したルベリウスの民に眉を寄せた。気の毒に……あの悪魔のような男が用意した作戦は、傭兵団の副団長をもってして「えげつない」と言わしめる内容だった。
体を痛めつけられても信者は折れない。ならば心や信じる神を折ればいい。理屈は分かるが、一般的に良心が咎める作戦だろう。ボスがいいならいいけれど。カミルは考えることを放棄した。人を切り殺す瞬間に、神の心を推し量っても答えなど出ない。
与えられた命令を遂行するだけだ。
あちこちの酒場は、戦争に赴く者やその仲間で盛り上がっていた。他国に侵略して、神の敵を殺す。綺麗な女を奪い、豪華な屋敷を燃やし、豊かな実りを持ち帰ろう。唯一絶対の神を信じない蛮族は、人ではない。神殿の教えを真に受けて、略奪で明るい未来が開けると疑わなかった。
にわかに活気づいた酒場で、一つの噂が広まる。不謹慎だと言いながら、浮かれた酔っ払いは噂を誰かに伝達し続けた。こんな話は与太話だと前置きしながら、噂を口にする。聞いた者がまた伝え、気づけば一晩で知らぬ者がいないほど広まった。
酔っ払いは自宅に戻り、その話しを妻や子に漏らす。秘密だぞと囁かれた噂を、近所の奥さんへ。はたまた遊び相手の子ども達の間で、止まることを知らずに耳にして口にする。その結果は、数日で現れた。
「なあ、あの噂を知ってるか?」
「知らない奴なんていないさ。神殿が神様の言葉を騙って、俺らから搾取していたらしい」
「うちの子の食べ物も足りないってのに、ぶくぶくと太って」
「左右の指にすべて指輪を嵌めるなんざ、王族でもしないらしいぜ」
噂が虚言であったなら、すぐに鎮火しただろう。だが人々の普段の生活における重税などの不満を薪に、炎は鮮やかに燃え上がった。豊かな生活をして肥え太った連中が、豪華な絹の衣装を着て王族より贅を尽くした生活をしている。
言葉の信ぴょう性は、すぐに目の前に提示された。戦争へ向かう信徒に神の言葉を伝えるとして、大神官が人前に姿を見せたのだ。隣に立つ王族は細く麗しい。真逆の醜さが詰まった腹を揺すりながら、テラスに立つ見苦しい神官達に、民の不信感は大きく膨らんだ。
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