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本編
02.俺を怖がらない女は初めてだ
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美貌を謳われる真珠姫を褒賞に望む声は多い。故にその扱いは捕虜とは思えぬ好待遇であり、同時に望まぬ男へ下賜される可能性は濃厚だった。憂鬱な気持ちになりながらも、アンネリースは顔を上げる。相貌の美しさではなく、その気高さに将軍は魅せられた。
まるで見世物のように、彼女は将軍の馬の飾りとなる。武功の証として、将軍に拘束されたまま馬に乗って運ばれた。城外に出て、国民の間を抜け、都の外へ出るまで。アンネリースは俯かなかった。二度とこの国を見られないかもしれない。悲壮な決意と覚悟、母国の姿を目に焼き付けようと顔を上げる。
軍の後ろを侍女や乳母が必死で追った。馬がゆっくり進んでも、女の足で追うのは辛い。やがて乳母が脱落しかけ、侍女達が支えた。それでも追おうとする姿に、アンネリースは涙を滲ませる。
「お願いがございます。あの者達をどうか、お助けいただけませんか?」
彼女らは私の家族同然だ。訴える美姫に、将軍は困ったような顔を見せた。連れて来いと命じられたのは、王女アンネリースのみ。侍女や乳母は保護の範囲に含まれない。だが無視して進み、後ろの女達が損なわれたことで、王女が自害しても困る。
女神の宗教はムンパール独自のもので、彼は詳細を知らなかった。自害が禁じられているから、王女が捕まったことも。女神を奉じる宗教に王女が傾倒していたことも、何も知らない。
獣の相貌を歪ませて迷う。万が一、王女が本気で死のうとしたら止める手立てが必要だ。そのために人質として、この使用人達を連れていくのはどうか。道中で、王女の面倒をみる者も必要だった。部下を含め、男が着替えの手助けをするわけにもいかない。
ごちゃごちゃと理由を後付けし、ようやく将軍は命令を下した。
「荷馬車で運ばせよう」
「ありがとうございます」
両手を組んで感謝の祈りを捧げる王女に、男は困惑した。綺麗な貴族の女は、誰も彼も彼を怖がる。将軍職にあり、功績を上げても三十近くまで独身なのだ。皇帝は好きな女が出来ればくれてやる。だから結婚しろと言うが、顔を見るだけで泣く女に辟易していた。
珍しくこの顔を怖がらない、大きな体を厭わない。こんな女もいるのだと、驚きをもって見つめた。それから部下に指示を出す。さすがに部下達も女を歩かせて、自分達が馬に乗る状況に思うところがあったようで……文句の声は上がらなかった。
すぐに荷馬車の一角を空け、そこに女達を乗せる。荷物にもたれる形で脱力した様子から、倒れる手前だったと知れた。森を抜ける街道は整備されているが、武器を持たない女を残したら獣に襲われる。再び動き出した車列は、僅かに速度を上げた。女の足に合わせて速度を落としていた証拠だ。
部下達の表情が明るくなったことで、将軍は溜め息を吐く。そんなに心配なら進言すればよいものを……。彼の溜め息を、アンネリースは違う意味で受け取った。彼に恩を感じたのだ。面倒だと思いながら願いを叶えてくれた。いつかこの恩を返せたら……捕虜の身ではあるが、願うことは自由だ。
彼が見せた優しさの分だけ、幸せが訪れるよう。女神様へ祈りを捧げ、アンネリースは背筋を伸ばした。髭に覆われた獣のような相貌から想像できない優しい彼に、幸運が舞い込むように。肩書だけの王女であり、与えるものを持たない今のアンネリースに出来る最大の感謝だった。
まるで見世物のように、彼女は将軍の馬の飾りとなる。武功の証として、将軍に拘束されたまま馬に乗って運ばれた。城外に出て、国民の間を抜け、都の外へ出るまで。アンネリースは俯かなかった。二度とこの国を見られないかもしれない。悲壮な決意と覚悟、母国の姿を目に焼き付けようと顔を上げる。
軍の後ろを侍女や乳母が必死で追った。馬がゆっくり進んでも、女の足で追うのは辛い。やがて乳母が脱落しかけ、侍女達が支えた。それでも追おうとする姿に、アンネリースは涙を滲ませる。
「お願いがございます。あの者達をどうか、お助けいただけませんか?」
彼女らは私の家族同然だ。訴える美姫に、将軍は困ったような顔を見せた。連れて来いと命じられたのは、王女アンネリースのみ。侍女や乳母は保護の範囲に含まれない。だが無視して進み、後ろの女達が損なわれたことで、王女が自害しても困る。
女神の宗教はムンパール独自のもので、彼は詳細を知らなかった。自害が禁じられているから、王女が捕まったことも。女神を奉じる宗教に王女が傾倒していたことも、何も知らない。
獣の相貌を歪ませて迷う。万が一、王女が本気で死のうとしたら止める手立てが必要だ。そのために人質として、この使用人達を連れていくのはどうか。道中で、王女の面倒をみる者も必要だった。部下を含め、男が着替えの手助けをするわけにもいかない。
ごちゃごちゃと理由を後付けし、ようやく将軍は命令を下した。
「荷馬車で運ばせよう」
「ありがとうございます」
両手を組んで感謝の祈りを捧げる王女に、男は困惑した。綺麗な貴族の女は、誰も彼も彼を怖がる。将軍職にあり、功績を上げても三十近くまで独身なのだ。皇帝は好きな女が出来ればくれてやる。だから結婚しろと言うが、顔を見るだけで泣く女に辟易していた。
珍しくこの顔を怖がらない、大きな体を厭わない。こんな女もいるのだと、驚きをもって見つめた。それから部下に指示を出す。さすがに部下達も女を歩かせて、自分達が馬に乗る状況に思うところがあったようで……文句の声は上がらなかった。
すぐに荷馬車の一角を空け、そこに女達を乗せる。荷物にもたれる形で脱力した様子から、倒れる手前だったと知れた。森を抜ける街道は整備されているが、武器を持たない女を残したら獣に襲われる。再び動き出した車列は、僅かに速度を上げた。女の足に合わせて速度を落としていた証拠だ。
部下達の表情が明るくなったことで、将軍は溜め息を吐く。そんなに心配なら進言すればよいものを……。彼の溜め息を、アンネリースは違う意味で受け取った。彼に恩を感じたのだ。面倒だと思いながら願いを叶えてくれた。いつかこの恩を返せたら……捕虜の身ではあるが、願うことは自由だ。
彼が見せた優しさの分だけ、幸せが訪れるよう。女神様へ祈りを捧げ、アンネリースは背筋を伸ばした。髭に覆われた獣のような相貌から想像できない優しい彼に、幸運が舞い込むように。肩書だけの王女であり、与えるものを持たない今のアンネリースに出来る最大の感謝だった。
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