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7-1 わたしはあなたの side A
5 詐欺師でもないけれど
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◆
「おはよう、珠紀、ちょっといい?」
「いいけど、なあに? 和音ちゃん」
翌日の学校は、昨日の祐利奈の件にもかかわらず、余りにも普段通りだった。
まあ、昨日も生徒達の動揺があってこその異様な空気感が充満していただけで、先生は普段通りのカリキュラムをこなしていたけれど。
珠紀がいつも朝一番に登校している事を和音は知っていたから、いつもより少し早めに家を出て、いつもより早めに学校について、そして、いつもよりも少しだけ長い朝のホームルームまでの間に、珠紀に話しかけた。
「あの、ね、ちょっと、今日の放課後、付き合ってほしくて」
「わたしが? 和音ちゃんに?」
珠紀はそう言って、きょときょとと瞬きをしてから、どうしようかと迷うようにうーん、とわざとらしく小さく唸る。
「うん、珠紀は、友達だから」
そう、和音が少しの罪悪感を隠しながら言えば、珠紀は驚いたように一度目を見開いてから、どこか満足そうに微笑んだ。
「わかったわ。で、それって何の用?」
――おそらく、コレを引き合いに出せば、向こうは拒絶しない、と思う。
とは、昨日のロビンの言だ。
その通りに事が運んだ事に、恐怖未満の何かを感じながら、和音は同じく言われた通りの理由を口にした。
「昨日、帰り道の途中で、ちょっと具合が悪くなって……その時に助けてくれたおにいさんとおねえさんに、ハンカチ、返したくて……ここに返しに来てって場所は教えてもらったんだけど、一人で行くの、ちょっと怖くて」
――こういうのは、嘘と本当を混ぜ合わせた方がいい。
そう言ってたのもロビンだし、実際に織歌はこのためにハンカチを貸してくれた。
「珠紀がいたら、心強いなって」
和音の言葉に、重い黒髪を揺らして小首を傾げた珠紀は、その顔に刻んだ満足げな笑みを更に深めた。
「和音ちゃんがそこまで言うなら、いいわ」
そして、和音の依頼を了承した。
◆
「……ハンカチを返しに来る、というのはどうだろう」
しばしの沈黙の後に、ロビンがそう言った。
「その時に、付き添いとしてその子を連れて来ればいい」
「でも、どこに……」
「ボクらの家の方がいい。不測の事態にも備えられるし、実際、ボクとオリカだけじゃ手に負えない部分もある」
気を利かせた織歌が、自分の鞄からペンとメモ帳を取り出して、ロビンに手渡した。
受け取ったロビンは、ペンをメモ帳にさらさらと走らせて、ぴっと一枚切り放すと、和音の前にそれを差し出す。
和音が受け取ったその紙には、この辺りでも比較的高級めなはずの住宅街付近の住所が書きつけられていた。
「オリカ、この後、ウチに寄って、センセイとヒロへの説明、お願いしていい? ちょっとボクは準備をする必要があるから」
「え、あ、はい。わかりました。まあ、もともといつも通り、寄るつもりでしたし」
和音が住所を確認している内に、ロビンと織歌は何やら情報伝達の算段を立てている。
「あと、ハンカチ貸してあげて。こういうのは、嘘と本当を混ぜ合わせた方がいい」
「ああ、はい。なるほど、詐欺師のよくある手口と同じですね」
そう言って、織歌はごそごそとポケットからハンカチを取り出して、和音に差し出してくる。
その横でロビンが渋面を作っているのが、少しおかしくて、和音はなんとか、笑いを我慢しながらハンカチを受け取った。
「おはよう、珠紀、ちょっといい?」
「いいけど、なあに? 和音ちゃん」
翌日の学校は、昨日の祐利奈の件にもかかわらず、余りにも普段通りだった。
まあ、昨日も生徒達の動揺があってこその異様な空気感が充満していただけで、先生は普段通りのカリキュラムをこなしていたけれど。
珠紀がいつも朝一番に登校している事を和音は知っていたから、いつもより少し早めに家を出て、いつもより早めに学校について、そして、いつもよりも少しだけ長い朝のホームルームまでの間に、珠紀に話しかけた。
「あの、ね、ちょっと、今日の放課後、付き合ってほしくて」
「わたしが? 和音ちゃんに?」
珠紀はそう言って、きょときょとと瞬きをしてから、どうしようかと迷うようにうーん、とわざとらしく小さく唸る。
「うん、珠紀は、友達だから」
そう、和音が少しの罪悪感を隠しながら言えば、珠紀は驚いたように一度目を見開いてから、どこか満足そうに微笑んだ。
「わかったわ。で、それって何の用?」
――おそらく、コレを引き合いに出せば、向こうは拒絶しない、と思う。
とは、昨日のロビンの言だ。
その通りに事が運んだ事に、恐怖未満の何かを感じながら、和音は同じく言われた通りの理由を口にした。
「昨日、帰り道の途中で、ちょっと具合が悪くなって……その時に助けてくれたおにいさんとおねえさんに、ハンカチ、返したくて……ここに返しに来てって場所は教えてもらったんだけど、一人で行くの、ちょっと怖くて」
――こういうのは、嘘と本当を混ぜ合わせた方がいい。
そう言ってたのもロビンだし、実際に織歌はこのためにハンカチを貸してくれた。
「珠紀がいたら、心強いなって」
和音の言葉に、重い黒髪を揺らして小首を傾げた珠紀は、その顔に刻んだ満足げな笑みを更に深めた。
「和音ちゃんがそこまで言うなら、いいわ」
そして、和音の依頼を了承した。
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「……ハンカチを返しに来る、というのはどうだろう」
しばしの沈黙の後に、ロビンがそう言った。
「その時に、付き添いとしてその子を連れて来ればいい」
「でも、どこに……」
「ボクらの家の方がいい。不測の事態にも備えられるし、実際、ボクとオリカだけじゃ手に負えない部分もある」
気を利かせた織歌が、自分の鞄からペンとメモ帳を取り出して、ロビンに手渡した。
受け取ったロビンは、ペンをメモ帳にさらさらと走らせて、ぴっと一枚切り放すと、和音の前にそれを差し出す。
和音が受け取ったその紙には、この辺りでも比較的高級めなはずの住宅街付近の住所が書きつけられていた。
「オリカ、この後、ウチに寄って、センセイとヒロへの説明、お願いしていい? ちょっとボクは準備をする必要があるから」
「え、あ、はい。わかりました。まあ、もともといつも通り、寄るつもりでしたし」
和音が住所を確認している内に、ロビンと織歌は何やら情報伝達の算段を立てている。
「あと、ハンカチ貸してあげて。こういうのは、嘘と本当を混ぜ合わせた方がいい」
「ああ、はい。なるほど、詐欺師のよくある手口と同じですね」
そう言って、織歌はごそごそとポケットからハンカチを取り出して、和音に差し出してくる。
その横でロビンが渋面を作っているのが、少しおかしくて、和音はなんとか、笑いを我慢しながらハンカチを受け取った。
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