怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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6-2 竜馬と松浦の姫 side B

1 夜もすがら

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ぺらり、と読んでいる本のページをめくると同時に、二階から階段を降りてくる音がしたので、ロビンは本から顔を上げた。
かちゃりとリビングダイニングの戸を開けて入って来たのは、くあ、とあくびを漏らすパジャマのひろである。

「あれ、ロビンは徹夜てつやです?」
「うん、最初からそのつもり」

ついさっき起きたばかりというていひろに言われて、ロビンは本にしおりはさんでから答える。
時計を見れば、午前三時を少し回ったところだった。

「ふあ……仮眠ぐらいすればいいのに」
「最悪、ボクが察知できないといけないでしょ」

今回の紀美きみが勝手に背負い込んだ、つまりはあの小夜せれなという少女に、彼女から責任をすべてかすめ取って背負しょい込むような言葉を教えたので、ロビン達からすれば、臨戦態勢を取らねばならない状況である。
とはいえ、今晩ですべての決着がつくだろうが。

「やだなー、敵意の察知だったら、わたし、ロビンと同等ですよ?」
「逆に言えば、向こうに敵意や害意がなければ、ボクの方が上でしょ」

そう返せば、ひろは、またそういうこと言う、とつぶやいて、食卓の自分の定位置の椅子に腰掛ける。

「あー、わたしも徹夜てつやすればよかったかな」
「別に、ボクがいれば事足りるし。ヒロ、寝起き悪いわけでもないし」

兄妹きょうだい弟子でしであり、同時に精神的共犯者きょうはんしゃというのがロビンとひろの関係だ。
少なくとも、ロビンはそう自認している。
その上で、性差や年齢差を加味して、ひろをできる限り危険にさらすべきでない、とは思っている。

「……ロビンが真っ先にやられたらどうするんですか」
「ボクにかかってるのはだから、よっぽどのことがないとそうはならないよ」
「迎撃手段がほぼないくせに」

――たとえ、ひろの方が、こういう事態に適正が高いとしても。勿論もちろん、彼女の父親と兄の事も考慮した上での総合的判断だ。
頬杖ほおづえをついて、口をとがらせたひろの言葉に、ロビンは反論の余地がないので無言をもって返答の代わりとする。

「しかしまあ、よく覚えてましたね、『万葉集』の歌なんて」
「ああ、たつね。いろんな普遍的イメージを探ってる中で早い段階で触れたから……空飛ぶ馬っていうくくりで」

空飛ぶ馬。
西洋では、ギリシャ神話のペルセウスが殺したメデューサの血から生まれた翼持つ馬ペガサスがそれだし、同じギリシャ神話なら太陽神ヘリオスの馬車を引いて走る馬達もそれである。
太陽を馬が引く、というイメージ自体は北欧神話の太陽である娘ソールとその馬達や、古代中国の『楚辞そじ』の離騒りそう九歌きゅうか東君とうくんにもそのイメージがふくまれているほどには普遍的だ。
同時に、その文化圏において、馬が重要かつ一種の地位顕示status symbol的な移動手段の一つとして機能していた証とも言える。
とはいえ、日本においては――

「そんなの調べてたことあったんですか」
「知っておいて損はないから……ただ日本では太宰府だざいふのあたりとの紐づきが強かったみたいではある」

そう言って、ロビンはぱたりと本を閉じて、ひろの相手に専念することにする。
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