怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
176 / 266
5-2 夢の浮橋 side B

10 そして互酬的因果への帰結

しおりを挟む


「ありがとうございました」

支払いを済ませ、店員の声を後ろに店を後にする。
どことなく周囲がざわついているような、と見渡してみると少しばかり離れたところに立ち入り禁止の黄色いテープと、ブルーシートが張り巡らされている一角があった。
当然、そのすぐそばにはランプが光ったままのパトカーが止まっている。
確かにロビンと話してる間に、サイレンの音がしたような気はしたが。

「何かあったんですかね」
「……ナニかあったよ」

何もわからず、きょとんとしてそれを見ている織歌おりかにロビンはそちらを見ないまま言った。

「ロビンさん?」
「……オリカ、キミ、生霊いきりょうのフィードバックの話で『源氏物語』に触れたよね」

歯にものがはさまったような物言いはロビンにしては珍しい。
何か隠していても、それをあからさまににおわせるような言い方をこの兄弟子あにでしは普通しないのだ。
であれば、それは逆説的に織歌おりかに気付けとうながしていることと何ら変わらない。
そして話の内容から推測して――

「私のせい、ですか?」
「オリカのせいじゃない」

明らかに何かがあったのとは反対方向――実際もと来た道がそうなのだが――に歩を進めながら、ロビンは立ち尽くす織歌おりかに小さく振り返って言った。
生霊いきりょうによるフィードバックで何かが発生した結果があの立ち入り禁止なら、それは生霊いきりょうけがれと認識してどうにかさせてしまった織歌おりかの責任だ。
歩みを止めない、それも急いでその場から離れるように普段よりもやや大股おおまたで歩くロビンに、小走りで追いついて、織歌おりかはその横顔を見上げる。

「あの」
「オリカのせいじゃない」

言い聞かせるようにロビンは繰り返し言う。
そもそも、喫茶店の中でしばし待つ事を選択したのはロビンだ。
その目で何を見て、そう判断したのか。
織歌おりかにはわからない。

「でも」
「アレはのろいが返った結果だ」

吐き捨てるようにロビンは少し固い表情のまま言う。

「……のろい、ですか?」
「言っただろ、あの生霊いきりょうはそもそも負のベクトルでつきまとってたんだ」

きゅっとロビンの眉間にアイロンをかけたいぐらいのシワが寄った。
悪い目つきがさらに凶悪さを増す。

「今回、センセイはリャナン・シーLeannan-sidheとして見た方がコトの運びがラクだろうって判断して、最初からそのつもりだった。だから、ボクもとして扱ったし、として見る努力をした」

その言い振りからするなら、ロビンとしては本来は見えなかったということだ。
自身が余りにも多くのものを見ているせいか、この兄弟子あにでしは何を見たって動じることは少ない。
何を見たかについて、嘘をつく事も、それをいつわりとするために演技をする事も可能とするだけの、織歌おりかにははかり知れない経験値がロビンにはあるのだ。
織歌おりかがついていくのに必死に足を動かしている事に気が付いたのか、ロビンが少し歩くペースを落とす。

「あの、そしたら、ロビンさんには、何が見えてたんですか? さっき、話した以上のものが、見えてたんですか?」

少し上がった息で織歌おりかがそう問えば、ロビンの青い目が、ちらと織歌おりかを見て、それから一度まばたきをした。

「grudge, spite」
「はい?」

唐突な聞き慣れない英単語に織歌おりかは思わず聞き返す。

「ん……悪意、怨嗟えんさ、嫉妬、恨み。そういうものをどんな姿でもつぶやき続けてたよ。魅了するような素振そぶりをしながらね。気分のいいものではないよ」
「……私には、そんな」
すでリャナン・シーLeannan-sidheとしていたし、織歌おりかの認識ではただの生霊いきりょうでしかない。センセイもそこまで見えてはないし、そもそもことの方が想定外だ」

織歌おりかの不安を塗りつぶすようにロビンは早口でそうまくし立てて、苦々しい顔をすると、一度足を止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...