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5-2 夢の浮橋 side B
10 そして互酬的因果への帰結
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◆
「ありがとうございました」
支払いを済ませ、店員の声を後ろに店を後にする。
どことなく周囲がざわついているような、と見渡してみると少しばかり離れたところに立ち入り禁止の黄色いテープと、ブルーシートが張り巡らされている一角があった。
当然、そのすぐそばにはランプが光ったままのパトカーが止まっている。
確かにロビンと話してる間に、サイレンの音がしたような気はしたが。
「何かあったんですかね」
「……ナニかあったよ」
何もわからず、きょとんとしてそれを見ている織歌にロビンはそちらを見ないまま言った。
「ロビンさん?」
「……オリカ、キミ、生霊のフィードバックの話で『源氏物語』に触れたよね」
歯にものが挟まったような物言いはロビンにしては珍しい。
何か隠していても、それをあからさまに匂わせるような言い方をこの兄弟子は普通しないのだ。
であれば、それは逆説的に織歌に気付けと促していることと何ら変わらない。
そして話の内容から推測して――
「私のせい、ですか?」
「オリカのせいじゃない」
明らかに何かがあったのとは反対方向――実際もと来た道がそうなのだが――に歩を進めながら、ロビンは立ち尽くす織歌に小さく振り返って言った。
生霊によるフィードバックで何かが発生した結果があの立ち入り禁止なら、それは生霊を穢と認識してどうにかさせてしまった織歌の責任だ。
歩みを止めない、それも急いでその場から離れるように普段よりもやや大股で歩くロビンに、小走りで追いついて、織歌はその横顔を見上げる。
「あの」
「オリカのせいじゃない」
言い聞かせるようにロビンは繰り返し言う。
そもそも、喫茶店の中で暫し待つ事を選択したのはロビンだ。
その目で何を見て、そう判断したのか。
織歌にはわからない。
「でも」
「アレは呪いが返った結果だ」
吐き捨てるようにロビンは少し固い表情のまま言う。
「……呪い、ですか?」
「言っただろ、あの生霊はそもそも負のベクトルでつきまとってたんだ」
きゅっとロビンの眉間にアイロンをかけたいぐらいのシワが寄った。
悪い目つきがさらに凶悪さを増す。
「今回、センセイはリャナン・シーとして見た方がコトの運びがラクだろうって判断して、最初からそのつもりだった。だから、ボクもそうとして扱ったし、そうとして見る努力をした」
その言い振りからするなら、ロビンとしては本来そうは見えなかったということだ。
自身が余りにも多くのものを見ているせいか、この兄弟子は何を見たって動じることは少ない。
何を見たかについて、嘘をつく事も、それを偽りとするために演技をする事も可能とするだけの、織歌には計り知れない経験値がロビンにはあるのだ。
織歌がついていくのに必死に足を動かしている事に気が付いたのか、ロビンが少し歩くペースを落とす。
「あの、そしたら、ロビンさんには、何が見えてたんですか? さっき、話した以上のものが、見えてたんですか?」
少し上がった息で織歌がそう問えば、ロビンの青い目が、ちらと織歌を見て、それから一度瞬きをした。
「grudge, spite」
「はい?」
唐突な聞き慣れない英単語に織歌は思わず聞き返す。
「ん……悪意、怨嗟、嫉妬、恨み。そういうものをどんな姿でも呟き続けてたよ。魅了するような素振りをしながらね。気分のいいものではないよ」
「……私には、そんな」
「既にリャナン・シーとしていたし、織歌の認識ではただの生霊でしかない。センセイもそこまで見えてはないし、そもそも向こうがそれをそこまで自覚的だったことの方が想定外だ」
織歌の不安を塗り潰すようにロビンは早口でそうまくし立てて、苦々しい顔をすると、一度足を止めた。
「ありがとうございました」
支払いを済ませ、店員の声を後ろに店を後にする。
どことなく周囲がざわついているような、と見渡してみると少しばかり離れたところに立ち入り禁止の黄色いテープと、ブルーシートが張り巡らされている一角があった。
当然、そのすぐそばにはランプが光ったままのパトカーが止まっている。
確かにロビンと話してる間に、サイレンの音がしたような気はしたが。
「何かあったんですかね」
「……ナニかあったよ」
何もわからず、きょとんとしてそれを見ている織歌にロビンはそちらを見ないまま言った。
「ロビンさん?」
「……オリカ、キミ、生霊のフィードバックの話で『源氏物語』に触れたよね」
歯にものが挟まったような物言いはロビンにしては珍しい。
何か隠していても、それをあからさまに匂わせるような言い方をこの兄弟子は普通しないのだ。
であれば、それは逆説的に織歌に気付けと促していることと何ら変わらない。
そして話の内容から推測して――
「私のせい、ですか?」
「オリカのせいじゃない」
明らかに何かがあったのとは反対方向――実際もと来た道がそうなのだが――に歩を進めながら、ロビンは立ち尽くす織歌に小さく振り返って言った。
生霊によるフィードバックで何かが発生した結果があの立ち入り禁止なら、それは生霊を穢と認識してどうにかさせてしまった織歌の責任だ。
歩みを止めない、それも急いでその場から離れるように普段よりもやや大股で歩くロビンに、小走りで追いついて、織歌はその横顔を見上げる。
「あの」
「オリカのせいじゃない」
言い聞かせるようにロビンは繰り返し言う。
そもそも、喫茶店の中で暫し待つ事を選択したのはロビンだ。
その目で何を見て、そう判断したのか。
織歌にはわからない。
「でも」
「アレは呪いが返った結果だ」
吐き捨てるようにロビンは少し固い表情のまま言う。
「……呪い、ですか?」
「言っただろ、あの生霊はそもそも負のベクトルでつきまとってたんだ」
きゅっとロビンの眉間にアイロンをかけたいぐらいのシワが寄った。
悪い目つきがさらに凶悪さを増す。
「今回、センセイはリャナン・シーとして見た方がコトの運びがラクだろうって判断して、最初からそのつもりだった。だから、ボクもそうとして扱ったし、そうとして見る努力をした」
その言い振りからするなら、ロビンとしては本来そうは見えなかったということだ。
自身が余りにも多くのものを見ているせいか、この兄弟子は何を見たって動じることは少ない。
何を見たかについて、嘘をつく事も、それを偽りとするために演技をする事も可能とするだけの、織歌には計り知れない経験値がロビンにはあるのだ。
織歌がついていくのに必死に足を動かしている事に気が付いたのか、ロビンが少し歩くペースを落とす。
「あの、そしたら、ロビンさんには、何が見えてたんですか? さっき、話した以上のものが、見えてたんですか?」
少し上がった息で織歌がそう問えば、ロビンの青い目が、ちらと織歌を見て、それから一度瞬きをした。
「grudge, spite」
「はい?」
唐突な聞き慣れない英単語に織歌は思わず聞き返す。
「ん……悪意、怨嗟、嫉妬、恨み。そういうものをどんな姿でも呟き続けてたよ。魅了するような素振りをしながらね。気分のいいものではないよ」
「……私には、そんな」
「既にリャナン・シーとしていたし、織歌の認識ではただの生霊でしかない。センセイもそこまで見えてはないし、そもそも向こうがそれをそこまで自覚的だったことの方が想定外だ」
織歌の不安を塗り潰すようにロビンは早口でそうまくし立てて、苦々しい顔をすると、一度足を止めた。
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