怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話2 弘の話

ποτνια θηρων 1

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ποτνια θηρωνポトニア・テーローン
日本語訳にして獣の女主人。
古代ギリシャの月と狩猟の処女神、アルテミスの呼び名の一つとして有名だろうか。

しかし、現在においてはアルテミスのみに限らず、狩人かりゅうど獲物えものもたらし、獣をしたがえる山林や森という異界を領分とする地母神ちぼしん系列の女神や、図像として獣を従えることになっている女神――結果としてフリギアのキュベレーやシュメールのイナンナあるいはメソポタミアのイシュタルといった地母神ちぼしん系がやはり多い――をす。

地母神ちぼしんというのはえてして両義性を持つ女神である。
端的に言えば、生と死。
それは生育という慈愛の面と、衰退による破壊という苛烈な面という二面性で表されることもある。

どういうことか、とみのりとの関連から問うならば、ギリシャ神話の女神ペルセポネーを引くのが手っ取り早い。
冥界の神ハーデースにれられ、連れ去られたコレーは、最終的に一年の内の一部を冥界の女神ペルセポネーとして過ごし、残りを母であるデーメーテールと共に過ごす事となった。
更にはこの最終的結論に至るまでに、豊穣の女神デーメーテールは自身の権能に対してボイコットを起こし、地上は実りを結ばなくなった。

また、シュメールのイナンナ、メソポタミアのイシュタルは共に同系列の地母神ちぼしんであるがゆえに、大枠を共通とした神話として、冥界くだりのエピソードを持つが、その中で彼女が冥界の女神に殺される事によって、地上が実りを結ばなくなったので、他の神々がどうにかして彼女を生き返らせる。

また、フリギアからギリシャ神話に影響を与えたキュベレー――より古態こたいにおいてはアグディスティスとも呼ばれる――にはおのが配偶者アッティスを狂死に追いやる神話も存在している。
これはメソポタミアのギルガメシュ叙事詩で、ギルガメシュがイシュタルの求婚を断る時の理由とした、『イシュタルの夫は皆死んだ』というのや、ペルセポネーとアプロディーテーに愛された結果、死してアネモネを咲かせたアドーニスなども、豊穣の女神の二面性の比較材料として適当であるはずだ。

――まあ、豊穣の女神という存在が生をつかさどる以上、人を始めとした多くの動物の生殺与奪権は彼女のてのひらの上にある、ということであって、更に端的に言うなら、女性というのは時として力強く、怖い、という事なのだ。



「さて、今回、ひろちゃんのおさえられるかどうか、だけど、僕は変質させれば可能だと考えているし、そもそも変質は十二分に可能だと

そう言った僕に、ひろは首をかしげている。
ロビンはふむ、と納得してるように見えるが、単に今僕が納得してるから納得してるだけで、補習でいろいろ求められそうな気がする。

「ええと、その、葛城かつらぎさんのこと、話には、聞いてますけど……」
「うん、信用できないのはわかるよ、うん。だから、まず、僕の確証の根拠の話をしようか」

ロビンが待ってましたとばかりに、うんうんとうなずいている。
そのロビンに顔を向け、一つ確認する。

「ロビン、確認だけど、キミ、今まで犬神いぬがみの事は調べたことなかったね?」
「うん、そう。さっきセンセイが話した以上は今ボクは知らない」
ひろちゃんも、必要最低限ぐらいかな」
「えっと、そうですね、その血筋の者の意図をんで、勝手に動くぐらい、です」

ということは、この二人に共通して、今ロビンに見えている犬神いぬがみの姿を想起する判断材料はその名前しかない、ということになる。
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