上 下
224 / 266
昔話2 弘の話

犬神 8

しおりを挟む
「……非正規の霊能者は時として、その家独自の神をまつった。それが御子神みこがみなんて呼ばれるように自身の先祖が神に連なるがゆえに、その直近子孫を神としてまつる、つまりはやがて自身もその信仰対象の末席に加わる前提の祖霊信仰の変形だね。彼らは対価を得て他者を救いもするし、他者のためにも動く、これは今の僕らと同じ。だが、そういう家が対価を得るわけでもないのに、利益を得る形で不幸が生じることが続けば、当然のように周囲が距離感をたもつ感情は敬遠けいえんから忌避きひに転換し、やがては侮蔑ぶべつと成り果て、関係性は悪循環におちいり、その文脈コンテクストにおける『本当』が現実になる」

まあ、その事態の善し悪しと、その事態があること自体は別の話だ。
そも事の善し悪しなんて価値観で変わるのだし。

「なので、ひろちゃんは非常にがんばったと思うよ?」
「はい……はい?」

反射的に受け答えをして、それからひろは首をかしげた。
唐突に褒められたよりは話を振られた方にびっくりしてるらしい。

「キミがいじめの標的になった時点で、犬神を発生させる条件を満たしてた、と考えられるからね。唐国からくにの家は古いけど、禰宜ねぎはふりというわけじゃない、寺社仏閣に属さないの家で、そこに母方からの山陰の方の、これももしかしたら民間信仰の霊能者の血が入っている。そこにキミがいじめを受けた時点で、学校社会という極めて狭い範囲、それこそかつての村社会のような環境で、しいたげられる民間信仰の霊能者の図式を作られてしまった。そうなれば……」
「ああ、あとは引き金triggerさえ引けばいいってことだね」

ロビンがため息をついて続きを引き取ってくれる。

「センセイの論から言えば、図面が犬神いぬがみきのあつかわれ方とから、決定的な引き金trigger犬神いぬがみが発生した。論理学で言うところのconverse。『犬神いぬがみきならば、しいたげられた霊能者である』に対する、『しいたげられた霊能者ならば、犬神いぬがみきである』になった。そういうコトでしょ?」

確認するようにロビンがこちらを見る。
うーん、論理としては完璧かんぺき
論理学におけるconverseが常に真とは限らない通り、今回のこのconverseも本来は真偽はさだかではないものなのだけど、今の状況を考えれば、現実はに寄ったのだ。

「うん、そう。だから、彼らの自業自得じごうじとくでもあるし、発生したタイミングからすれば、そこに至ってようやひろちゃんが呪った、つまり怒ったってなる。よく耐えたんじゃない?」
「……そう、なん、でしょう、か?」

自身が無さそうにひろつぶやく。

「逆に抑圧よくあつしすぎた反動でこうして事象として成った可能性もなくはないけど……これは結果論でしかないから気にするだけ無駄なので捨てといて、それよりその後の対処が僕ら的には問題かな」
「でもセンセイ、それも結果論で終わりじゃない?」

ロビンの問いに、まあね、とため息混じりで答える。

ひろちゃんが聞こえたっていう犬の声が、気のせいか、外でリアルに犬が鳴いてたかに帰着できて、さらに犬神いぬがみって繰り返されなければ、たぶんここまでにはならなかったと思う。あくまで僕の理論からすれば、だけど」

そういうと、ひろは見るからにしゅんと肩を落として口を開いた。

「……ええと、わたしが、犬という方向性を与えてしまって、その後、いろいろな方に見てもらったことでさらにそれが繰り返されたからってこと、ですか?」
「まあ、そうなる。でも始点については仕方ないよ。その後の一般的視点も仕方ない。僕らの方が異端だ」

でも、とその先を少しのあきれを混ぜて口にする。

「一番頂けないのは過激派の一件だなあ……ひろちゃん、今度顔合わせたら、『ねえ今どんな気持ち?』って聞いてやるといいよ?」
「え……と、でも」

不安げな表情を見せたひろに対して、ロビンがくすりと笑った。

「センセイ、勝算、あるんだ?」
「あるよ。でなきゃこんな事言わない」

ロビンと僕の間で視線を行ったり来たりさせるひろに、僕はにやりと笑ってみせる。

「だから、ひろちゃん、過激派見返そうね?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

池の主

ツヨシ
ホラー
その日、池に近づくなと言われた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こちら聴霊能事務所

璃々丸
ホラー
 2XXXX年。地獄の釜の蓋が開いたと言われたあの日から十年以上たった。  幽霊や妖怪と呼ばれる不可視の存在が可視化され、ポルターガイストが日常的に日本中で起こるようになってしまった。  今や日本では霊能者は国家資格のひとつとなり、この資格と営業許可さえ下りればカフェやパン屋のように明日からでも商売を始められるようになった。  聴心霊事務所もそんな霊能関係の事務所のひとつであった。  そして今日も依頼人が事務所のドアを叩く────。  

処理中です...