怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
210 / 266
昔話2 弘の話

憑き物 1

しおりを挟む
もの、と言えば、神ならで人に憑依ひょういしたものを指し、特に動物の霊、殊更ことさら狐であることが多いものである。

しかし、この語の後ろに、「すじ」を付けるだけで、おおいにその意味合いは変わる。

ものすじは、その家系の血筋にき、至極単純な法則をもって、いた者にのみ利益をもたらすとされる。

その法則は、一つに、いた者の元に富を集めること。
二つに、いた者の敵を害すること。

なんてことはない。
閉鎖的村社会における不幸や不吉、理不尽の万能の受け皿だった、という話。
といっても、現代において、そう楽観視できるのは、本当の実害をともなわない場合だけだ。



ひろとの出会いは六年ほど前。
とはいえ、彼女については多くの説明をせねばならない。
ロビンが単純にのせいだけで成り立っているなら、ひろについては、大部分が人の血筋とごうで成り立っているからだ。

その日、依頼を受けた僕とロビンは唐国からくに家を訪問し、その古い日本家屋ならではの座敷で、冬も間近な底冷えする空気を正座した膝先に感じながら、ひろの父親であるいつきさんとまず対面した。
助手という名目でついてきたロビンは僕の後ろにひかえるように、いつまでたっても慣れないはずの正座をしている。
立ち上がる時、大丈夫かな、なんて考えが頭のすみぎった。

葛城かつらぎ殿、ご足労いただき、大変にありがたい」

よく日に焼けた疲れと苦みのにじむ顔で、依頼主でもあるいつきさんが目の前で頭をれた。
普段は僕の論理を否定する保守側についているのだから、そりゃ苦みがにじんだっておかしくはない。
逆に、僕に話を持ってきた時点で、相当行き詰まっているのだろう。

「いえ、こんな若輩者じゃくはいものに声をかけていただけたのですから」

とはいえ、向こうが大人な対応をするなら、こちらも大人な対応をするまでである。
呉越ごえつ同舟どうしゅう、共通の目的の前に、派閥はばつ争いなんてなんの益体やくたいもないのである。
しばしの沈黙の後、いつきさんは大きく息を吐いた。

「単刀直入に聞く、どこまで知っている?」
「残念ながら僕に情報を流してくれる人は少ないので、娘さんがどうかしたっぽい、ぐらいですね」

そうか、といつきさんはつぶやいた。
奥さんはだいぶ前に他界、息子さんのりつと娘さんのひろ、一昨年までは先代が健在だったが、老衰で他界……とは少ない伝手つてで得た基本情報パーソナルデータだ。

「頂いたお手紙には詳しい事は現場で、となっていましたし」

その現場がこの家なのだから、厄介事の気配ぐらいはひしひしと感じるけど。
いつきさんの目が、僕の後ろのロビンの方を向いた。

ひろは、娘は、離れに隔離している……その噂の助手がいるなら、嫌でもわかるだろう」

そこにある苦みが僕に頼る事に対するものではない、ということに今更ながら気が付く。
説明することすら苦痛に感じる何かが、娘さんに起きているということだろう。

「……わかりました。僕らのことは娘さんには?」
「……伝えてはある。離れは、そっちから出た廊下をそのまま突き当りまで奥に進んで、左に折れればいい」
「アナタは」

突然、ロビンが口を開いた。

「一緒でなくて、いいの?」

いつきさんは、ロビンのその言葉と視線を真っ向から受けるのをけるように、ふいと視線をそらした。

「……私は、娘に合わせる顔がない」

その声だけで、だいぶ憔悴しょうすいしていることが手に取るようにわかった。

「わかりました。それでしたら、場合によってはお呼びするかもしれませんが、僕とロビンで離れに向かいます」

そう告げて、立ち上がる。
心配してたロビンも、少しよろけつつも立ち上がった。

「……娘を頼む」

自身で力が及ばないからなのか、それ以外なのか、苦みのきわまった声がしぼり出すように投げかけられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

「お前のカメラ、ずっと映ってるよ」〜ホラースポット配信者が気づいた時には、もう遅かった〜

まさき
ホラー
ホラースポット専門のYouTuber・桐島悠は、霊も怪異も一切信じない合理主義者だ。 ある廃病院での配信中、今まで感じたことのない「違和感」を覚えた。しかし撮影は無事終了。その後も普通に配信を続け、あの夜のことなど忘れかけていた頃——深夜、金縛りにあう。 疲れてるだけだ。 しかし、それは始まりに過ぎなかった。 記憶の空白。知らない足跡。動画に毎回映り込む、同じ女の姿。そして——「やっと、見つけた」という声。 カメラが映し続けていたのは、心霊スポットではなかった。もっとずっと、近いところにいるものだった。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -

鏡野ゆう
キャラ文芸
特別国家公務員の安住君は商店街裏のお寺の息子。久し振りに帰省したら何やら見覚えのある青い物体が。しかも実家の本堂には自分専用の青い奴。どうやら帰省中はこれを着る羽目になりそうな予感。 白い黒猫さんが書かれている『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 とクロスオーバーしているお話なので併せて読むと更に楽しんでもらえると思います。 そして主人公の安住君は『恋と愛とで抱きしめて』に登場する安住さん。なんと彼の若かりし頃の姿なのです。それから閑話のウサギさんこと白崎暁里は饕餮さんが書かれている『あかりを追う警察官』の籐志朗さんのところにお嫁に行くことになったキャラクターです。 ※キーボ君のイラストは白い黒猫さんにお借りしたものです※ ※饕餮さんが書かれている「希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々」、篠宮楓さんが書かれている『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』の登場人物もちらりと出てきます※ ※自サイト、小説家になろうでも公開中※

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

新しい家族は保護犬きーちゃん

ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝🐶初めて保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。 過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。 初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃん がもたらす至福の日々。 ◇ ✴️保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾 ✴️日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾 ✴️🐶挿絵画像入りです。 ✴️拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...