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昔話2 弘の話
憑き物 1
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憑き物、と言えば、神ならで人に憑依した物の怪を指し、特に動物の霊、殊更狐であることが多いものである。
しかし、この語の後ろに、「筋」を付けるだけで、大いにその意味合いは変わる。
憑き物筋は、その家系の血筋に憑き、至極単純な法則を以て、憑いた者にのみ利益を齎すとされる。
その法則は、一つに、憑いた者の元に富を集めること。
二つに、憑いた者の敵を害すること。
なんてことはない。
閉鎖的村社会における不幸や不吉、理不尽の万能の受け皿だった、という話。
といっても、現代において、そう楽観視できるのは、本当の実害を伴わない場合だけだ。
◆
弘との出会いは六年ほど前。
とはいえ、彼女については多くの説明をせねばならない。
ロビンが単純に向こう側のせいだけで成り立っているなら、弘については、大部分が人の血筋と業で成り立っているからだ。
その日、依頼を受けた僕とロビンは唐国家を訪問し、その古い日本家屋ならではの座敷で、冬も間近な底冷えする空気を正座した膝先に感じながら、弘の父親である樹さんとまず対面した。
助手という名目でついてきたロビンは僕の後ろに控えるように、いつまでたっても慣れないはずの正座をしている。
立ち上がる時、大丈夫かな、なんて考えが頭の隅を過ぎった。
「葛城殿、ご足労いただき、大変にありがたい」
よく日に焼けた疲れと苦みの滲む顔で、依頼主でもある樹さんが目の前で頭を垂れた。
普段は僕の論理を否定する保守側についているのだから、そりゃ苦みが滲んだっておかしくはない。
逆に、僕に話を持ってきた時点で、相当行き詰まっているのだろう。
「いえ、こんな若輩者に声をかけていただけたのですから」
とはいえ、向こうが大人な対応をするなら、こちらも大人な対応をするまでである。
呉越同舟、共通の目的の前に、派閥争いなんてなんの益体もないのである。
暫しの沈黙の後、樹さんは大きく息を吐いた。
「単刀直入に聞く、どこまで知っている?」
「残念ながら僕に情報を流してくれる人は少ないので、娘さんがどうかしたっぽい、ぐらいですね」
そうか、と樹さんは呟いた。
奥さんはだいぶ前に他界、息子さんの律と娘さんの弘、一昨年までは先代が健在だったが、老衰で他界……とは少ない伝手で得た基本情報だ。
「頂いたお手紙には詳しい事は現場で、となっていましたし」
その現場がこの家なのだから、厄介事の気配ぐらいはひしひしと感じるけど。
樹さんの目が、僕の後ろのロビンの方を向いた。
「弘は、娘は、離れに隔離している……その噂の助手がいるなら、嫌でもわかるだろう」
そこにある苦みが僕に頼る事に対するものではない、ということに今更ながら気が付く。
説明することすら苦痛に感じる何かが、娘さんに起きているということだろう。
「……わかりました。僕らのことは娘さんには?」
「……伝えてはある。離れは、そっちから出た廊下をそのまま突き当りまで奥に進んで、左に折れればいい」
「アナタは」
突然、ロビンが口を開いた。
「一緒でなくて、いいの?」
樹さんは、ロビンのその言葉と視線を真っ向から受けるのを避けるように、ふいと視線を逸した。
「……私は、娘に合わせる顔がない」
その声だけで、だいぶ憔悴していることが手に取るようにわかった。
「わかりました。それでしたら、場合によってはお呼びするかもしれませんが、僕とロビンで離れに向かいます」
そう告げて、立ち上がる。
心配してたロビンも、少しよろけつつも立ち上がった。
「……娘を頼む」
自身で力が及ばないからなのか、それ以外なのか、苦みの極まった声が絞り出すように投げかけられた。
しかし、この語の後ろに、「筋」を付けるだけで、大いにその意味合いは変わる。
憑き物筋は、その家系の血筋に憑き、至極単純な法則を以て、憑いた者にのみ利益を齎すとされる。
その法則は、一つに、憑いた者の元に富を集めること。
二つに、憑いた者の敵を害すること。
なんてことはない。
閉鎖的村社会における不幸や不吉、理不尽の万能の受け皿だった、という話。
といっても、現代において、そう楽観視できるのは、本当の実害を伴わない場合だけだ。
◆
弘との出会いは六年ほど前。
とはいえ、彼女については多くの説明をせねばならない。
ロビンが単純に向こう側のせいだけで成り立っているなら、弘については、大部分が人の血筋と業で成り立っているからだ。
その日、依頼を受けた僕とロビンは唐国家を訪問し、その古い日本家屋ならではの座敷で、冬も間近な底冷えする空気を正座した膝先に感じながら、弘の父親である樹さんとまず対面した。
助手という名目でついてきたロビンは僕の後ろに控えるように、いつまでたっても慣れないはずの正座をしている。
立ち上がる時、大丈夫かな、なんて考えが頭の隅を過ぎった。
「葛城殿、ご足労いただき、大変にありがたい」
よく日に焼けた疲れと苦みの滲む顔で、依頼主でもある樹さんが目の前で頭を垂れた。
普段は僕の論理を否定する保守側についているのだから、そりゃ苦みが滲んだっておかしくはない。
逆に、僕に話を持ってきた時点で、相当行き詰まっているのだろう。
「いえ、こんな若輩者に声をかけていただけたのですから」
とはいえ、向こうが大人な対応をするなら、こちらも大人な対応をするまでである。
呉越同舟、共通の目的の前に、派閥争いなんてなんの益体もないのである。
暫しの沈黙の後、樹さんは大きく息を吐いた。
「単刀直入に聞く、どこまで知っている?」
「残念ながら僕に情報を流してくれる人は少ないので、娘さんがどうかしたっぽい、ぐらいですね」
そうか、と樹さんは呟いた。
奥さんはだいぶ前に他界、息子さんの律と娘さんの弘、一昨年までは先代が健在だったが、老衰で他界……とは少ない伝手で得た基本情報だ。
「頂いたお手紙には詳しい事は現場で、となっていましたし」
その現場がこの家なのだから、厄介事の気配ぐらいはひしひしと感じるけど。
樹さんの目が、僕の後ろのロビンの方を向いた。
「弘は、娘は、離れに隔離している……その噂の助手がいるなら、嫌でもわかるだろう」
そこにある苦みが僕に頼る事に対するものではない、ということに今更ながら気が付く。
説明することすら苦痛に感じる何かが、娘さんに起きているということだろう。
「……わかりました。僕らのことは娘さんには?」
「……伝えてはある。離れは、そっちから出た廊下をそのまま突き当りまで奥に進んで、左に折れればいい」
「アナタは」
突然、ロビンが口を開いた。
「一緒でなくて、いいの?」
樹さんは、ロビンのその言葉と視線を真っ向から受けるのを避けるように、ふいと視線を逸した。
「……私は、娘に合わせる顔がない」
その声だけで、だいぶ憔悴していることが手に取るようにわかった。
「わかりました。それでしたら、場合によってはお呼びするかもしれませんが、僕とロビンで離れに向かいます」
そう告げて、立ち上がる。
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「……娘を頼む」
自身で力が及ばないからなのか、それ以外なのか、苦みの極まった声が絞り出すように投げかけられた。
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