怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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4-2 うろを満たすは side B

1 つまりそろばんは弾いた

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唐国からくにひろは「理性は万物の主人であり、女王であるDomina omnium et regina ratio est.」を信条としている。
とはいえ、その七割ばかりは自身にかけられた制約のためであって、理性の対義語とされる感情をはいすべきと考えているわけではないし、それはそれでそうなったら、もはや人間として終わりだと思っている。
今日日きょうび、誰だってロボトミー手術なんてしたくはない。

なので、本人としては基本的には冷静な知的派を目指している……はずなのだが、頭の作りが固いのが痛手だなあ、と度々たびたび痛感するのである。



「ただいま戻りましたー」

玄関を開けて、そう言いながら真先まっさきひろは並んだ靴をチェックする。
やはり、織歌おりかはまだ家に帰ったわけではないことを確認して、妹弟子いもうとでしにどう説明しようかと思いつつ、閉めた玄関の鍵をかった。

スニーカーをスリッパにき替え、リビングのドアを開ければ、三人分の視線が突き刺さる。

「ただいま戻りました」
「おかえりー」
「おかえり」
「……おかえり、なさい」

これもひろは想定してはいた。想定してはいたのだ。
間延まのびした紀美きみの声と、そのままたぶんひろの分のお茶をれようと立ったロビンはいつもの調子である。
ただ、ワンテンポ遅れた織歌おりかだけは、その態度からも気配からも、不満がうかがえる。

「……織歌おりか、怒ってます?」

単刀直入に問いかけると、織歌おりかは口をとがらせて返す。

「怒ってはいませんが、説明は欲しいです」
織歌おりか、帰ってきて人心地ついてから、ひろがなんも説明してないってことに気付いてロビンに聞いてたよ。ただ、ロビンは教えなかったわけだけど」

にこにこと紀美きみが付け加える。
ロビンの教えなかった理由も、それを紀美きみがフォローしなかった理由もわかる。
ひろから織歌おりかに教えろ、ということだ。

「……わかりました。ちょっと手を洗ってきますんで、待っててください」

そう答えてとりあえず椅子にトートバッグを置いて、どれだけ補足の嵐が入るかなあ、と思いながらひろは洗面所に向かった。



「そうですね。まず、織歌おりかの本件の理解度を示して欲しいです」

手を洗って戻って来るとロビンがひろの愛用マグカップにお茶をれて、織歌おりかの対面に置いてくれやがっていた。
なお、今日は紅茶ではなく、こうばしい玄米茶という点についてはひろの好みである。ロビンからの些細ささいな報酬だ。

「本件って固いなあ」
「そこはヒロだし」

そして無責任に織歌おりかの横に座った紀美きみつぶやき、同じく無責任なツッコミをひろの横に座ったロビンが入れている。これは完全に高みの見物である。
ひろが外野のやじを流す姿勢をとっているので、さっしのいい妹弟子いもうとでしもそれに気を取られることはない。

「ええっと、まず、起きてる事象としては、怪異による邪視じゃしである。これはロビンさんとひろちゃんでヒアリングする以前から推測していた事ですよね」
「そうです。だから、一時しのぎにしかならなかったとしても有用なナザール・ボンジュウを用意したわけです、ロビンが」

あれは紀美きみから、依頼来たんだけどと、内容を渡された翌日に、準備してくるとだけ言って出て行ったロビンが複数買ってきたナザール・ボンジュウの内の一つだ。
ちなみに、なんか喜々としてそうなロビンに、何故複数と問うたら、ストック、とだけ帰ってきた。なお、今は全てロビンの部屋に格納されている。
然程さほど嵩張かさばるものでもないし、金額面以外では気にすることでもなかった。
何事も限度というのはあるものだし、ちりも積もれば山となるのである。
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