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4-2 うろを満たすは side B
1 つまりそろばんは弾いた
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唐国弘は「理性は万物の主人であり、女王である」を信条としている。
とはいえ、その七割ばかりは自身にかけられた制約のためであって、理性の対義語とされる感情を廃すべきと考えているわけではないし、それはそれでそうなったら、もはや人間として終わりだと思っている。
今日日、誰だってロボトミー手術なんてしたくはない。
なので、本人としては基本的には冷静な知的派を目指している……はずなのだが、頭の作りが固いのが痛手だなあ、と度々痛感するのである。
◆
「ただいま戻りましたー」
玄関を開けて、そう言いながら真先に弘は並んだ靴をチェックする。
やはり、織歌はまだ家に帰ったわけではないことを確認して、妹弟子にどう説明しようかと思いつつ、閉めた玄関の鍵をかった。
スニーカーをスリッパに履き替え、リビングのドアを開ければ、三人分の視線が突き刺さる。
「ただいま戻りました」
「おかえりー」
「おかえり」
「……おかえり、なさい」
これも弘は想定してはいた。想定してはいたのだ。
間延びした紀美の声と、そのままたぶん弘の分のお茶を淹れようと立ったロビンはいつもの調子である。
ただ、ワンテンポ遅れた織歌だけは、その態度からも気配からも、不満が窺える。
「……織歌、怒ってます?」
単刀直入に問いかけると、織歌は口を尖らせて返す。
「怒ってはいませんが、説明は欲しいです」
「織歌、帰ってきて人心地ついてから、弘がなんも説明してないってことに気付いてロビンに聞いてたよ。ただ、ロビンは教えなかったわけだけど」
にこにこと紀美が付け加える。
ロビンの教えなかった理由も、それを紀美がフォローしなかった理由もわかる。
弘から織歌に教えろ、ということだ。
「……わかりました。ちょっと手を洗ってきますんで、待っててください」
そう答えてとりあえず椅子にトートバッグを置いて、どれだけ補足の嵐が入るかなあ、と思いながら弘は洗面所に向かった。
◆
「そうですね。まず、織歌の本件の理解度を示して欲しいです」
手を洗って戻って来るとロビンが弘の愛用マグカップにお茶を淹れて、織歌の対面に置いてくれやがっていた。
なお、今日は紅茶ではなく、香ばしい玄米茶という点については弘の好みである。ロビンからの些細な報酬だ。
「本件って固いなあ」
「そこはヒロだし」
そして無責任に織歌の横に座った紀美が呟き、同じく無責任なツッコミを弘の横に座ったロビンが入れている。これは完全に高みの見物である。
弘が外野のやじを流す姿勢をとっているので、察しのいい妹弟子もそれに気を取られることはない。
「ええっと、まず、起きてる事象としては、怪異による邪視である。これはロビンさんと弘ちゃんでヒアリングする以前から推測していた事ですよね」
「そうです。だから、一時しのぎにしかならなかったとしても有用なナザール・ボンジュウを用意したわけです、ロビンが」
あれは紀美から、依頼来たんだけどと、内容を渡された翌日に、準備してくるとだけ言って出て行ったロビンが複数買ってきたナザール・ボンジュウの内の一つだ。
ちなみに、なんか喜々としてそうなロビンに、何故複数と問うたら、ストック、とだけ帰ってきた。なお、今は全てロビンの部屋に格納されている。
然程嵩張るものでもないし、金額面以外では気にすることでもなかった。
何事も限度というのはあるものだし、塵も積もれば山となるのである。
とはいえ、その七割ばかりは自身にかけられた制約のためであって、理性の対義語とされる感情を廃すべきと考えているわけではないし、それはそれでそうなったら、もはや人間として終わりだと思っている。
今日日、誰だってロボトミー手術なんてしたくはない。
なので、本人としては基本的には冷静な知的派を目指している……はずなのだが、頭の作りが固いのが痛手だなあ、と度々痛感するのである。
◆
「ただいま戻りましたー」
玄関を開けて、そう言いながら真先に弘は並んだ靴をチェックする。
やはり、織歌はまだ家に帰ったわけではないことを確認して、妹弟子にどう説明しようかと思いつつ、閉めた玄関の鍵をかった。
スニーカーをスリッパに履き替え、リビングのドアを開ければ、三人分の視線が突き刺さる。
「ただいま戻りました」
「おかえりー」
「おかえり」
「……おかえり、なさい」
これも弘は想定してはいた。想定してはいたのだ。
間延びした紀美の声と、そのままたぶん弘の分のお茶を淹れようと立ったロビンはいつもの調子である。
ただ、ワンテンポ遅れた織歌だけは、その態度からも気配からも、不満が窺える。
「……織歌、怒ってます?」
単刀直入に問いかけると、織歌は口を尖らせて返す。
「怒ってはいませんが、説明は欲しいです」
「織歌、帰ってきて人心地ついてから、弘がなんも説明してないってことに気付いてロビンに聞いてたよ。ただ、ロビンは教えなかったわけだけど」
にこにこと紀美が付け加える。
ロビンの教えなかった理由も、それを紀美がフォローしなかった理由もわかる。
弘から織歌に教えろ、ということだ。
「……わかりました。ちょっと手を洗ってきますんで、待っててください」
そう答えてとりあえず椅子にトートバッグを置いて、どれだけ補足の嵐が入るかなあ、と思いながら弘は洗面所に向かった。
◆
「そうですね。まず、織歌の本件の理解度を示して欲しいです」
手を洗って戻って来るとロビンが弘の愛用マグカップにお茶を淹れて、織歌の対面に置いてくれやがっていた。
なお、今日は紅茶ではなく、香ばしい玄米茶という点については弘の好みである。ロビンからの些細な報酬だ。
「本件って固いなあ」
「そこはヒロだし」
そして無責任に織歌の横に座った紀美が呟き、同じく無責任なツッコミを弘の横に座ったロビンが入れている。これは完全に高みの見物である。
弘が外野のやじを流す姿勢をとっているので、察しのいい妹弟子もそれに気を取られることはない。
「ええっと、まず、起きてる事象としては、怪異による邪視である。これはロビンさんと弘ちゃんでヒアリングする以前から推測していた事ですよね」
「そうです。だから、一時しのぎにしかならなかったとしても有用なナザール・ボンジュウを用意したわけです、ロビンが」
あれは紀美から、依頼来たんだけどと、内容を渡された翌日に、準備してくるとだけ言って出て行ったロビンが複数買ってきたナザール・ボンジュウの内の一つだ。
ちなみに、なんか喜々としてそうなロビンに、何故複数と問うたら、ストック、とだけ帰ってきた。なお、今は全てロビンの部屋に格納されている。
然程嵩張るものでもないし、金額面以外では気にすることでもなかった。
何事も限度というのはあるものだし、塵も積もれば山となるのである。
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