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4-2 うろを満たすは side B
2 トラウマ系絵画
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「ただ、実際に会ってヒアリングした結果、私が必要、と判断されたんですよね」
「はい。織歌は当然見えてたでしょう?」
そう言うと、織歌はちょっと渋い顔をした。
おや、織歌にしては珍しい、と弘は思う。
織歌は良く言えば泰然自若ながら素朴、悪く言えばのろまで世俗に疎そうなのだが、実のところ、頭の回転や有事における対応はなかなかにハイスペックだし、意外と豪胆だし、その所感の逞しさには大物感すらある。大体、その体質のせいだが。
「……織歌、そんなに嫌でした?」
「……あきつが、我が子を喰らうサトゥルヌスじみてて」
「ぶっ……ふ、けほ、げっほ、はは、げへっ」
ごふり、と横で危うくお茶を噴き出しそうになった紀美が、咽て咳込みながら、笑っている。
あの絵、苦手なんです、昔から、と零す織歌を見るに、幼き日に出来上がった地雷をどうやらピンポイントで踏み抜いたらしい。
「げほっ、はー……我が子を喰らうサトゥルヌスかあ」
「……My mother has killed me.My father is eating me.」
隣の師匠と兄弟子のやり取りに一度ちらりと視線だけ向けて、すぐに織歌に戻す。
「確かに、少なくともわたしの目にも人の形には見えましたしね、アレ」
とはいえ、赤子ほどかと言われると微妙だ。
まあ、弘はあの時全力で注意を払いながら美佳を拘束してたので、そこまでそっちに注意は払ってない。
織歌の能力への信頼の裏返しでもある。
「……頭の部分が完全に眼球で、こう、蛞蝓みたいな灰色がかった乳白色の肌色で、胸元からお臍の辺りまでがぱっくり割れてる中にぶよぶよてかてかした黒いのが詰まってて、それを割れ目を縫い止めてる赤い糸が落ちないようにしてたんですけど、その赤い糸が依頼人のお腹に繋がってたのを無理矢理に引きちぎった挙げ句、頭から噛みついたんですよ、あきつは」
ちょっと恨み節が入った懇切丁寧な描写に、弘は自分の空腹感がみるみる減衰していくのを感じる。
「しかも、そしたらどろーって黒いのが滴ったのを美味しそうにじゅるじゅるしてましたし……」
「……あ~、そこまで微に入り細に穿って描写できる程度に見えてたんですね。やっぱりそういうの相手には、織歌の精度はロビンと対等レベルですか」
そう言いつつ、今度は顔ごと横にいるロビンの方に視線を向ける。
それを見た紀美が面白そうに口を開いた。
「さて、見える専門家ロビンくん、判定は?」
「確かに気持ち悪いけど、人の姿な時点で序の口」
切れ味の鋭い言い切りに、それでも織歌はちょっと不満そうだ。
そりゃ幼少の砌、常日頃からいろんなものが見えて耐性がついてるロビンと比べたところで、月と鼈は当たり前。
「でも、聞いた話と合わせると、オリカがそこまで見えてたなら、尚更抵抗はなかったんじゃない?」
「まあ、本人が離れたがらないはありましたけどねー」
だからこそ弘が、がっちり捕まえて固定してたのだし。
物理的な対処について、この中では弘が一番向いているというのは自明の理なので。
「はい。織歌は当然見えてたでしょう?」
そう言うと、織歌はちょっと渋い顔をした。
おや、織歌にしては珍しい、と弘は思う。
織歌は良く言えば泰然自若ながら素朴、悪く言えばのろまで世俗に疎そうなのだが、実のところ、頭の回転や有事における対応はなかなかにハイスペックだし、意外と豪胆だし、その所感の逞しさには大物感すらある。大体、その体質のせいだが。
「……織歌、そんなに嫌でした?」
「……あきつが、我が子を喰らうサトゥルヌスじみてて」
「ぶっ……ふ、けほ、げっほ、はは、げへっ」
ごふり、と横で危うくお茶を噴き出しそうになった紀美が、咽て咳込みながら、笑っている。
あの絵、苦手なんです、昔から、と零す織歌を見るに、幼き日に出来上がった地雷をどうやらピンポイントで踏み抜いたらしい。
「げほっ、はー……我が子を喰らうサトゥルヌスかあ」
「……My mother has killed me.My father is eating me.」
隣の師匠と兄弟子のやり取りに一度ちらりと視線だけ向けて、すぐに織歌に戻す。
「確かに、少なくともわたしの目にも人の形には見えましたしね、アレ」
とはいえ、赤子ほどかと言われると微妙だ。
まあ、弘はあの時全力で注意を払いながら美佳を拘束してたので、そこまでそっちに注意は払ってない。
織歌の能力への信頼の裏返しでもある。
「……頭の部分が完全に眼球で、こう、蛞蝓みたいな灰色がかった乳白色の肌色で、胸元からお臍の辺りまでがぱっくり割れてる中にぶよぶよてかてかした黒いのが詰まってて、それを割れ目を縫い止めてる赤い糸が落ちないようにしてたんですけど、その赤い糸が依頼人のお腹に繋がってたのを無理矢理に引きちぎった挙げ句、頭から噛みついたんですよ、あきつは」
ちょっと恨み節が入った懇切丁寧な描写に、弘は自分の空腹感がみるみる減衰していくのを感じる。
「しかも、そしたらどろーって黒いのが滴ったのを美味しそうにじゅるじゅるしてましたし……」
「……あ~、そこまで微に入り細に穿って描写できる程度に見えてたんですね。やっぱりそういうの相手には、織歌の精度はロビンと対等レベルですか」
そう言いつつ、今度は顔ごと横にいるロビンの方に視線を向ける。
それを見た紀美が面白そうに口を開いた。
「さて、見える専門家ロビンくん、判定は?」
「確かに気持ち悪いけど、人の姿な時点で序の口」
切れ味の鋭い言い切りに、それでも織歌はちょっと不満そうだ。
そりゃ幼少の砌、常日頃からいろんなものが見えて耐性がついてるロビンと比べたところで、月と鼈は当たり前。
「でも、聞いた話と合わせると、オリカがそこまで見えてたなら、尚更抵抗はなかったんじゃない?」
「まあ、本人が離れたがらないはありましたけどねー」
だからこそ弘が、がっちり捕まえて固定してたのだし。
物理的な対処について、この中では弘が一番向いているというのは自明の理なので。
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