53 / 266
3-1 肝試しと大掃除 side A
4 There is where angel fear to tread
しおりを挟む
少し気の抜けるその笛の音が一旦途切れた瞬間、悠輔は脛の辺りを何かがするりと通った感触に驚いて、地面を見下ろした。
「な……?」
「安心してください。害はないです」
微かに、ちゃかちゃかという音が複数、弘の方に向かっていく。
だが、懐中電灯を向けても、何も見えない。
このどこかで聞いたようなちゃかちゃかという音が、昔友人と友人宅の犬を散歩させた時の犬の足音と同じ質のものだと気付いて、悠輔は思わず身体を強張らせた。
隣で都子が息を呑む音がする。
「人並みよりかは敏感って感じですか、お二人とも」
その様子を、鋭利な光を目に宿らせた弘がそう呟く。
微かに、あのなんとも言えない独特の獣の臭いが鼻を掠めた気がした。
「……探せ」
弘が鋭くそう言って、また犬笛を吹き鳴らす。
途端に、ざっと四方八方に揺れ動いた獣の臭いを伴う空気が、膝や脛に当たったその気配が、そこに何かが集まっていて、そして散開したことを示していた。
「いやだなあ、そこまで緊張しなくてもいいじゃないですか」
自分が、がちがちに引きつった表情をしていると悠輔は自覚しているし、都子も同じようなものだ。
それを見て、纏った刃物のような空気の片鱗を崩すように、弘は笑った。
一方、織歌は慣れきったように落ち着きはらっている。
「でも、弘ちゃん、島田さんはおそらく聞こえてましたよ」
そしてにこにこと、織歌がそんな事を言い放ったものだから、都子がびくりと身体を震わせた。
「え、あの……」
「吠えた瞬間にびくっとされてましたから……たぶん一時的に感化されただけではないかと思いますが」
「……織歌って意外としっかり観察してるんですよねえ」
弘はぼそりと、姉弟子として沽券に関わる、と呟く。
そういう関係性なのか、と思うと同時に、彼女達の師匠はなんのつもりで女の子二人を廃墟に行かせたんだ、と悠輔は思った。
思ったのだが、五点接地法をリアルでやってのける弘にそう簡単に敵う人間がいるとも思えなかった。少なくとも悠輔は敵う気がしない。
「まあ、聞こえたものは仕方ないです。それにそうであれば、お二人がビビりなんて言われるのは、逆にその敏感さに見合った危機管理能力があるということだと思います。今度言われたら、君子危うきに近寄らずとでも返せばいいですよ」
「そうですね、命を知る者は巌牆の下に立たずでもいいと思います」
織歌の同意の言葉を受けて、弘が一瞬だけ遠い目をしたのを悠輔は見逃さなかった。
まあたぶんわからなかったんだろうな、と思う。悠輔もよくわからない。
都子がどうかまでは表情からはよくわからなかった。
「ま、待ってください」
都子が声を上げる。
「その、私が危機管理能力も持ち合わせてる、ということは、その、唐国さんのさっきのアレも、怖かったのは、危険、ということ、なんですか?」
一瞬にして沈黙が降りた。
「な……?」
「安心してください。害はないです」
微かに、ちゃかちゃかという音が複数、弘の方に向かっていく。
だが、懐中電灯を向けても、何も見えない。
このどこかで聞いたようなちゃかちゃかという音が、昔友人と友人宅の犬を散歩させた時の犬の足音と同じ質のものだと気付いて、悠輔は思わず身体を強張らせた。
隣で都子が息を呑む音がする。
「人並みよりかは敏感って感じですか、お二人とも」
その様子を、鋭利な光を目に宿らせた弘がそう呟く。
微かに、あのなんとも言えない独特の獣の臭いが鼻を掠めた気がした。
「……探せ」
弘が鋭くそう言って、また犬笛を吹き鳴らす。
途端に、ざっと四方八方に揺れ動いた獣の臭いを伴う空気が、膝や脛に当たったその気配が、そこに何かが集まっていて、そして散開したことを示していた。
「いやだなあ、そこまで緊張しなくてもいいじゃないですか」
自分が、がちがちに引きつった表情をしていると悠輔は自覚しているし、都子も同じようなものだ。
それを見て、纏った刃物のような空気の片鱗を崩すように、弘は笑った。
一方、織歌は慣れきったように落ち着きはらっている。
「でも、弘ちゃん、島田さんはおそらく聞こえてましたよ」
そしてにこにこと、織歌がそんな事を言い放ったものだから、都子がびくりと身体を震わせた。
「え、あの……」
「吠えた瞬間にびくっとされてましたから……たぶん一時的に感化されただけではないかと思いますが」
「……織歌って意外としっかり観察してるんですよねえ」
弘はぼそりと、姉弟子として沽券に関わる、と呟く。
そういう関係性なのか、と思うと同時に、彼女達の師匠はなんのつもりで女の子二人を廃墟に行かせたんだ、と悠輔は思った。
思ったのだが、五点接地法をリアルでやってのける弘にそう簡単に敵う人間がいるとも思えなかった。少なくとも悠輔は敵う気がしない。
「まあ、聞こえたものは仕方ないです。それにそうであれば、お二人がビビりなんて言われるのは、逆にその敏感さに見合った危機管理能力があるということだと思います。今度言われたら、君子危うきに近寄らずとでも返せばいいですよ」
「そうですね、命を知る者は巌牆の下に立たずでもいいと思います」
織歌の同意の言葉を受けて、弘が一瞬だけ遠い目をしたのを悠輔は見逃さなかった。
まあたぶんわからなかったんだろうな、と思う。悠輔もよくわからない。
都子がどうかまでは表情からはよくわからなかった。
「ま、待ってください」
都子が声を上げる。
「その、私が危機管理能力も持ち合わせてる、ということは、その、唐国さんのさっきのアレも、怖かったのは、危険、ということ、なんですか?」
一瞬にして沈黙が降りた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。
===
エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中
【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
霊和怪異譚 野花と野薔薇
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる