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3-1 肝試しと大掃除 side A
3 夜に笛吹く
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◆
「で、怖いもの知らずコンビというのが、津曲恭弥さんと勾田深雪さん……ですか」
「はい……」
弘曰く、悠輔達が正面玄関から入ったのに対し、彼女達は裏口から入って、地下をまず片付けてから二階、という経路を通ったらしい。
んー、と弘が眉間にしわを寄せた。
「単純に調べる面積広すぎるから、やっちゃった方が楽かな……織歌はどう思います?」
「そこは弘ちゃんのコンディションにお任せしますよ。多少の恐怖や擦り傷ぐらいなら良い薬になると思います」
ですよねー、と言いながら弘は眉間のしわを伸ばすように、ぐりぐりと揉みほぐしている。
なんの相談なのかという点は、悠輔も都子もわからない。
「というわけで、藤代さん、島田さん」
「は、はい」
「今のままだとマジで二人がどうなるかわからないですけど、ちょっとした恐怖体験やちょっとした擦り傷の可能性と、どうなるかわからない状況だったらどっちとります?」
「いや、そこは普通恐怖体験や擦り傷でしょ……」
都子も悠輔の言葉に頷いている。
弘が目を細めて、口を開いた。
「話を聞く限り、彼らだってあなた方をビビりと嘲ったのに?」
それを言われて、都子がびくりと身体を震わせた。
嘲るなんていう強い言葉を使われて、悠輔も少し戸惑う。
「なんの遠慮もいりませんよ。因果応報と言いたいなら、我々はそれについては部外者ですから、口を挟んだりはしません」
――それでも、助けますか?
まるで、悪魔の囁きのようだった。
地面に向けた懐中電灯の照り返しと、月に照らされた中で、弘はこちらをまっすぐに見ていて、織歌はちょっと困った風ながらも、弘の問いへの回答を待っている。
「どうします? まあ、大事を取らずとも何もない……という可能性もなくはないですよ? なんといっても何が起きるかわからない、ですから」
どこか挑発的な気色の乗った視線を寄越しながら弘は言う。
都子が悠輔の方を心配そうな視線で見てくる。
だから、悠輔も複雑な気持ちのまま、口火を切った。
「……そりゃ、その、怒ってないって言ったら、嘘になるけど、さ」
「……私も、そう……でも、後味が悪いのは、嫌」
都子も同じだったらしく、悠輔の言葉に少しほっとしたように口を開いて、そして強い決意の滲む声で最後は言い切った。
「おーけー、わかりました。それなら引っ張られる事はないでしょうし、大丈夫でしょう」
そう言った弘は胸元で揺れるホイッスルを手にすると、躊躇うことなく口にあてがい、強く息を吹き込んだ。
しかし、そこから悠輔や都子が思わず身構えた耳を劈くような甲高い音は出ない。
ただ、息が漏れるような、すかすかとした甲高い音が僅かにだけ響く。
「犬笛……?」
ぽつりと、都子がそう呟いた。
「で、怖いもの知らずコンビというのが、津曲恭弥さんと勾田深雪さん……ですか」
「はい……」
弘曰く、悠輔達が正面玄関から入ったのに対し、彼女達は裏口から入って、地下をまず片付けてから二階、という経路を通ったらしい。
んー、と弘が眉間にしわを寄せた。
「単純に調べる面積広すぎるから、やっちゃった方が楽かな……織歌はどう思います?」
「そこは弘ちゃんのコンディションにお任せしますよ。多少の恐怖や擦り傷ぐらいなら良い薬になると思います」
ですよねー、と言いながら弘は眉間のしわを伸ばすように、ぐりぐりと揉みほぐしている。
なんの相談なのかという点は、悠輔も都子もわからない。
「というわけで、藤代さん、島田さん」
「は、はい」
「今のままだとマジで二人がどうなるかわからないですけど、ちょっとした恐怖体験やちょっとした擦り傷の可能性と、どうなるかわからない状況だったらどっちとります?」
「いや、そこは普通恐怖体験や擦り傷でしょ……」
都子も悠輔の言葉に頷いている。
弘が目を細めて、口を開いた。
「話を聞く限り、彼らだってあなた方をビビりと嘲ったのに?」
それを言われて、都子がびくりと身体を震わせた。
嘲るなんていう強い言葉を使われて、悠輔も少し戸惑う。
「なんの遠慮もいりませんよ。因果応報と言いたいなら、我々はそれについては部外者ですから、口を挟んだりはしません」
――それでも、助けますか?
まるで、悪魔の囁きのようだった。
地面に向けた懐中電灯の照り返しと、月に照らされた中で、弘はこちらをまっすぐに見ていて、織歌はちょっと困った風ながらも、弘の問いへの回答を待っている。
「どうします? まあ、大事を取らずとも何もない……という可能性もなくはないですよ? なんといっても何が起きるかわからない、ですから」
どこか挑発的な気色の乗った視線を寄越しながら弘は言う。
都子が悠輔の方を心配そうな視線で見てくる。
だから、悠輔も複雑な気持ちのまま、口火を切った。
「……そりゃ、その、怒ってないって言ったら、嘘になるけど、さ」
「……私も、そう……でも、後味が悪いのは、嫌」
都子も同じだったらしく、悠輔の言葉に少しほっとしたように口を開いて、そして強い決意の滲む声で最後は言い切った。
「おーけー、わかりました。それなら引っ張られる事はないでしょうし、大丈夫でしょう」
そう言った弘は胸元で揺れるホイッスルを手にすると、躊躇うことなく口にあてがい、強く息を吹き込んだ。
しかし、そこから悠輔や都子が思わず身構えた耳を劈くような甲高い音は出ない。
ただ、息が漏れるような、すかすかとした甲高い音が僅かにだけ響く。
「犬笛……?」
ぽつりと、都子がそう呟いた。
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