怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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3-1 肝試しと大掃除 side A

3 夜に笛吹く

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「で、怖いもの知らずコンビというのが、津曲つまがり恭弥きょうやさんと勾田まがた深雪みゆきさん……ですか」
「はい……」

ひろいわく、悠ゆうすけ達が正面玄関から入ったのに対し、彼女達は裏口から入って、地下をまず片付けてから二階、という経路を通ったらしい。
んー、とひろが眉間にしわを寄せた。

「単純に調べる面積広すぎるから、やっちゃった方が楽かな……織歌おりかはどう思います?」
「そこはひろちゃんのコンディションにお任せしますよ。多少の恐怖やり傷ぐらいなら良い薬になると思います」

ですよねー、と言いながらひろは眉間のしわを伸ばすように、ぐりぐりとみほぐしている。
なんの相談なのかという点は、悠輔ゆうすけ都子みやこもわからない。

「というわけで、藤代ふじしろさん、島田しまださん」
「は、はい」
「今のままだとマジで二人がどうなるかわからないですけど、ちょっとした恐怖体験やちょっとしたり傷の可能性と、だったらどっちとります?」
「いや、そこは普通恐怖体験やり傷でしょ……」

都子みやこ悠輔ゆうすけの言葉にうなずいている。
ひろが目を細めて、口を開いた。

「話を聞く限り、彼らだってあなた方をビビりとあざけったのに?」

それを言われて、都子みやこがびくりと身体を震わせた。
あざけるなんていう強い言葉を使われて、悠輔ゆうすけも少し戸惑う。

。因果応報と言いたいなら、我々はそれについては部外者ですから、口をはさんだりはしません」

――それでも、助けますか?

まるで、悪魔のささやきのようだった。
地面に向けた懐中電灯の照り返しと、月に照らされた中で、ひろはこちらをまっすぐに見ていて、織歌おりかはちょっと困った風ながらも、ひろの問いへの回答を待っている。

「どうします? まあ、大事を取らずとも何もない……という可能性もなくはないですよ? なんといっても何が起きるかわからない、ですから」

どこか挑発的な気色けしきの乗った視線を寄越よこしながらひろは言う。
都子みやこ悠輔ゆうすけの方を心配そうな視線で見てくる。
だから、悠輔ゆうすけも複雑な気持ちのまま、口火を切った。

「……そりゃ、その、怒ってないって言ったら、嘘になるけど、さ」
「……私も、そう……でも、後味が悪いのは、嫌」

都子みやこも同じだったらしく、悠輔ゆうすけの言葉に少しほっとしたように口を開いて、そして強い決意のにじむ声で最後は言い切った。

「おーけー、わかりました。それならでしょうし、

そう言ったひろは胸元で揺れるホイッスルを手にすると、躊躇ためらうことなく口にあてがい、強く息を吹き込んだ。
しかし、そこから悠輔ゆうすけ都子みやこが思わず身構みがまえた耳をつんざくような甲高かんだかい音は出ない。
ただ、息がれるような、すかすかとした甲高かんだかい音がわずかにだけ響く。

犬笛いぬぶえ……?」

ぽつりと、都子みやこがそうつぶやいた。
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