44 / 266
2-2 山と神隠し side B
9 意図的にあらず
しおりを挟む
「叔母である斎宮の倭比売による二度の支援と、弟橘比売による文字通りの献身。これで成し得たそれまでの平定に対して、伊吹山平定に向かう前に、ヤマトタケルは倭比売の草薙剣を手放すわけだけど、ヤマトタケルの伝説における女性はそういう側面が強い……なんで気付かないの?」
「いやあ、だって草薙剣だって、結局嫁さんとこに残したんじゃないですかあ」
呆れ気味に言うと、ロビンは沈痛な面持ちで頭を抱えて、暫くしてから顔を上げ、た・し・か・に、と一音一音を力強く言う。
「倭比売が授けた草薙剣は、最終的にヤマトタケルの妻の一人、尾張の美夜受比売に預けられ、それが熱田神宮として祀られた」
「だから、必ずしも妹の力を発揮したとは限らないと思うのですよね」
弘の言い分にううん、とロビンは唸る。
「これが美夜受比売がねだったことによるというのであれば、彼女はサムソンに対するデリラ、ヨハネに対するサロメ、英雄を英雄たらしめると同時に殺す運命の女……と、はっきり言えたのだろうけど、そういう話はないからなあ。尾張国風土記逸文では、剣自体の意思扱いだし。でも、彼にまつわる女性の傾向を消すまでにはいかなくない?」
「でも、そう言いきるには微妙だとおもうんですよね。だって、弟橘比売の入水の目的は海の神を鎮めることであって、それが日本武の東征を成功させた遠因であっても、それ自体がそれを願ったものではないのですから。であれば、最初から最後まで日本武の平定を願ったのは斎宮だけでしょう」
そう言えば、ぐぬぬ、とロビンは不満と納得を滲ませて唇を噛んだ。
そこにあるのは、コイツに言われるとは、という気配である。
ちょっとしばいたろかと思わぬでもないし、そんなことしたら体力的に弘が勝つ。
それ以上に、この兄弟子は紳士の国から来た紳士なので、文句こそ言えど、一方的にされるがままになってくれるだろうが、そんな趣味は弘にはない。
同じSでも弘にあるのはどちらかといえばスパルタのSだ。
「……思考は自由だよ、うん」
どこか遠くに視線をやって、ぽつりとロビンが呟く。
文字通りの見透かしは時として苛立つが、つうかあな橋渡しはしてくれる。
「まあいいや。今ので、アレが山鬼という恋情の辞賦にかこつけてタケルの安全の保障をしようとしたんじゃなくて、ただの不用意過ぎる発言だったのはわかったから」
「実際失敗したなあ、とは武くんを抱え上げた辺りで思いました」
それでも泥濘に乗って滑るのはちょっと楽しかった。
ロビンの呆れ返った視線が突き刺さる。
「そういえば、ロビンの方はどうだったんです?」
「ああ、タケルを優先してたからか。いやまあ別に? どうも何も、必死にしがみついてたけど?」
それは想像に難くない。弘自身もまずとっとと帰って来ることを最優先にさせたから。
「いやあ、だって草薙剣だって、結局嫁さんとこに残したんじゃないですかあ」
呆れ気味に言うと、ロビンは沈痛な面持ちで頭を抱えて、暫くしてから顔を上げ、た・し・か・に、と一音一音を力強く言う。
「倭比売が授けた草薙剣は、最終的にヤマトタケルの妻の一人、尾張の美夜受比売に預けられ、それが熱田神宮として祀られた」
「だから、必ずしも妹の力を発揮したとは限らないと思うのですよね」
弘の言い分にううん、とロビンは唸る。
「これが美夜受比売がねだったことによるというのであれば、彼女はサムソンに対するデリラ、ヨハネに対するサロメ、英雄を英雄たらしめると同時に殺す運命の女……と、はっきり言えたのだろうけど、そういう話はないからなあ。尾張国風土記逸文では、剣自体の意思扱いだし。でも、彼にまつわる女性の傾向を消すまでにはいかなくない?」
「でも、そう言いきるには微妙だとおもうんですよね。だって、弟橘比売の入水の目的は海の神を鎮めることであって、それが日本武の東征を成功させた遠因であっても、それ自体がそれを願ったものではないのですから。であれば、最初から最後まで日本武の平定を願ったのは斎宮だけでしょう」
そう言えば、ぐぬぬ、とロビンは不満と納得を滲ませて唇を噛んだ。
そこにあるのは、コイツに言われるとは、という気配である。
ちょっとしばいたろかと思わぬでもないし、そんなことしたら体力的に弘が勝つ。
それ以上に、この兄弟子は紳士の国から来た紳士なので、文句こそ言えど、一方的にされるがままになってくれるだろうが、そんな趣味は弘にはない。
同じSでも弘にあるのはどちらかといえばスパルタのSだ。
「……思考は自由だよ、うん」
どこか遠くに視線をやって、ぽつりとロビンが呟く。
文字通りの見透かしは時として苛立つが、つうかあな橋渡しはしてくれる。
「まあいいや。今ので、アレが山鬼という恋情の辞賦にかこつけてタケルの安全の保障をしようとしたんじゃなくて、ただの不用意過ぎる発言だったのはわかったから」
「実際失敗したなあ、とは武くんを抱え上げた辺りで思いました」
それでも泥濘に乗って滑るのはちょっと楽しかった。
ロビンの呆れ返った視線が突き刺さる。
「そういえば、ロビンの方はどうだったんです?」
「ああ、タケルを優先してたからか。いやまあ別に? どうも何も、必死にしがみついてたけど?」
それは想像に難くない。弘自身もまずとっとと帰って来ることを最優先にさせたから。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こちら聴霊能事務所
璃々丸
ホラー
2XXXX年。地獄の釜の蓋が開いたと言われたあの日から十年以上たった。
幽霊や妖怪と呼ばれる不可視の存在が可視化され、ポルターガイストが日常的に日本中で起こるようになってしまった。
今や日本では霊能者は国家資格のひとつとなり、この資格と営業許可さえ下りればカフェやパン屋のように明日からでも商売を始められるようになった。
聴心霊事務所もそんな霊能関係の事務所のひとつであった。
そして今日も依頼人が事務所のドアを叩く────。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる