怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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1-1 逆さまの幽霊 side A

10 織歌の仮説4

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「それは、怪談上に登場しない、けれど、いておかしくなかった誰かです」

なんともあやふやな言葉が織歌おりかの口から飛び出た。
その余りのあやふやさに一瞬、真由まゆの思考が止まる。

「オーリーカー」
「はい、端的に言えば、目撃者です」

説明が足りないと言わんばかりのあきれたロビンの呼びかけに、織歌おりかは即座に答えを口にした。
ななめ上の答えに、真由まゆは目を丸くする。

「目、撃者……」
「はい、目撃者、です。飛び降りをこの場で目撃してしまった、誰かです」
「だから、を見てしまったものは共鳴して校舎の外に慌てて出ようとする。間に合うはずもないのに、間に合えと、最悪をけたいと、あせり、おびえながら。そして、それが心霊現象を見たという観測者自身の恐怖とないまぜになる訳だ」

ロビンのその言葉は、やけに素直すなお真由まゆの胸の内に転がった。

「きっと、夕焼けの綺麗な日だったのでしょう。今日のように。きっと、窓越しに目があったのでしょう。私や真由まゆさんのように。きっと、それが誰だったかなんて、重要ではなかったのです。ここに焼きついた目撃者にとっての重要な情報は、見てしまった情景そのものと、その時にいだいた感情だったのです」
「そして、それがに在るだけの力に、志向性を与えた。結果、それは近しい条件下で再演をおこなうにいたった」

ロビンがその先を引きぐ。

「であれば、時間が限定されなかったのも納得なっとくだ。何故なぜなら、この志向性においての繰り返しのトリガーは、情景の近似きんじと観測者の存在だから。情景の再現においてのみ時間的制約がされるが、トリガー自体に明確な時間は含まれない」

真由まゆが眉間にしわを寄せると、ロビンがそれを見て小さく笑った。

「何、簡単な話だよ。今日みたいな夕焼けが見えてれば、冬だろうと夏だろうと観測者に対してかえしがおこなわれる。冬と夏じゃ、夕焼けの見える時間なんて違うでしょ?」

――日の長さが違うんだから。
そう言われて、なるほど、と真由は思った。
そこで、別の事を思い出す。

「でも、この噂って、一旦途切れたんですよね」
「そうですね。でも、聞いた話だと、途切とぎれたのは二十年ちょっとぐらい前らしいので、かつての生徒の子供がここに通うようになって親が教えたとか、そういう可能性がありますね」
「うん、途切とぎれたのは別に問題ないと思う。ウワサ話の流行はやすたりは当然のものだから。そして、それに合わせて潜在化していたものが顕在化するのも、よくある話だよ」

専門家二人の言い分に、そういうものなのか、と真由まゆは思うしかない。
織歌おりかがにこりと真由まゆ微笑ほほえみかける。

「というわけで、真由まゆさん。納得なっとくされました?」
「えっと、はい……」

むしろ、ここまで懇切こんせつ丁寧ていねいに解説してもらって良かったのだろうか、と少しばかり思うほどだ。
織歌おりかがロビンに顔を向けると、ロビンは一つうなずいた。

「オリカ、いいよ、やっちゃって」
「はい。そしたら、はらっちゃいます」

織歌おりかが踊り場に腰掛こしかけた二人の間を通って、窓に向かって行く。

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